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004 『本末転倒』



※※※※※ ※※※※※ ※※※※※


「俺はあの演説でデスプリンセスと協力的な関係を築くことを公約としてあげたかったんだ。演説の内容はほとんど違わないが、着地点は退学理由が明確でないグレーな生徒を生徒会経由で助けられらようにする。…だった。

 それなのに、俺は調子に乗ってしまって…」

 頭を両手で抱える晴人。


「デスプリンセスの解散を宣言しちゃいましたと。ばかだねー。」

 夏菜子の悪態は晴人を深く突き刺す。猫背の背がさらに丸まった。


「眼鏡がなくて原稿を読むことができず、仕方なくその場の思いつきで演説してしまったということか。そもそもどうして死姫を話題にあげる内容にしたんだい?

 死姫に訴えかけるとしても別に会長に選任されてからでも十分遅くはないと思うけど?」

 そんなことをしなくても晴人なら十分に選任されるのに。松雪も夏菜子も、あの場にいた大半の生徒がそう思っていたことだった。


 唸り声と共に顔を上げる晴人。晴人の顔は少し赤らんでいる。

「当然全校生徒が生徒会に期待をして欲しいからだ。…恣意的な思惑があったとするなら一つ、赤井さんの為だ。」


「…だれ?」


「晴人と同じクラスの女子、赤井凜子だよ。」

 夏菜子の問いにすぐに応答する。

 

 上目の夏菜子。すぐに記憶をたぐり寄せた。

「あー、あの猫被り女か!彼女がなんだっていうのよ?」


「ふむ。一言で言うと、晴人は彼女に恋をしてしまっているんだ」

「お、おい松雪!」

 晴人の制止は虚しく空振り、それを聞いた夏菜子は鼻で笑った。

「そういうことね。まあ、見た目はいいからねぇ。」


 わかってないな。そう言いたげに手をぱたぱたとさせながら松雪は言う。

「いや、晴人が惚れたのはそういった普通の理由じゃないのさ。」

「おい、今はそんな話をしている場合じゃ…」

「え、なんでなんで??気になるじゃないのよ」

 話はものの見事に脱線する。


 今自分が退学を迫られている切迫した状況だと言うのに。しかし、これをこなさなければ話が進まなさそうだ。あくまで説明することが最短のルートだとして晴人は諦めた。

「…元々俺が知っていた彼女は夏菜子の言った通り、猫を被ったような礼儀正しい美人女子の印象でしかなかった。だけど今年の梅雨の頃、彼女の〝本性〝を見た。まあ、意識するようになったのは多分そこからだ。」


「本性って?」

「晴人、事実は正確に伝えないとさ」

 松雪は笑みを浮かべている。

「わかった。わかったよ!放課後の教室に残って友達2人といた赤井さんが俺の悪口を話していたんだ。それで俺は彼女の持つギャップに惹かれて…」


「は、好きになったってこと?」

「ああ、」

「いや、悪口言われて好きになるとかなにそれ気持ち悪。ドMかよ!」

「これはもう鉄板だろう?」

「そうね!」

「ち、違う!みんなデスプリンセスに怯えて本性を出せない中、物おじせず悪口を言える気丈な振る舞いが…」


「まあまあ。で、その彼女が理由っていうのは?」

 弁明は松雪が遮った。話の舵は松雪がそのまま握ったままだ。

「彼女はテニス部に所属していたんだが、あらぬ誤解を受け、責任を取る形でテニス部を退部したんだ。もしそれがデスプリンセスによる退学のリスクが一因なのだとしたら、俺がその一因を排除できれば彼女はまた部活ができるんじゃないかと思ったんだ。」


「そこは案外普通の理由なのね。」


「赤井さんが辞めることになった原因がグレーなら、死姫による決定が下されても生徒会で戦う理由ができる。またそれを事前に生徒会からアピールすることで彼女が部内から責められることもなくなるかもね。

 でも、晴人が退学なら全てがご破産だ。晴人の革命は起こることなく、晴人が去った青國にはいつもの死姫が監視する学校生活が引き続き続くと。控えめに言って最悪だよ。」


「今までデスプリンセスの通告がひっくり返ったことはあるのかしら?」

 夏菜子の問いに松雪が即答する。

「ない。僕が知る限りでは。稔会長なら僕らよりも一年多く過ごしてるし死姫に関してまだ僕らの知らないことを知っているかも。今日中に捕まえて僕から聞いておくよ。でもまあ、あまり期待しすぎるのは良くない。」

 

 元会長だけに期待を寄せるのは間違っている。晴人も松雪も認識は一致していた。

「ああ。それはわかってる。会長の件は頼んだ。とりあえず俺は俺で動いてみるつもりだ。」


「まず理事長に相談してみるのはどうかしら?」


「そうだね。理事長に復学させる権限がないのだとしても、話は持ちかけてもいいだろう。」


「もちろん、理事長には直接聞くつもりだ。放課後に会ってもらえるようすでにアポをとっておいた。」

「おお、早い早い!」

「だがまあ、俺としてはあまり理事長には期待していない。」

 今まで大学を宣告された生徒は沢山いた。彼らが復学するために、原因を改善して理事長に嘆願したかどうかは説明するまでもない。そして結果、宣告を受けた全ての生徒が退学していった。

 3人はそれを知っていた。わずかな沈黙がそれを物語っている。


「それよりももう少し望みのあるやり方で進める。」

「というと?」


「デスプリンセスに、直接訴えかけてみるのさ!」

 豪然たる面持ちでそう言い放った晴人であったが、内心は藁にもすがる思いだった。


次回005話は11月23日の投稿です。

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