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『やあ、お昼ご飯を食べ終わったのかな?』
「ああ、じゃあ早速ログイン頼む。」
『ほいほーい。あ、jobは消せるけど消したらLv.がリセットされるから気をつけてね。』
「マジか。」
『そゆわけで、じゃあ、Seeyounexttime!!』
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「まだ、夜か。と言うか、ゲーム内時間表示できないのか? ステータス」
そう言い、ステータス画面を出し設定をいじる。
「よし、ゲーム内時間とリアルの時間は紋章を見たらわかる様にしてっと。画面の色は黒にしとこう。文字は白色でいいか。」
などと設定をして夜の街を歩き始める。
NPCこそ少ないもののプレイヤーは結構な数おり騒々しいまでも行かないものの賑やかではある。
「どうすっかなー。」
悩みながら、ギルドの方へ向かう。
現在、ゲーム内時間3:28分位であり空を見てもやや青くはなっているもののまだまだ暗い。
そんな中でも、ギルドは開いていた。
「いらっしゃい!! お、坊ちゃんは酒は飲めないよ。」
居酒屋としてだが。
(参ったな。コレじゃあ依頼が受けられないな。)
あたりを見渡し直ぐにそう悟る。
カウンターは閉じており昼間には無かった椅子や机が並べられており様々なプレイヤーやNPCが酒やつまみを飲み食べている。
さすがに場違いな空気に当てられ逃げる様にギルドを出る。
「はあ、どうしようかなぁ。」
ため息を吐きつつ早速予定が狂った事に嘆く。武器を買いたくとも武器屋が開いておらず、お金もない。いや、SPがあるにはあるが換金するのは躊躇われる。そんな状況でまともにプレイしようとしているのがおかしいだろう。
「マジでどうしようか。一度、リアルに戻ってもいいかも知れないな。」
そう考えながらも、大通りを歩いてゆく。10分は歩いただろうか。いつのまにか、レイは街と外界を遮る門の前まで来ていた。
「君!! 初心者?」
唐突ながら声をかけられる。
「え、えっと。あなたは誰ですか?」
「なーに、しがない1プレイヤーさ。」
唐突に声をかけてきた青年に目を向ける。
多少暗いオレンジ色の髪の毛に、レイの見窄らしい初心者装備と見比べるのも烏滸がましい皮と鉄であしらわれた革鎧。
背中にあるのは矢筒と弓だろうか? 夜の闇の中でも自己主張するそれはレイが使っていた訓練用の剣弓とは程遠くより実践的でいながらカッコ良いとレイに思わせる。
「それより、間が悪いね。夜の時間帯はモンスターは強いしLv.も上がりやすいけど初心者には何にもできない時間帯だしね。」
「あー、アハハ。やっぱり何にもできないか。」
「リアルに40分位いるかここで二時間ぐらいぶらついてたらギルドも開くよ。」
「そうですか。教えて頂きありがとうございます。」
レイが欲していた情報をあっさり渡してくれた男性にお礼を言う。
「いや、良いって良いって。みんな似たような事になるし。」
「そうなんですか。」
「そうそう、この前も見た事だしね。じゃあ!! 俺は狩に行ってくるよ!!」
そう言い、爽やかに手を振り門を出る男性。
その様子を、見た後レイも門を出る。
「最初に一度、vsモンスターと洒落込むか。」
武器なし丸腰でどこまで戦えるのか試して見たいようだ。門を出て数分も経たぬうちに棍棒を持ったゴブリンを見つける。幸いにもレイには気づいていないようだ。レイは、そのゴブリンを見ると足元に転がっていた石を拾う。そして、全力投球する。
ゴガッ!!
見事、頭にヒットする。
ゴギャッ!!
怒り狂ったようにこちらへ迫りくるゴブリンを迎え撃つように再度石を拾い投げつける。
ブベギャッ!!
足にあたり転けるゴブリン。それを見て、走り出し全力で頭を叩き潰す。
グチャッ。
あまり聞きたくない音と共にレイの足によってゴブリンの頭部が踏み潰される。
「うぇぇぇぇええええ......。」
かなりの気持ち悪さがあるものの踏み抜いた部分がポリゴン片となっているため吐き気まではない。
ただ、胸に残る純粋な気持ち悪さがあるだけだ。
「ま、まあ、いいか。」
気分的には、良くないがとりあえず諦め、ドロップアイテムを見る。
「木の棍棒か。仮の武器として使えるかな?」
軽く振り回す。
「うん、バットみたいな感じか。手の部分は皮が巻いてあってささくれが刺さる心配もない......。と」
ほどほどに振り回す動きをした後、次のモンスターを探し出す。
「おーし、いたいた。」
後ろから、そっと近づくレイ。
ギギッ?
「ッ!!」
息を潜めながら、あたりを探るように伺うゴブリンから姿を隠す。
(まさか、バレたんじゃないだろうな......。)
背中に冷や汗が走る。が、しかしその思いは杞憂だったようで欠伸をした後また歩き出す。
「シャァ!!」
ドガッ......。
頭にゴブリンの棍棒がクリーンヒットする。
ピロン♪
「ん? なんだ? ステータス」
閉じていたステータス画面を開き通知がきていたjobのタグを開く。
「基本戦闘技術のLv.が上がってるな。あー、STRが上昇するのね。明確な数値が出てないからまあ、多少力が強くなるとでも思えばいいか。後は基本的な姿勢の補正とかか。」
棍棒を振り回してみると先ほどより心なしか上手に触れているように感じるレイ。
「おーし、やるぞー。」
そういい、棍棒をインベントリに入れてからまた夜の草原を歩き始める。
「今度は、スライムか?」
ポヨヨン♪
「やるかー!!」
最弱と有名なスライムを発見。グロいタイプではなく饅頭のようなタイプに安心しつつ、棍棒を振り下ろす。
ポヨン♪
「おっと、っと。弾力強くね?」
そう言いつつも、何度も殴る。
しばらくすると、動きが鈍り始め弾力がなくなりそしてとうとうポリゴン片となる。
「なんか、ごめん......。」
その様子が、あまりにも哀れであり思わず謝ってしまうレイ。ドロップアイテムの小袋(1000G入り)を拾うとしばらく手を合わせる。その後、またモンスターを探し始める。
「朝になるまでに基本戦闘技術のレベルをもう少し上げたいな。訓練じゃ、Lv.が上がんないらしいし。」
そう言い、しばらく狩りを続ける。
さすがに、遠距離系のスキルは育たなかったが基本戦闘技術のLv.が朝になるまでにLv.3となった事にはレイも予想以上で歓喜の声を上げた。
他にも、ドロップアイテムで棍棒のストックが15本当なり得た金額は優に1万を超える。
「そろそろ、街に戻るか」
そう言い、視界にとらえていた門の方へと歩き始める。十分もかからず門をくぐり、ギルドの方へと戻る。先程とは違い、街全体が活気に溢れている。
「このリゴン一つなんと100Gだよー!! 安いよ安いよ!!」
「おお、奥さんお目が高いねぇ!! コレは、昨日採れたてのギャッベだよ!! ほらほら、一つどうだい?」
活気あふれる屋台の人たちの声と辺りにいる人々の声の喧騒に包まれながら、レイは歩く。
あたりを物珍しそうに見渡しつつも、意外な事に気づく。
(ん? 返還というか、ポイントから換金したお金はどこに行くんだ? )
素朴な疑問が生まれ、少し気になり始める。思い立ったが吉日という諺通り、一ポイントだけ変換してみると手の中に100G現れる。
「こうなるのか......」
インベントリに入ると思っていたレイは少し意外な結末に驚くも納得する。
インベントリ内に入れられると使う時に一手間かかる。
そう考えるとやはり、こちらの方が便利というわけだ。
「まぁ、いいか。さっさとクエストを受けに行くか。」
またそう言い、歩みを進める。
暫くするとギルドに到着した。
さてさて、待ってましたとばかりにクエストのタブを押しクエスト一覧を開いてみるとかなりの数がある。
検索機能を使い、現在の自分に見合う依頼を探してみると幾つか存在する。
「お金が多くもらえるやつがいいな。」
「楽してはお金は稼げんぞ?」
突如、背後から見知った声が聞こえる。
「その様子からして剣弓を買う費用を貯めたいと思ってるようだな。」
「あっ、ニューズ教官。」
「朝というものはいい物だな。さて、話を戻すか。お金を貯めたいと言ってたな? お金を貯める方法はいくつかあるが......、最も簡単なものはやはりクエストをこなしつつモンスターを倒し続ける事だろう。」
「そうなんですか?」
「そうなるな。私も若い頃はしたものだ......。っと、今は関係ない事だったな。聞き流してくれ。」
(あれ? 可愛い? )
反応が可愛く思わずそう心の中で思うレイ。
言ってる内容は物騒極まりないがたしかに過去の苦労を思い出し、その境遇をレイと当てはめて見ていたニューズ教官の様子は多少可愛くは見える。
「で、金の稼ぎ方だが......、レイ。貴様はギルドから武器の貸し出し援助を受けているか?」
「い、いえ......。」
「なら受けた方がいい。剣弓などの特殊な武器はないが剣や簡単な弓ぐらいならば貸し出しはしてくれる。そうだ、貴様Swordsmanのjobは取っているか? 弓ならば矢は買わなければならないからな。」
「あっ、やっぱり取っていた方がいいんですか?」
「まぁ、な。剣弓よりも遥かに扱いやすいだろうがそれでもあるとないとでは天と地ほどの差が有る。それに、今後、剣弓を扱うのならばどちらも持っておいた方がいいだろう?」
「確かに、そうですね。早速取ってみます。」
そう言い、jobのタグを押し開いて初期に手に入るjobの中からSwordsmanを選択する。Swordsmanに付随するスキルは三つ。
【剣士】【剣】【基礎戦闘技術】だ。
最後の一つは説明は要らないだろう。このスキルは、統合され基礎戦闘技術のLv.が上がる。
次は【剣士】と【剣】だ。どちらも共通の効果なのは、剣状のアイテムを使用する事で姿勢や動きに補正がかかる。
次に、【剣士】にある効果は剣形状武器を携帯しながらの行動に行動補正+1とactiveskillの[間合い][払い][突き][凪ぎ][気合い]だ。
それぞれの効果は、文字通りで[間合い]は間合いに敵が入った時に発動すればクリティ
カル発生率向上(上昇率は【剣士】スキルレベル依存)である。
[払い]は、払う攻撃を行う際に発動すると払う攻撃のクリティカル率上昇と、基本ダ
メージ上昇となる。
[突き]は、突く攻撃を行う際に発動すると払う攻撃のクリティカル率上昇と、基本ダ
メージ上昇となる。
[凪ぎ]は、凪ぐ攻撃を行う際に発動すると払う攻撃のクリティカル率上昇と、基本ダ
メージ上昇となる。
[気合い]は、基本攻撃力が一時上昇(上昇率及びダメージは【剣士】スキルレベル依存)と、一部状態異常(混乱、魅了、気絶)に耐性(抵抗率は【剣士】スキルレベル依存)を持つ。
【剣】にある効果は、剣形状の武器の補助及び、作成時に類似性の高いものをレシピとし
て登録し作成可能(武具作成が規定レベルまで上がらなければ作成不可)である。
基本的に、武器の名前がスキルとなっている場合は、activeskillは存在しない。また通常、ほとんどの【】表記のスキルはパッシブスキルだ。
「いろいろ、増えたな......。」
「らしいね。じゃあ、狩に行くかい?」
「はい!! っと、その前にNPC......、じゃ無くて、ニューズ教官もjobについてるんですか?」
「ああ、我々ローカルにもあるぞ? 教会が持っている法具で我々も劣化版のようなステータスを操作できる。まあ、その法具は君達が持つその紋章と似たようなものになるのかな?」
「そうですか。と言うか、この紋章ってステータス操作に必須なんですか!?」
「ん? 知らなかったのか? 有名な話だと思うが......。」「僕は、知りませんでした。」
「ふーむ、そうなのか。まあ、何はともあれ狩に行こうか。武器は、私が選んでやろう。」
そう言い、受付の人と二言、三言話し奥へと向かう。
「おーい、君も来ないと!!」
「あ、すいません!! と言うか、裏に入ってもいいんですか?」
「まあ、私ぐらいの立場となると君がよほどの問題行動をしない限り大丈夫よ。」
そういい、カウンターの奥へと進んでいく。
ついていくと、今度は廊下に出て壁越しに金属のぶつかり合う音が聞こえる。
「訓練場の近くかな?」
「正解よ。今は、シースくんが教えているのか。」
「音だけでわかるんですか?」
「ははは、そんなわけないじゃないか。」
そう冗談のように、手をヒラヒラと振ると扉を開ける。
「あ、ニューズ教官!! お久しぶりです。本日は......。おい、貴様は誰だ?」
「ああ、彼は構わないでくれ。なに、武器貸し出しで少し手伝おうとしているだけだ。体に合わない武器を使って戦い死なれるのはいくらジェンタイルズでも寝覚が悪い。」
「そうでしたか、失礼しました。ここは、武器が大量に保管されているのもあってやはり警戒しなければならない部分があるんですよね。」
そういい、鎧を着込んだ剣士が剣を仕舞いながらレイに、謝る。
「いや、職務を全うしてるだけですし......。そういや、ここはどう言ったところなんですか?」
「あー、簡単に言うと過去に死んだ冒険者のまだ使える武器や、使わなくなった武器を寄付してもらい保管している場所です。そう聞くと、あまり良い印象は持たれないんですが、整備はしてますし状態自体はかなり良いですから下手な物を買うより余程良いものがありますよ。」
「そう......ですか。」
(そう言うことじゃないと思うけどな)
心の中でツッコミを入れつつ、あたりを見渡す。確かに、読みとか剣とかが所狭しと並んでいる。
「コレは......、剣弓は無いと思っていたのだがな。」
「あー、ジェンタイルズの方からの寄付ですね。使えないからと言ってすぐに捨てようとする方が多いようです。」
「大鎌もあるのか。久しぶりに使ってみるか。」
「教官なら持って行っても構いませんが......、ギルド長にまた何か言われますよ?」
「それを言われたら、推薦したのは誰だ? って言っておけ。あのハゲは命令してきて気に食わん。」
「ははは、このギルドの最高戦力ですからね。」
「はぁ、自慢では無いのだがな。」
「最高戦力って?」
「そんなことより、早くいくぞ。」
慌てて、話題を逸らすかのように急かし、大鎌を持って部屋を出ようとする。
「あ、合うか確認!!」
「握り合わせは、十分だ。後は慣れで使いこなせ。」
「大雑把......。」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何も......。」
「そうか、では狩に行くとしようか。」
そういうと、ズンズンと先に進んで進んで行く。レイも遅れないように慌てて、剣弓をインベントリにしまい後に続く。
「はあ!? 詐欺だ詐欺ッ!!」
「そう言われましても、我々ギルドは注意しましたよ? 貴方には適正な難易度では無いと。」
「もっと、しっかり言えよ!! お前らのせいでこっちは、課金アイテムが消えてるんだぞ!!」
「知りません。あくまで、依頼を受けるかどうか決めるのは貴方自身ですし。あ、教官!! 今から狩りですか?」
「まあ、そうなるが......」
「ん? 顔がいい女がいるな。」
(あ、ややこしいやつだコレ。無視しよう。)
「何か、程よい依頼があるか? 無断でコレを借りているからあのハゲにとやかく言われそうなのでな。」
「依頼をしていたって名目ですか? アハハ。丁度いいですし、彼が失敗したゴブリンの集落の殲滅を頼みたいのですけど......。」
「ああ、その程度なら朝飯前と言ったところだな。」
「はあ? プレイヤーでもねぇNPC風情がほざいてんじゃねえよ!!」
「五月蝿い馬鹿がいるようだな。」
喧嘩を売りに行くニューズ教官。目論見通り、男は激昂する。
「誰が馬鹿だとッ!!」
「貴様だよ、口だけの馬鹿が。」
「んだとッ!! てめえ!!」
「事実を言っているまでだ。なんなら、戦ってみるか?」
「上等だ!!」
そう言い、男は腰に刺していた剣を抜く。
「全く、ギルド内での抜刀は御法度だと知らないのか? まあ、知るわけがないか。一瞬で終わらせてやるわ。」
呆れ半分、諦め半分、レイが恐る恐ると言った感じで(内心負けるんじゃないかと疑っていたりする。)見ている前でそう宣言する。
趣味がいいとは言えない装備に着られている男は無様に剣を振る。
「おらぁ!! [間合い][払い][切り裂き]ィィィイイイ!!」「武器が泣いてるぞ?」
ニューズ教官がそういうと、黒い像が見え男が倒れる。
「ふむ、少し力を抜いたのだが......。」
「あぁー!! また、君の仕業かね!! ニューズくん!!」
2階から丸々と肥えた男が降りてくる。
「お久しぶりだな、ギルド長。」
「全く、気絶させるのであればもう少しやり方と言うものをだな......。」
「これでも穏便な方ではあると思うけどね。」
ギロッ!!
「まあ、悪かった。次からは気をつける(かもしれない)」
「最後に何か言わなかったかね? っと、君達!! こっちを見てないで通常業務に戻りなさい!! おい、救護班!! 彼を運び給え。君には事情聴取を行いたいのだが、構わないか?」
「謹んで辞退させてもらおう。私は今から彼と狩に行く予定なのでね。」
「うわっ!?」
「色気のカケラもないな。君も彼女が何か無茶振りをしたら言いなさい。」
「は、はい。」
急に抱き寄せられ、谷間に腕が埋もれドギマギする様子を呆れたように見つつギルド長はそういう。
「それに、ニューズくん!! 君はそう言う行動を控えるように!! 過度なスキンシップさえなければいい人材ではあるのだがね?」
「知らんな、私は私の好きなようにする。それが、契約の内容だろう。」
「はあ、好きにしなさい。全く、こいつは婿探しできているのになぜここまでズボラなのか......。」
我が威を得たりとばかりにギルドを出る(出させられる)2人。
さあ、狩の時間だ。