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そんなの知らないんですが?

 あの日から一週間がたった。アスタリオン殿下からはあれから連絡がない。きっと、魔物の討伐に行くための準備で忙しいのだろう。

 結界を強化したおかげもあってか、今のところこの国で魔物の被害はでていない。しかし、魔物の急増という根本的な原因を解決することはできなかった。魔物が増えたせいで、人や物の行き来が出来なくなってきたのだ。街では既に物価が上昇するなど影響が出てきている。魔物が増えてから、国は討伐隊を向かわせてはいるが、増え続ける魔物に討伐がおいつかないのだそうだ。そこで、アスタリオン殿下を向かわせることに決めたのだろう。


 (殿下は強い、きっと無事に帰ってきてくれるって信じてるけど……)

 「行く前に……もう一回会えたらなぁ」


 「誰に会いたいんだ?」

 「うわぁ!!?……で、殿下!?どうしてここにっ、ここ、私の部屋ですよ!??」


 声がした方を向くと、窓の外にアスタリオン殿下がいた。おおかた魔法だろうが、それなりに高さのある場所に急に人がいると肝が冷える。


 「何か用事でもあったんですか?とりあえず、何もない部屋ですが良かったら入ってください。外は冷えますよ?」

 「いや、少し話があっただけだ。遠慮しておく。」

 「えぇ、なんだか私が申し訳ないのですが……。」

 「さっそく本題なんだがな」

 「わぁお、無視。」


 私の話も聞かず、殿下は要件だけを伝えるつもりらしい。久しぶりにあったのだから少し話したかったのだが、殿下は違うのだろうか。


 「明日からしばらく会えなくなる。」


 ここ一週間私達はあっていない、それをわざわざ伝えにくるということはーー。


 「……それは、魔物の討伐に向かうのですか?」


 「なんだ、知っていたのか。そうだ、相当数がいるらしくてな、増え方からして何か異変が起きているとみて間違いないないだろう。俺は魔物の討伐と原因の調査、できれば解決を任されている。いつ戻れるかわからないからな、契約もあるし、次に会うのは俺が討伐から戻ってきた後だ。それを伝えにきた。」


 ついに殿下は討伐へ向かうらしい。ここから先、殿下が向かう先に何があるのか、私は知らない。


 「そうですか、気をつけて行ってきてくださいね。」

 「あぁ」


 この三年、殿下と話す中で小説の主人公としてじゃなく、この世界に生きる一人の人間としての殿下を沢山見てきた。()()()()()にとっては、初めてできた友達なのである。


 「大変なこともあると思いますけど、しっかり食べて、寝て、休んでくださいね。」


 「わかった」


 「討伐も大事ですけど、一番は殿下の命です。危険な時は逃げてもいいですからね?」


 「逃げてもいいのか?」


 「はい、私が許します。何か言われたら"命大事に"と、聖女からのお言葉だとでも言っておいてください。文句がある人は私が黙らせます。」


 「お前、物騒になったな。いいのか?聖女様。」


 「誰かさんの影響ですね。いいんですよ、第二王子殿下。」


 いつものように軽口を叩き合う。気づいたら結構時間が経っていたようだ。


 「それじゃあ、俺はもう行く。」


 「あっ、ちょっとだけ待ってください!」


 帰ろうとする殿下を引き止める。殿下がこれから向かうのは戦場、安全の保証なんてない。だからせめて、私ができる精一杯で、殿下を守ろう。


 「殿下が心身共に元気で帰ってこれますように。」


 祈る、ただ一心に。神に、世界に、運命に。


 (殿下が怪我をしないように、つらい思いをしないようにお守りください。)


 「……はい、いいですよ!それじゃあ、行ってらっしゃい!!」


 「あぁ、行ってくる。システィ。」


 そうして殿下は向かっていくのであった。


 その先に待っているのが何か、このときの私は知る由もなかったのであるーー。






〜一年後〜


 「はぁ!?結婚!!?私が!!?」


 魔物の討伐が終わり、討伐隊が帰ってきたと嬉しい知らせが街を賑やかせていた夜、私の下へ一通の手紙が届いていた。

 国の紋章が印されていたそれには、私にとって信じられない内容が記されていたのだ。


ーー聖女システィアを、此度の討伐隊の英雄アスタリオン・エーゼロッテの妻とするーー



アスタリオン(あいつの部屋、物が少なかったな……。聖女はあれが普通なのか?王宮の使用人でももっといい部屋に住んでるはずだが……。)


 スルッと帰ってきちゃったアスタリオン!

 あの手紙はどういうことなのか!!?

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