7) 第3話裏 鎧ちゃんは護りたい
鎧ちゃん視点。
主人公以外の視点は結構真面目な回が多いらしいですよ?
あ、例外はあります(白目)
「どう考えても言葉の綾ですわぁっ、創造神様!!!」
「ひゃあっっ!!」
「ひゃあ。」
「あらあら、まあまあ。落ち着いて下さいまし?」
目の前でワタクシの姿を変えて下さった女性が、あまりにも無防備な下着姿のまま大声叫んでいます。例えようのない程に美しい御方です。しかしあえてそれを言葉にするならば。
眩い夜明けの金星の輝きで編み上げたかのような金色の御髪、深い宵闇の姿を写し込んだかのような紫水晶の瞳、真昼の太陽の白光を透かした最上級のシルクの如き艷やかな肌艶に、春の華花が姿を変えたかのような淡く瑞々しい唇。
それらに讃えられたお姿は、このように叫んでいる時でさえ、上級貴族さえも裸足で逃げ出すほどに洗練された佇まいでいらっしゃいます。
その姿はまさにどこを切り取っても1級の絵画すら凌駕する芸術品。
それがワタクシの今回の主様です。
永い、永い時を鎧として過ごして、数多の主の手を渡き、天界の方々とも面識のあるワタクシをして、このような美しさを讃えた御方は見たことがありません。
しかしワタシが初めてその姿を得た時、この御方は男性の姿をしていました。
今の姿からは想像できない程の、厳しい眦をした御方。歴戦の厳しさを讃える戦士の面立ちをしていらっしゃいました。それが今では美の化身。
やはり神々とは我々のようなモノには測れない存在なのですね。
姿がどのように変わっても、いえ変わったからこそ。そのお手に秘めた権能が、神々の力の一端であることは疑いようがありません。
創造神様にもご面識があるご様子。
幼い眷属のお二人もおっしゃっているようにこの方はカミサマの一柱か、もしくはその分見姿の1つなのでしょう。しかしこのような美しい御方。噂にならないハズはない。もしかして新たにお生まれになられた御方なのかもしれません。それ以外には考えられない。
なぜなら彼女は、ヒトというにはあまりにも美しすぎる方ですから。
カミサマは今なにかを深く考えこんでおられます。
深い怒りと、憂いをおびたその表情はあまりにもお労しく、しかしどこか不可侵で、神聖な、悩める聖女の彫像そのものです。
そしてご自分でお答えを導き出されたのでしょう。次第にその面持ちが、雪溶けを祝う朝日のように、晴れやかなモノへと変わっていくではありませんか。
たったそれだけ。それだけでワタクシは心の底からうれしくなってしまいます。
ああ、なんて綺麗。美とは、美しさとはそのあり様だけでこうまでヒトの心を打つのか。只々ワタクシはその横顔を見つめ、感嘆に打ち震えておりました。
その時です。カミサマがワタクシにお声をかけてこられました。
「あの、ごめんなさいね? ちょっと混乱してしまったの。」
「いえいえ~、カミサマ。もう宜しいのですか~?」
「カミサマ、コンランっっ?」「カミサマ、大丈夫?」
とても気安く、飾らぬ言葉で。心の底から申し訳なさそうに、我々のようなモノへと向かって。ワタクシはカミサマが特別扱いを嫌う御方であると察し、柔らかく、普段の自分で持ってそれに答えます。彼女はそれを笑って受け入れてくれました。
「とりあえず自分の中で納得は出来ました。貴方はワタシの鎧でいいのですよね?」
「はい~。ワタクシはアナタサマの鎧がそのお力で姿を得たモノですよ~。
これからみなさまを護れるよう、がんばらせてイタダキますね~。」
まるで同等のモノを扱うような口調で、おずおずと聞いてこられるカミサマ。
そこには深い労りの心を感じます。ワタクシは本心からお言葉を返します、
それはなにより、自分が永い永い時の中願ってやまない言葉でした。
ワタクシ達鎧とは守る為にあるモノ。しかしその実、鎧は誰も護れません。だって鎧は動けませんから。ワタクシにはずっとそれが苦痛でした。
ある程度、優秀な鎧として状態保存の魔法をかけられていたワタクシは多くの主に使われました。しかし彼らは皆、ワタクシの中で息絶えていきます。
ワタクシはどうしても、ソレに慣れることができなかった。
いえ、慣れようともしなかった。
主を護れぬ自分を呪い、世界のあり方を呪い、神を呪った。
それがワタクシという鎧なのです。そしてその呪いが魔毒となってこの身のあり方を変えようとしていた時、ワタクシは天使に回収された。
ああ、これでこの呪わしいあり方が終わる。ワタクシは正直ほっとしていました。
ですがそれは終わりではなかった。
それからワタクシは天界の宝物庫で保管されることになりました。
この身の周りに、多くの伝説、逸話を持った一級品が立ち並んでいます。
ああここならばワタクシのような上等だが名もなき鎧はもう使われることはないかもしれない。そんな事を思って実際。
ワタクシは永い永い時をソコで過ごしました。
ですが安寧は突然に破られました。
ワタクシはこの御方の鎧として、また混沌の世界へと落とされてしまったのです。
ああ、またか。
またなのか。ワタクシがかつてのように静かに呪詛を貯めこもうとした時。
突然ワタシの眼の前が、開けます。
そう。ワタクシはこの御方に変えられた。救われた。
ずっと叶わなかったモノモノであるワタクシの、たった1つの願いを叶えてくれた方。
「そうですか。
こちらこそよろしく頼みます。ワタシも今、自分の力を見知ったばかりだからまだ不慣れなのよ。迷惑かもしれないけどごめんさいね?」
カミサマは何でもないことの様に、ワタクシに頭を下げます。
自らの所有物にしか過ぎないワタクシに。道草の若葉や、道端の小石に向かって。
別け隔てなく、その優しさを下さる御方。なんと慈愛溢れる気高き御方か。
ああ、迷惑なハズがない。
護らないハズがないでしょう。この命を賭して、全てを使ってでも。
ワタクシが護らないはずが、無い。
だってワタクシは。
「めーわく、大丈夫っっ!!」
「めーわくへいき。」
「あらあら、うふふ。はい。カマイませんよ。」
あなたの鎧なのですから。
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