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二話
あたりを見渡しても、木しか目に入らない。
他にもクラスメイトが居たはずだがどこに行った?
「きゃ、キャァァァアアアア!!」
この声は、咲也さんッ!? 一体どうしたんだッ!?
「こ、このッ!!」
あ、和也の声が聞こえる。
サッカー部主将だし、放置で良いか。
「それより、【ステータス】っと」
何か増えてるな。
魔力はまあ、分かる。 スキルポイントは......、まあツリーに関する事だろ。
「ここは......、何処だ?」
進化、これが解らねェ。 いわゆるLvか? まあ、そう予想しておくか。
「で、進化ってどうやってするの?」
はいここ、重要。
魔物倒せば良いの? 何すれば良いの? と言うわけだ。
「まさか、ゲームじゃあるまいしな。」
生き物を殺すだけで強くなれるのなら技術なんて要らない。
究極論、手さえ有れば、体が有れば最強なのだ。
うん、あり得そう。
滅茶苦茶あり得そう。
あの女神(仮)は、面白かったらなんでもしそうな雰囲気がある。
割とマジで。
「って、そんな事はないか。」
確かに極論、鍛え上げた肉体が最強といえど、魔法要素が加わればどう転がるか予想がつ
かない。
うーむ、中々に考え物だ。
だから、面白い。
「帰れそうなら、最強になる手段を探るのも良いな。」
まあ、辿り着くまでに最強の一角になってそうなものだが。
あの女神が何を考えているのか分からない訳ではない。
アイツからしたら、俺たちはアニメの主人公や登場人物なんだろうな。
だから、簡単に死なないように俺たちに武器という名のチートみたいなものを渡したん
じゃないだろうか?
俺たちにわかりやすいように、こんなステータスと言う具体的なものを用意したのでは?
物語がつまらなくならないように目的を用意したんじゃないのか?
「って、推測しても意味ないか。所詮、状況から判断した妄想だしな。」
はあ、女神に関しては放置しておくか。
さて、ここから俺の能力検証と行きますか!!
「と言うわけで、模倣。お、反応ありか。」
周辺に転がっている木や石に反応してるな。
発動っと。
「うわ、しょっぼ。」
手に木の棒が現れるけど、それだけ。
それ以外は何も無い。
「土汚れとかも無いのか。優秀だな。」
これなら、服を複製するのも良いかもしれない。
まあ、壊れた時どうなるのかによるけども。
「っと、【ステータス】」
*ステータス* 名前:月田 光真 種族:人族
進化:1
魔力:9/10
スキルポイント:0 スキルツリー名:贋作者 保有スキル:模倣
* *
「進化は無し、消費魔力は1って所か。」
時間経過による魔力消費に関しては現在不明。予想だが、無いと思うが。
破壊した時の挙動はどうなるか、だな。
ポキ。
「普通の木と同じ感触だな。さて、模倣」
模倣したものに反応無し。 サイズ的な問題なのか、模倣したものを再度模倣出来ないのか。 ふむ、ここも検証内容だな。 先程と同様、木の落ちてる1Mぐらいの枝を模倣して......。
「ここも同じ、か。じゃあ、模倣」
手に持っている枝を模倣する。
へえ、模倣可能か。
じゃあ、理論上模倣したものを模倣し続けることが可能であり、模倣したものは本物であ
るのか。
「宝石とか、模倣しまくったら金が滅茶苦茶ゲットできんじゃね?」
今では意味がないが、金稼ぎの手段の一つではあるな。
やりたくはないが。
「っと、そろそろ移動するか。」
他の奴らがどこに向かっているのか知らないが、見通しの悪いここに居続けるのは悪手だ
ろう。
しばらく、歩けば開けたところに出るだろう。
*第二話:接敵*
ギギャッ!!
森を歩き始めて早、1時間(腕時計を見ながら)。 初めて見つけた人型の生物がゴブリンとは。
「うわぁ......。」
分かってはいるが非常に醜い。
胴体に釣り合わない不自然な顔のデカさ。
緑色の体色。
「と言うか、なんで剣を持ってんだよ......。」
まあいい、これを模倣して......、ッ!?
ギギャギャッ!!
「二匹目のお出ましとは、チュートリアルにしても武器ぐらいくれませんかねえ?」
俺氏、やや涙目。
まあ、仕方ない。
この世の不条理に嘆いたところで何も変わりはしないのだ。
コンビニで1円玉がなく九円のお釣りをもらう事だって、寝ぼけながら歩いていたら犬の フンを踏んだ事だって全て嘆いても仕方ないのだ。
「って、レベルがチゲーよ!!」
ギギャッ!!
はあ、なんで俺異世界いるんだろうか? って、ぶなッ!?
横から振り下ろされた剣をギリギリで避ける。
びびって目を瞑っていたが分かる。
前髪を掠って眼前に振り下ろされたことが。
「おいおい、笑えねえな。」
冗談を言う暇があれば、主人公ムーブを醸している暇があれば、模倣しろ!! 俺っ!!
「落ち着け、落ち着けよ、俺。慌てる時間じゃない。」
言い聞かせるように俺はそう言う。
落ち着けるわけじゃない。常人より胆力が多少あるとは言っても所詮凡人。
足は震えている。
万全なんぞには程遠い。
「で、それが何だって?」
ギギャッ!!
ゴブリンが踏み込んでくる、後ろから。
数の有利を利用しやがって!! こちとら武器無し、防具無しの雑魚だぞ!!
「模倣ッ(ミミック)!!」
手に錆びた鉄の剣が現れる。
正眼に構える? そんな気は一切ない。
たかが、柔道部の雑魚に主人公性を求めるな。
泥臭く生き残ってやるよ。
「オラよッ!! っと!!」
まずは一体目。
放り投げられた剣に、釣られている。
やまなりでコントロールも良くない。
だが、警戒対象は移ったッ!!
「舐めんじゃねェぞ、落ちこぼれ部員をなあァ!!」
打つてはここに、残り8回。 使い切れば、どうなるか予想もつかない。 だからといって、使わずして死ぬのは本末転倒。
死ぬ時は足掻くだけ足掻いてやんよ。
「模倣ッ(ミミック)!!」
剣が俺の手元に現れる。二刀流って奴だ。まあ、そんなことはどうでもいい。 さあ、動け。俺の体ァァァァアアア!!
「ドラッ、シャぁぁぁあああああ!!」
剣を交差させ一体目を弾き飛ばす。 上から落ちてくる二体目。こいつは棍棒かッ!!
「だが、無問題だッ!!」
跳ね起きる。
雑魚の癖に連携してんじゃねえ!!
「疾ッ!!」
右手の刃が相手の棍棒より早く突き刺さる。
グギャ?
ふっ
「死にたくねえなら、気張れよ。俺」
酔ってんじゃねえぞ、ここからが本番だ。
「行くぞ!!」
ここからが本番だ。 血が垂れている死体を蹴り飛ばす。 跳ね起きる。 相手も獲物から、敵とようやく認めたようだ。
「だがもう遅い。」
俺の得手物は二つ、構えは我流。
相手の得手物は一つ、構えは我流。
条件は違う、不平等だ。
勝つ方程式はない。負ける方程式は用意していない。
死ぬ方程式は、存在させない。
「イキるのも大概にしとけよ、俺。何が攻略してやるだぁ? ちげえだろ。チュートリアル も及第点に至ってねえんだ。覚悟を決めろ。」
過去を見ろ。思い出せ。「経験」を。
先輩や先生、同級生にボロクソにやられまくった過去を。
扱う武器が体から剣になっただけ、基礎は変わらない。
ならば、過去に負け続けた先輩や先生のそれを、技術を『模倣』しろ。
「基礎は変わらねえ、違うのは応用。心構えは置いておく。お前の意志を最初に問う気もな
い。」
主人公でないから負けるのは尚更許容できない、雑魚はザコなりの意地を張らしてもらお
う。
「結果負けるのは許さねえぞ、俺。死ぬ気なんぞ、もうとうないからな。」
『模倣』
3本目の剣が眼前に一本。 襲いかかってきたゴブリンの眼前に現れる。 せいぜいビビれ。
「破ァ!!」
その間に勝たしてもらうからよ。
俺が突き出した左手の剣は先程現れた剣の影から現れるようにゴブリンに刺さった。
勝負、有り。戦った時間、合計にして訳40秒。
「......。」
礼、死にゆく敵に。
「ありがとうございました。」
何やってんだか、俺は。
馬鹿じゃねえのか? 否、やりたかったからやった。
返り血が、俺に付く。
爪先から、靴から、地面全体に広がってゆく。
徐々に徐々に、広がる。
不思議と吐き気はしない。
罪悪感もない。
やりきったと言う感情もない。
嬉しさも
悲しさも
憂鬱さも
怒りも
何も無い。
ただ、ひたすらに
「気持ち悪い」
気持ち、悪い。
気持ち、、悪い。
気持ち、、、悪い。
唐突に感じる限界を超えたモノが爆発的に心を支配する。
「嗚呼、これが。」
殺しの感触か?
ドサッ......。
膝から崩れ落ちる。
グサッ、
剣が突き刺さる。
「お、お、おェェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ、っか、 カホッ。」
出てこぬ、胃液を出し続ける。
遅れてやってきた罪悪感と共に。
あたりに鉄臭さと、酸っぱい匂いが充満する。
四つん這いになり、吐いて吐いて吐き続ける。
何も無い空気を、胃液を、唾を。
何時間経っただろうか、それは唐突に治った。
「ヒグッ、」
ようやく、落ち着いた。
心が、罪悪感が吐き出された。
「ふっ、」
口元を拭う。
「はあ、ザコでも意外となんとかなるもんだな。」
出てきた感想はそれだけだった。
他の感想は、意外にも出てこない。
「ぺっ、ぺっ、酸っぺえ。」
口に残る胃液が酸っぱいな。
あー、気持ち悪い。
「全く冗談じゃない」
本当に。
「異世界は二次元で十分だっての。」
こんな辛い思いはしたく無かったからな。
「全く、一般人に異常を求めるなよ。異世界は憧れるぐらいで十分なんだよ。」
本当に憧れるぐらいで十分なんだよ。
「誰が好き好んで、倫理観の低い世界に来たがるんだよ。」
帰れるのなら今すぐ帰りたいね、本当に。
「あ、濡れてる。」
あー、気持ち悪い。かと言って森で服を脱ぐのもな......。
諦めるか。
「はあ、困ったもんだよ、マジで。」
そう言い、俺は立ち上がる。
いい加減、ここにい続けるのもな。
今は運良く何も来ていないがいつか、モンスターがくる。
さっきみたいにゴブリンならいいが、獣みたいなやつや予想もつかない化け物が来たら何
も出来ずに死ぬ。
せっかく、運良く生きてるのに死にたく無い。
ああ、本当に。
「っと、その前に。」
ゴブリンの持っていた剣を突き立てる。 クラスメイトや、モンスターが来て倒したり盗らないと良いが......。
ま、その時はその時か。
これは、俺がここに来た証と共に初めての殺人の証でもある。
始まりの証だ。
さあ、始めるか、俺の旅を。
まあ、最初の目標は決まってる。
まずは、俺たち以外の人間と会うことだな。
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