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1話*1話:神との邂逅*
「ようこそ、異世界の勇者達よ。」
声が聞こえる。
ここは......。
「何処だ、ここ?」
横から俺と同様の疑問を、先ほどの声の主に叩きつけるヤツがいる。いや、マジで何処だここ?
見た目は白い。
ひたすらに白い。
地平線も、空も何もかもコントラストが消え去ったかのような世界。
ここにある色は、俺と俺のクラスメイトの計30人の色だけだった。
「ひぃっ!?」
小倉さんが悲鳴を上げた。
「み、みんな!! 落ち着いて、ほ、ほら深呼吸、深呼吸。スーハー、スーハー。」
慌てるように、イインチョ......、いや、式宮さんがそう声をかける。
ふむ、ここは何処だ?
って、落ち着いてられるかぁー!!
心臓バックバクだよ!! めっちゃ緊張してるよ!!
主人公ムーブかましてたけどそんな余裕ねえよ!!
考えてもみろよ!! 学校終わって、HRの時に頭を上げたらそこは白い空間だったって、どう考えてもおかしいだろ!!
なんで、創作の主人公は余裕なんだよ!! 頭おかしいんじゃねえのッ!?
いや、俺だって異世界とか召喚とかに憧れてたけどさッ!? 呼び出しておいて放置って有り得んだろッ!! 仕事しろよ神ッ!!
と言うか、状況説明プリーズ!! 神様とかさ!! なんか、超越者的なのじゃロリとか、絶世の美人とか、お爺さんとか、くま人形とかが現れんじゃ無いのかよ!! なんで誰もこねえ!?
「え、えっと、これって流行りの異世界転移とかってヤツ......、かな?」
「何言ってんだ、碓氷? そんなもん、アニメの見過ぎだっての。」
おい!! 否定するなら震えてる声をどうにかして根拠を示せよ!! 三野上ッ!!
「け、けどこの状況から考えたらそうとしか考えられない!! だよな!! 光真!!」
俺に振るんじゃねぇー!! 気の利いた答えなんて言えられないぞっ!!
「え、えっと......。」
「コーマに答えられるかよ、しっかしほんとにどうしようか。」
さりげなくディスってんじゃねえよ!! 三野上!! 確かに、インキャだけどセリフ枠ぐらい寄越せよ!!
「キャハハッ、マジウケる~? オタクどもが妄想で何か反してるし~。」
「じゃあ、お前も何か建設的な意見を出せよ。山梨」
いいぞー!! 三野上!! もっと言えー!! そこ、手のひらクルクルとか言うんじゃねえぞ!!
「妥当なところで特撮の撮影とか~、あとは~、夢とか~、そんなところっしょ。」
「少なくとも、特撮の撮影はあり得ないわ、山梨さん。」
そういうと、彼女は、日山さんは俺を殴ろうと......、えッ!? なんでッ!?
だがその拳が届くことはなく、俺の眼前で不自然に止まる。
「他人でも殴れないのね。」
「きゅ、急にやらないでくれよ......。」
「善処するわ。」
「まあ、光真くんの協力もあって少なくともここが地球では無いことはわかったわね。」
「は? チョーシ乗んなよ、日山。アンタが止めただけじゃ無いの? そんなのに騙される人なんていないっしょ? キャハハッ。」
「事実でしょ? ならあなたも、光真くんを殴ってみる? まあ、無駄でしょうけど。」
「俺が試してやるよ。おらよッ!?」
先程と同様に三野上の拳が碓氷に届く直前不自然に止まる。
「ああ゙? 痛くねェが、壁みたいなものに阻まれてやがるな。さっきまでは無かったのに......。」
「物質的なものでは無いでしょうね、少なくとも......。」
「おいぃぃぃいいい!? 三野上!! 急に殴ろうとしないでくれよ!!」
「すまんすまん。ま、怪我無かったしいいじゃねえか。」
「貴方ねぇ、人を殴ろうとしたのに謝罪の言葉もないの? ほら、イインチョからも何か言ってやってよ。」
「まあまあ、吉礼さんも落ち着いて、ね?」
さすが、氷の風紀委員!! そこに痺れる、憧れるゥ!!
さて、冗談はさておき、本当にどうしようか。うーん、あれを言ってみるか......? 本当に異世界なら使えるだろうし。
「す、『ステータス』わッ!?」
「どうしたッ!? 美園!?」
俺が試そうと思った瞬間、俺の隣にいる美園さんが俺の思っていることを試した。
うん、出るんだな。よし、俺も。
「『ステータス』うわッ、マジか......。」
ボソッと口にしてみると、そこに薄灰色の半透明の画面と何かしらのメッセージが書かれた物が見える。
「は、灰色の画面が......。」
「『ステータス』画面!? マジだ!! 本物だ!! マジの異世界だ!?」
興奮するな、小田。同じ穴の狢だがそこまで興奮することじゃ無い。
まあ、小田の反応を見たクラスメイトが次々に『ステータス』と唱え始める。
反応は千差万別で結構面白い。ま、他人事では無いんだけど。
俺も文字読むか。
*メッセージ:神より*
ようこそ新たなる世界へ。この世界に貴方達を呼んだ張本人の女神です。(-ω-)ノシ
意外と、ステータスを開くのに時間がかかりましたねwww。
楽しく見させてもらいました。
さて、本題に移りましょう。ここからは、私からのお願いと言うなの命令なのですが貴方達には私が管理する世界。名前はまだありませんからニュー・アースとでも言いましょうか。
そのニュー・アースに新たな文化を広げてほしいのです。
世界としては平和で従順なのですが、平和が続くといかんせん面白みに欠けます。ですので、まあ、この世界に新しい風を吹き込んでほしいのです。
最も、それだけでは面白みに欠けるでしょう。
ですので、一つ。私から課題を上げましょう。
この世界にはダンジョンがありまして、その中に言うなればラストダンジョンと言う異世界に繋がるダンジョンがあります。
そこを完全攻略したら、そのダンジョンの異世界の接続先に地球を選んで差し上げましょう。つまり帰られるという事です。
帰る際には元の位置、元の時間、元の体にしますよ? 能力や経験も引き継げます。
これぐらいは、譲歩してあげましょう。私の身勝手で呼び出しているのですから。
この空間から出るには、下にある転移と書かれたボタンを押せばいいです。
まあ、早まらずこの画面の右上にある×を押してステータスを確認すればいいと思いますが......。
説明はここまでです。では良い旅を。
*終了*
は、ふざけんなよ。
「何言ってんの? この神とかっていうヤツ、笑えないんですけど~?」
「う、嘘......。か、帰れないのッ!?」
「ゆ、誘拐だぞ!! こんな事!! け、警察が黙ってねえぞ!!」
一斉に騒ぎ出すクラスメイト達。
言う内容は様々だがそれら全ては、家に返せと言う部分で共通している。
と言うか、俺も言ってる。
異世界に連れて行くのは全然いい!! そこは構わない!! けどさッ!! パソコンの同人誌のデータだけは消してくれ!! 頼むから!! あれを、知らないところで見られてら羞恥心で死ぬから!! マジで!!
と願っても反応なし。仕方ない、諦めて×ボタンを押すか。ん? なんか別の画面が......。あー、こう言うタイプか。そうか......。
*ステータス*
名前:月田光真
種族:人族
スキルツリー名:贋作者
保有スキル:模倣
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中々に、面白そうと言うかネタというかなんというか。とりあえず、これは酷い。
周りから聞こえる声には回復士とか魔術師とか聞こえてるのに俺は贋作者だぜ? それにスキルツリーのところを押したら別画面に出たけどほとんど真っ黒って。もう少し親切にしてくれないか?
「点火で、出たッ!?」
あ、もう使えるのか。
俺も使ってみるか。
「模倣ん?」
なんの反応もない。うんともすんとも言わない。ゴミか? これ。ゴミスキルか? って、模倣する対象がないのか? 使い辛すぎる、これは。なんでも模倣できたとしても、扱い辛い部分が多そうだな。って、冷静にしてるけど内心滅茶苦茶驚いてたりする。さて、確認することはこれだけか?
そう思い、辺りを見渡すとほとんど誰もいない。
まだ、二、三人残っているだけだ。
そう思いつつ、俺は模倣で何か模倣できないかと辺りを見渡す。
「ほんとに何もねえな。ここ。」
結局、この”空間”は模倣できなかった。流石にそこまでチートでは無いか。まあいい。とりあえず俺もここを出るとするか。待たせるのも悪いしな。
そう考えると俺は、転移ボタンを押した。