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可笑しく笑う生涯

作者: カサカン

朝早くに目が覚める。窓越しに見える空はまだ光をともしていない。私はこんな時間が好きだった。古くなって薄汚れた目覚まし時計で時間を確認する。いつもよりかなり早い時間に起きてしまったようだ。こんな時間に起きるのは学生時代以来だろうか。そういえば学生時代に朝早く目を覚ますとよく思うことがあった。今起きている私は昨日まで起きていた私なのかと。昨日の自分はすでに消え去って、昨日まで記憶だけをもった新しい私なのではないかと。一体私は何のために生まれて、なんのために死ぬのか。今久しくそんな考えに耽る。顔から笑みがこぼれる。そんなことはどうだっていい。むしろ新しい自分であれば、どれほどよいだろうか。今の私は昔のわたしの積み重ねである。何ら努力もせず、何ひとつ残すことのできない落ちぶれたたった一人の人間である。もう一度やり直せるのであればと、何度考えたことであろう。しかしやり直せたところで同じ結末であったこともわかるのだ。誰よりも長く誰よりもわたしと傍にいたのは私なのだから。でも私は私を許すことができる。生来弱く醜い私は、そんな自分が酷く愛おしい。なにをしようにも長続きせず、一時の欲のためにすぐに全てを投げ出してしまう。そんな自分が大好きだ。だが当然社会では受けいれてはもらえない。「仕方ないことだ。」そんな言葉がふと口に出る。


この冷淡で何の返答もない世界で一人で生きていくのは辛すぎる。しかしこんな世界だからこそ一人で死ぬことも辛すぎる。ここまで追い詰められてもまだ決断できない私は本当に弱虫だ。人間失格どころか人間未満である。もとより私は人間ですらないのだ。人の皮をかぶった何かである。そんなことを頭の中で反芻していると思えば昔から人ではなかったような気がしてくる。吐き気がする。頭が痛い。こんなこともう終わりにしたい。だが終わらせることはできない。秘密を誰かに託さなければいけない。それだけは成し遂げなければ。あの日の真っ赤な靴を、彼女に捧げるのだ。


3度目の決意でようやく布団から出る。既に少し明るくなった空を確認しながらパソコンの起動をする。パソコンの起動には時間がかかる。特に私の使っているような古いタイプではなおさらだ。起動の間にコーヒーを淹れる。コーヒーとは不思議なものだ。どうしてこうも苦いのに世界中で飲まれているのか。現地の人は砂糖をたっぷりで飲むとかそんなことを思いながらコーヒーを飲む。コーヒと共に薬を飲む。俗にいう向精神薬だ。薬を飲むと落ち着くのは、はじめだけであった。今では効き目があるようには思えないが、飲まないよりはましだろう。そんなことを考えているとモニターの奥にタバコを見つけた。吸うのは止めて長いから数年前のものだろう。どんな味がするのかという好奇心の後に体に悪いであろうと考える。こんな状態にあってまだ体の心配をしているのだからわが身の可愛さに笑える。タバコをくゆらせてみると黴臭く最低な味がしたが、今の私にはお似合いだろう。パソコンの起動が出来たようだ。カラフルで目に痛いウェブブラウザを開くと、自共掲示板と検索する。そうしてしばらく待つと真っ黒な背景に白い文字でサイトが開かれる。一番上のユーザー名とパスワードを打ち込むと、そこに私の仲間が待っている。仲間とは何て良いものだと思う。今まで誰も信用することなく誰にも信用されていなかったであろう私が今になって仲間を得たのだ。相手は私のことなど仲間と思っていないかもしれないが、そんなことはないだろう。同じ場所で同じような死に方をする私と彼女は仲間といって過言ないのではないか。もはや私であるともいえるか。そんなわけがない。私は私であり、彼女は彼女である。それを忘れてはいけない。今朝のよくない考えのせいである。私の仲間である彼女の名前は翼だ。このサイトで出会った。年齢は16歳らしい。本当の年齢かどうかわからないが。彼女と話しているうちに気付いたことがある。それは話の細部に嘘をついているのではないかということだ。確証はないし杞憂かもしれない。なんのためにそんなことするのかも分からなかったしそれにどうでもよかった。


私が彼女に求めているのは死だけであったし、彼女にとってもそれは同じであろう。

感想くれるとうれしいかもー

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