車窓
~~~ 車窓 ~~~
無人駅に列車が停止した。
年を取った老婆が1人、列車に乗りこんだ。
車両は1輌のみ、老婆以外誰も乗っていない。
運転士のみの列車。
その運転士が時計を確認する。
笛が吹かれ、扉がしまる。
運転士が運転席に座り、出発進行という。
列車はゆっくりと無人駅から離れていく。
老婆は1人対面式の椅子に座って流れる景色を眺める。
どれほど進んだのだろうか、景色は流れていく。
それでも次の駅に到着することはない。
景色は田園風景から森林の風景に変わっていった。
隧道に列車は差し掛かり、その中を進んでいく。
長い隧道である。
やがて隧道を抜けた。
今まで森林の景色であった。
隧道を抜けて広がる景色は左側に海を望む景色に変わった。
右側にはやはり林が広がっている。
小高い山の山頂が木々の合間から見る事ができる。
列車は時折、警笛を鳴らして走ってゆく。
老婆は眠っているようだ。
その体が列車の揺れに合わせて揺れている。
やがて列車は海の見える景色から離れていった。
列車は田舎の風景から街の風景に変わる。
列車は景色を俯瞰して見るように走っている。
レンガで出来た橋の上を列車は走っている。
列車は走り、風景が変わる。
お寺で人々が忙しなく動き回っている。
その様子を1人の老人が見ている。手には遺影をもって。
列車は走り、風景が変わる。
病院の玄関で人々が祝福している。
若い夫婦がお辞儀をしている。生まれたの赤子を抱いて。
列車は走り、風景が変わる。
神社で人々がそれを見ている。
若者が神前で結婚式を挙げている。お神酒の盃を手に持って。
列車は走り、風景が変わる。
喫茶店で人々がお茶を飲んでいる。
2人の若者が笑顔で話している。手元のカップを持って。
列車は走り、風景が変わる。
学校に向かって人々が歩いている。
1人のおさげ髪の少女が歩いている。手に鞄を持って。
列車は走り、風景が変わる。
部屋の襖や障子が開け放たれている。
畳の上に小さな布団が敷かれている。すやすや眠る赤子がくるまって。
列車は走り続ける。
幸せそうな寝顔の老婆を乗せて。
煉瓦造りの橋を眺めていたら、なんとなく頭に浮かびました。
ありふれているので似たような作品があるかもしれません。