第1章 別れの予兆
圭太から連絡があったのは夜の十時過ぎで、そのとき愛はリビングで一人韓国ドラマの最終回を見ていた。眠たい瞼をこすりながらスマートフォンの画面を覗くと、話したいことがあるんだけど、という短いメッセージが目につく。
愛は一気に目がさえて、慌ててトーク画面を開いた。まさか、と嫌な予感がして寒気がした。別れよう、そう言われるのではないか。愛はドラマどころではなくなって、再生を停止してテレビの電源を切った。
しばらく待っていても圭太からの返信は来なかった。愛は彼とのトーク画面を何度も確認して、既読がつくのを待った。気持ちを落ち着かせようとココアを作って飲み、友人たちのインスタグラムのストーリーをすべて見つくした。
もう寝てしまおうか、そう思ったときにやっと圭太から返信があった。今週の土日のどっちか空いてる?という内容のものだった。
スケジュール帳として使っているカレンダーアプリを開いて、愛は予定を確認する。日曜日が一日空いていた。すぐさま圭太に返事をする。何の話かだけでも知りたい、と続けて送信した。
愛が圭太と出会ったのはサークルの飲み会の席で、愛の友人である美咲と、圭太の友人である琢磨が元から仲が良く、四人で盛り上がったことがきっかけだった。それから美咲と琢磨の応援もあってほどなくして愛と圭太は付き合った。去年の夏にあった花火大会から付き合って、こないだ一年記念日を迎えてから一月ほどである。
再び圭太から返信がある。最近俺たちうまくいってないじゃん。だから話し合いたくて、とある。そうだよね、と返事をしたくて、けれど愛は涙を堪えるのに精いっぱいだった。
震える指先でなんとか返事をして、スマートフォンをベッドの上に放り投げて泣いた。慌ててティッシュペーパーで涙を拭う。それでも涙は一向に止まらず、愛は嗚咽を上げて泣いた。自分は誰からも愛されないダメ人間だと思った。怖くて苦しくて、時が止まってどうか日曜日が来ませんようにと思った。そうしたらきっと、永遠に圭太と一緒にいられると思ったのだ。話し合いは今週の日曜日に決定した。
それから日曜日までの一週間は地獄のようだった。大学の講義は全く耳に入らず、無意識に圭太のことで頭がいっぱいになっていた。考えるなと思うほど考えてしまって、授業中であるのに泣いてしまいそうだった。
アルバイト先でも似たような状況だった。愛は飲食店でアルバイトをしているのだが、注文のオーダーを間違え、おつりの金額を間違えて客に渡し、慌てすぎて飲み物を運んでいる他のアルバイトとぶつかった。店長に怒鳴られ、愛はさらに泣きたくなった。
考えたくなくても圭太のことが頭に浮かんできて、愛の脳内が侵略されてしまうのではないかとさえ思った。