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おかしな侵入者3(アスタリオン視点)

 「第二王子殿下にご挨拶申し上げます。」

 夜になり、ようやくあいつがやってきた。護衛に会わないためとはいえ、毎回窓から入ってくるのに挨拶だけは堅苦しい。


 「あぁ、座れ。」

 今日の飲み物には例の自白剤を混ぜている。頃合いを見て、探りを入れていこう。


 「失礼いたします。……では、今日の話ですが……」



 こいつがきて10分はたっただろうか、いつもはこのあたりで話が終わり、帰りたそうにしているのだが、今はどこかボーっとした様子である。薬の効果が出始めているのだろう。


 「聞きたい事がある。お前はこの国の聖女で間違いないな?」

 「はい、私は聖女の、システィアです。」


 よし、薬はしっかり効いているらしい。


 「お前は教会の見習いだと言っていた。俺に嘘をついたのか?」

 「いえ、仕事内容は見習いとほぼ変わりません。それに、神に使える身としてはまだまだ、見習いのような、ものなのです。」

 「そういうことか……。本人が嘘だと思わなければ神聖力に影響はないということか。……では、お前はどうして俺のもとに来たのだ。」

 「それは、殿下が……、殿下が、かわいそうだったから。」


 「かわいそう、だと?」


 「殿下は、何も悪くないのに、誰も、助けてくれないから。」




 何を言ってるんだ、こいつは。




 「悪魔の色を……、持ってるんだ。それだけで、理由なんて十分だろうが。」

 「生まれ方は、誰にも、選べない。黒い髪も、赤い瞳も、殿下だけの特別なもの。怖い色じゃない、殿下の、色。」

 「……特別?そんな訳あるか!!……この色を持って生まれて、良いことなんか、一つもなかった。この色があるから俺は、誰からも忌み嫌われて、家族にさえ、普通に会うこともできず、ずっと一人で……っ。」

 「だから、ここに来たの。貴方が、少しでも幸せになれるように、自分を、認めて、あげられるように。」


 「は?」


 「貴方は、確かに強いけど、それでも、一人にはさせたくなかった。……味方が、いるんだよって、知って、ほしかった……。」 

 「なんで、お前が、そんな」

 「だって……誰も、助けてくれないのは、つらい、から……。」


 本当に、何を言ってるんだ、こいつは。

 この色は、呪われた色だって、関わると皆不幸になるって、そんなの当たり前の話なのに。貴族で、ましてや聖女のこいつが、なんで、会ったこともない俺のために……。


 「意味が……わからない」

 「意味なんて、いらないんだよ。殿下は、まだ子どもだから、つらい時はつらいって言って、助けを求めて、いいんだよ。」


 そう言って立ち上がると、俺より小さな、細い腕を伸ばして、俺の頭をそっと抱き寄せた。

 大丈夫、大丈夫だよ。と震える子どもに言い聞かせるように、何度も何度も、優しく俺の頭をなでた。




* * * *


 あの後、魔法で記憶を消して帰らせたんだよな……。

 あれから俺も警戒をといて、システィにももっと気軽に話すように言ったんだよなぁ……。そしたらなんか、どんどんポンコツなとこがでてくるし、アホだし、鈍感だし、変なとこばっかだし……。だけど、どうしても目が離せなくて、気づいたらこいつなしの生活なんて考えられなくなっていた。


 「はっ…!!殿下…!!みてください!!このケーキ、食べすすめると中にソースが入ってましたよ!!すごい!!」

 「ん?良かったな。」

 「はい!!味が変わって、飽きずに食べられます。天才ですね!!」


 まるで小さな子どもみたいに喜ぶこいつを見ていると、ささいなことでも特別なことのように思えてくる。この笑顔をずっと見ていたい。

 幸い、第二王子と聖女、地位的な問題はないだろう。あとはどうやって周りを黙らせるかだ。外堀は気づかれないように、少しずつ埋めている。

 悪いが、こいつに選択肢はない。絶対に俺のものにしてやる。


 「ん?殿下、なんか悪い顔してますよ……。何するつもりですか?」

 「悪い顔とは失礼だな。何もしねーよ。今は、な。」

 「うわぁ~、悪い人だぁ〜。」


 システィは軽口を叩きながら帰りの支度をしている。もうそんな時間なのか、今日はいつもより時間の流れが早く感じたな。


 「では、失礼いたします。」

 「あぁ、また明日。」


 システィはいつものように窓から出ていく。帰らせるのは今だけだ。



 さぁ、そろそろあいつを手に入れる準備を始めるか。

アスタリオン(この自白剤、理性を薄くするタイプだったよな……。また使えるかもしれないし、取っておくか……。)


システィア ブルブルッ(なんか、急に寒気が…?)

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