49) 第17話 オレ、冒険者になります(5)
分量多めになりました。
なんだいこんな時間に。
ギルドの近くの宿を郭とする私は人の騒ぐ声で目を覚ました。
大きな声で笑い合う冒険者達の声がひどく、ひどく耳障りでならない。
ああ、なんで人の笑い声ってこんなにイラつくんだろうねぇ。
理由なんてわかってた。ワッチが幸せじゃあないからだ。
長い事お高い郭で娼婦なんてしていたワッチは、まぁ昔から人並外れた器量の顔と小賢しさだけが取り柄の女でね。タダの田舎娘だった私が売られた先は、まるで夢の国みたいな場所だった。
お貴族様のお城を思わせるような立派なお屋敷に、天幕付きの豪奢な褥。当り前のように立ち並ぶ特級品の邸の家具に、お高尚な絵や彫刻、添え物の数々。
そのどれもがウチラ庶民が村1つ、10年は喰って余りあるってとんでもない代物だった。最初に値段を聞かされたときゃ、怖くて邸を動けなくなったもんさ。
そんな場所でさ。言葉ぁ学んで色の使い方学んで、教養なんて仕込まれちまって。ちょっとお貴族様相手に品作って、おかしな言葉使ってお話聞いて。芸事魅せたら笑い合ってさ。少し褥を伴にするだけでお姫様みたいな暮らしが許されちまう。
そりゃあね。お貴族様相手の商売だ。オツムの足らん女にゃあ仕込みの時点で辛かろうがね。ワッチは生憎覚えが良くて、必死で色々学んだものさ。
食い物1つ。おかしな話、ご不浄の在り方1つとっても考えられない程いい思いができる楽園なんだ。
それに必死に縋ったよ。お得意さまのご趣味を覚えてそれに合わせて色々やった。そしたらさ。気づいたら私はその娼館の中でも随分と上の立場になっちまった。気に入らない男の誘いを自由に袖に触れる位には、顔が聞くようになったのさ。
まぁそん時にもう少しばかり周りに気遣ってたら、こんなハメにはならなかったのかね。若い美空で上客達に囲まれて少しばかりいい気になってた田舎娘は、商売女の怖さってモンを完全に理解していなかったのさ。
気づいたらワッチは落ちぶれていた。
顔を焼かれ足の筋をやられ両の小指を断ち切られ。楽園から追い出されちまった。クソ女神の情夫を客に仕込まれて、断ろうが受け入れようがどの道不敬になる状況を造られて。ワッチを女へと仕込んでくれた、尊敬してた姐さんの悲しむ顔の奥に潜んだ、確かな愉悦の光を見た時。ワッチの全ては失くなったんだ。
そこからは苦労の連続だった。
もとより芸と身体しか能のねぇワッチが、なんもかんも不自由な身体にされて国を追われたんだ。郭で教え込まれた知識も、死ぬことすら。制約魔術で封じられて。唯一許されたのがこの自称。ワッチって言葉だけがその名残だったりするわけさ。
そんなもん動かしずれぇ足引きずりながらも、それでも華を売るしか道はなかった。火傷女なんてどこにいっても客はつかねぇ。女の値段なんざ下げきって、つくのはそんな女相手に自分の下を見つけて昂ぶっちまうような、真性のサディストばかりって話でね。
そんなもん相手に自分の尊厳売りながら生き延びるだけの毎日さ。ああ、死にたい。今すぐにでも。でもワッチはソレすら許されないんだ。
だからワッチは。今日も地獄の底で生きるしかない。
さて。何か大きな依頼でも達成して馬鹿騒ぎするお大尽でも出たのかね。そういう事なら女の入り用もあるだろうさ。最近アデルの森が物騒ってんで、てんで景気のいい話なんざ聞かなかったが。そういう事ならワッチもあやかろうかい。
ワッチは顔に白粉を1つ。長く伸ばした髪で右顔を隠し、ストール巻いていつものボロいローブに袖を通し長い手袋を両手にはめると、ようやくこれでお天道様の下を歩ける姿になった。
裸体の上から直接羽織ったローブの継ぎ目の、所々から女が覗く。こういうモンが荒くれモンにはたまらないらしいんだ。だったらお客に合わせてやるのが娼婦としての在り方って奴さ。
もうなんもかんも失っちまったてのに、未だにそんな生き方を変えられない自分に嫌気がさしながら。それでも喰っていく為に。
だからワッチは今日も自分を捨てにいく。
・
宿を出てすぐ目の前のギルドへと近づくと、そこはもう大盛りあがりさ。この街にワッチが流れて来てしばらく経つがこんなに騒がしい有り様は初めて見る。
だけどワッチがその中を覗くと、そこでは信じられない光景が広がっていた。
「おお女神よっ。我等が希望よ。その名よ今讃えられんっ!!」
「「「「虹の橋の、神!!」」」」
どこかで見たことがあるような重鎧を着た女が、ギルドの酒場の一席で立ち上がり高らかに声を上げる。それに続いて神の名を呼ぶ合唱が響き渡る。
あの鎧、確かルストの連れの奴のソレに似ている。まぁ中身こそあのデブと似ても似つかない豊満な体つきで、紫掛かった青髪の巻毛を長く伸ばした、青いどんぐり眼の娘だったが。でも髪と目の色は確か同じ、なんだ。
「全てを輝かす虹の化身よ、我等迷い子を救う聖なる御名よっ!!」
「「「「虹の橋の、神!!」」」」
同じ席に立つ女がまたも神を讃える言葉を掲げる。アイツの様も見たことがある。ルストのクズ仲間の、痩せギスの斥候の奴と同じ格好をした細身の女。緑のローブの所々に商売道具をぶら下げた独特の格好。間違う筈もないね。赤みがかった癖っ毛に、少し垂れ目気味の泣き黒子。そんなトコまで一緒だった。
「今我等は神を得たっ、我等が信ずべき慈愛の神をっ!!」
「「「「虹の橋の、神!!」」」」
また違う女が騒ぎ出す。アイツが着てる服なんざルストそのものさね。袖なしの黒シャツに、ブレストプレート。走りやすさに重きをおいた槍兵特有のだいぶくたびれたポイントアーマー。髪型こそセミロングになってたが跳ねるような茶髪のツリ目で無駄に気の強そうなトコも、ルストにそっくりさ。
「「「我等の喜びはその名と共にっ、我等は皆その名を謡うっ!!」」」
「「「「虹の橋の、神!!」」」」
どいつもこいつも見たことあるような格好の、見たことある奴に似た顔を持った、だけどそいつらとはとても似つかない、目が覚めるような美しい娘達だった。
いやいや一体全体どうしてそうなる?
そして何よりもその中心。冒険者達とギルドの職員達と、彼らが皆一同にその名を讃えるその女を見て。余りの美しさに我を忘れた。
「っっ!!」
なるほど女神だ。そうとしかいいようがない。どんな言葉を用いても、どんなに腕のいい画家を持ってしても。きっとこの美を伝えられる筈がない。天上の美などという言葉ですら生ぬるい。女神としか言いようのない女がそこにいた。
女神なんて結構見てきた。でもそんなモンとは次元が違う。
曲りなりにも美醜が全てを占める世界で一線張ったワッチをして、つい我を失う程の美しさ。そんなモノを見て。
自分を取り戻した先でワッチの中に浮かんできたのはなにより激しい憎悪だった。
そうだ。あんな風にワッチも誰からも愛されていたんだ。そんなワッチから全てを奪った神が、目の前で全ての人から祝福されている様が。
たまらなく憎かった。
気づいた時。ワッチの身体は自然に動き。興奮から我を忘れて女神を讃え続ける人混みの中を人知れず進んで行き、近くにあったジョッキを持って、その中身を女神に向けてぶち撒けていた。
ざまぁみろ、クソ女神め。
・
「なっ、主殿っ!?」
「大丈夫ですかヴィリス様っ。」
「ああ、お酒勿体ない。」
「なんて事しやがるっ、火傷女っ!!」
「ゼノヴィア、テメェッ!!」
「女神様に何か拭くモンをっ、いや清潔魔術をっ!!」
「貴様っ、自分が何をしたかわかっているのかっ!」
ああなるほど。最初っからこうすりゃよかったんだ。
ワッチは多くの冒険者に取り押さえられながら、暗い笑顔を浮かべていた。
「なにが女神だっ、どうせ人の揚げ足とる事しかデキナイ紛いモンだろうにさっ。その幸せそうな神様っ面が気にくわなかった、理由はコレさ。満足かいっ!!」
これで少なくともワッチは死ねる。上手くすりゃこの街全部道連れってヤツさね。ざまあみろ女神様。ざまあみろクソッタレども。ワッチ以外の幸せそうなヤツは、みんな、みんな死ねばいい。そうすりゃワッチも、少しは胸を軽くして終われる。
ああ、終わる事ができるんだ。
ワッチが待ち望んだ終わりがやってくる。そう思うと。自然と笑みが溢れた。
「っ、ソイツはチガウっスっ。
この御方はオレらの事を本気で心配して助けようとして下さる方だっ。決して紛いモンなんかじゃないっスっ。」
人がせっかくいい気になってる時に騒ぎ出す野暮がいる。さっきの重鎧の女だった。この世に本気でアタシらの為になんかしようとしてくれる神が要るワケない。なら全部紛いモンだろ。
「そうですっ、女神様を騙そうとして近づいた私らみてえな外道の事を、騙されるフリして救って下さった、本当の女神様なんですよぉぉっっ。」
そんな事あるわけがない。
アイツラは裏の事情がホントは全部分かってても、嬉々としてワッチの尊厳全てを潰しにかかるような外道だ。欠片でもそんな慈悲がありゃワッチは今こうして這いずり回ってなんかない。
「そうだっ、オレら、アタイら女神様に救われた。変えて貰ったんだっ。先のねぇ人生にっ、もう一度チャンスをくれたっ。このアタイ、ルスト・ルーラーとっ。」
「オレっ、サムス・ラパンとっ。」
「私、ライム・グリーンがっ。」
「「「誰よりもソレを証明できるっっ!!」」」
嘘だっ、そんなの全部ウソだっ!!
堪らず悲鳴じみた叫びを、ワッチは零した。
「なんだいそりゃっ、んな事ある理由ないだろっ!!」
だが現実は変わらない。
変わってくれない。
「この俺も証人だ、ゼノヴィア。
リーヴァイのギルドマスターの名において、このレイル・メロウもまた。あの御方が女神様だと証言しよう。
そして誓ってその三人は君の見知った三馬鹿だ。揃って女神様に無礼を働き、それでも女神様によってやり直す機会を与えられ、男から女へとその姿を変えた。
本物の。我等を救う、本物の女神様なんだ。」
なんで、そんな。ワッチはコレで終わろうとしてるってのに。どうしてそんな。
「そんなバカな話があってたまるかいっ!
神なんて誰でも勝手なもんなんだよっ。
ワッチの時には全部奪っといて、なんでアイツラみたいなクズが救われんだいっ。……可笑しい、そんなの可笑しいだろぉっっ!!」
「(っく)ゼノヴィア、……ああ、そうだな。」
「(それを言われると)……オレ達クズだったからね。」
「(なにも言い返せんっ)……ああ、その通りだ。」
取り返しの付かない事した後に、そんな事っ。なんで全部がワッチの手からこぼれ落ちた後にいつもいつもっ!!
ワッチは自分の仕出かしちまった事に気づくと、もう胸の内をぶちまけることしか出来なくなった。
「だったらワッチだって救われたいよっ。取り戻したいんだっ、昔の自分をぉっ。火傷なんてなかった、五体満足で輝いてたあの時をっ。
だのに、だのになんで全部嫌になって、覚悟決めて神様に歯向かったってそんな時に、よりにもよって、なんで本当の神様なんているんだよっっ。」
世界には今日も理不尽が溢れていた。
ワッチはずっとソイツの虜だ。そして囚われたまま、このまま終わる。
いやだ、いやだっ。あんまりだろうっ、そんなのっ!!
「誰か助けてよっっ、ワッチも、幸せになりたかったんだっっ。なんでワッチばっかがっ、こんななんだよぉっっ!!」
叫んだ、叫んだ。わけも分からない位に。
その果てに。
ワッチはあの光を見たんだ。
虹色に煌めく光。
きっとこの世で一番優しい輝きを。
・
「なっ、主殿っ!?」
「大丈夫ですかヴィリス様っ。」
「ああ、お酒勿体ない。」
「大丈夫だ。かけられる前に気づいて目ぇ瞑ったから。なんか拭くもんくれる?」
酒引っ掛けられたのは久しぶりだな。コイツぁ結構厄介なんだ。落ち着いてすぐに目を開けようとせず、ちゃんと拭きとった後に目ぇ開けにゃあならん。
度数によっちゃあ拭いた後さえ目にくるモンだしな。
《手慣れていますね?》
ああ、ま。悪ガキどもと色々あったのさ。そこらへんはホレ、オレのスキルにある【喧嘩殺法】参照ってやつだ。投げられたのは蒸留してねぇ酒みてぇで、そう目にくるもんじゃねぇし。手の力で汚れも消せるがお酒少女が生まれかねん。
しばらくおとなしく拭くモンを待つことにする。
「ヴィリス様、清潔魔術をかけて貰いますね?」
「お、ありがと。」
って一瞬か。やっぱ便利だな魔法。
《あれは面倒くさがりの神の要望が色々詰まってますからね。》
そこでも神か。なんかロクでもねぇな神。
「主殿。あのモノどうされますか?」
「ああ、穏便にまず話を聞いてみよう。今元おっちゃん達が話してくれてるみてぇだしな。」
「承知。まったく我が主殿はどこまでもお優しい。」
こういう時、ツルギが突っかからなくなった事は本当にありがたいわ。やりやすくて助かる。頼りになるけど、ふとした笑顔にちょっとだけドキッとさせらちまう。それにゃあきっと慣れねぇな。
「……お護りできず申し訳ありません。」
「いいよ。液体ってのは防ぎにくいもんさ。気にすんなよ。メイルさんにゃいっつもお世話になりっぱなしなんだから。」
「あ、ありがとうございますぅ!」
ホントにな。最初っから世話になりっぱなしなんだメイルさんには。なんか気苦労ばっかかけてる気がするないっつも。それでも優しく微笑んで護ってくれるみんなのお姉さんなんだ。たまにゃそういう所もかわいくていいと思う。
「流石に空気呼んだ方がいいと思うけどにゃあ?」
「貴方がそれを言うのか?」
「っ、ごめんなさいっ。」
「いいって。」
こういう事言うアンダーも、実際結構気遣ってくれる。なかなかそれを頼りにデキナイ辺り、コイツらしいっちゃコイツらしいんだよな。気のおけないようなおけるような。どこまでもふわふわした関係。コイツとはこれでいい。これがいい。
(ステラ、回線開けるか?)
《肯定。【高速思考パス】を使用しました。どうしました神威?》
そしてステラ。いっつも足りないオレの事をずっと助けてくれる冗談好きのオレの相棒。まったくコイツがいなかったらと思うとホントゾッとするゼ。本当はみんなに言っておくべきなんだけどよ。とりあえず今はコイツにだけ話しておく。
話しておきたい事があるんだ。
(こんな時になんなんだけどよ。まずどうしてもお前にだけは言っておきたい事があってな。)
《お聞きしましょう。》
(オレって神様にモテたいってこの力貰ったんだけどさ。あれな。ホントはオレ、モテたかったワケじゃないんだよ。)
《確かに。人格を得てからワタシも貴方と神との通信ログを拝見しましたが、貴方の普段の行動を見るととてもモテたいなどと願った人物には見えません。
人となりと願望が余りに離れすぎている。》
え、あれ見られてるの?
こっ恥ずかしいなぁ。ま、いいけどよ。
(はっ、見ちまってたか。じゃあ話は早ぇや。
オレな、オレがずっと欲しかったモンは彼女じゃなくてさ、家族だったんだ。)
《確認。それが何故モテたいなどと?》
(家族なんざ、どう考えても望んで手に入れるモンじゃねぇだろう。だからとりあえず人から愛されたいって思った。で、それってどう言やいんだって無い頭で考えたらモテたいって言葉に行き着いた。)
そうさ。家族だけはそのまんまポンと、望んで手に入れるようなモンじゃねぇって思ったんだ。だからどうにかオレの凶悪な面でも人に好かれる方法が欲しかった。だからあんな事神様に言ったんだ。
モテたいって、結局よ。愛されたいって事だろう?
《美少女は、どういうワケなんですか?》
(モテたいって言った手前、対象は女性のみに絞りたかった。んで、真っ先にオレの顔の事を思い出した。人相が悪いってだけで、色んな苦労を背負っちまうなら、オレの家族にゃそんなもん絶対味あわせたくなかった。)
ゲイのオッチャン達は軽いトラウマなんだ。
《確認。それではあの会話の、”モテたい”を”愛されたい”に、”美少女”を”姉や妹、母”などに入れ替えれば貴方の本当の望みになると?》
(まぁ中にはテンションに任せてモテたいって言葉から釣られて出た言葉もあるがな。恥ずかしくてよ。勢いで言いまくったんだ。)
信仰されたいとかな。ホントは大黒柱的な事を言いたかったんだが、どうにも口が滑っちまった。まぁ今じゃ助かってるけどよ。
《なるほど。言葉遣いについてはどうですか?》
(まぁ悪ガキども嫌ほど見てきたからな。そういう言葉使ってると自然と色々荒くなる。別に悪いこっちゃねぇが、ちゃんとした人の方がオレは好きってだけだ。)
《ああ、それは単純に貴方の趣味なのですね?》
(まぁそういうことだ。)
人間まず言葉から乱れるからなぁ。別に悪ガキどもが家族にいても問題ないけど、それでも家族にゃあんまそういう道を歩んで欲しくはなかったんだよオレは。
《……なぜ、今この時にステラにこの話を?》
(オレな。この世界に来て最初にワカバとコイシに会ってよ。実はその時点でもう夢、叶っちまったんだ。最高の家族が、出来ちまった。)
本当に、嬉しかった。それからずっと夢心地だったんだ。あんな娘らがオレの事、心の底から家族が一緒で嬉しいって喜んでくれるんだ。オレはよ。正直それだけで色々満たされちまってた。だからワカバを失った時も、本当に辛かったなぁ。
家族に変わりなんざいるわけねぇだろ。
《……そうですね。》
(他にもメイルさんが、ツルギが、アンダーがいてくれて。)
《……。》
(ウル達も、華の子達も。ウチノもファルケさんもマスケさんも居てくれてよ。)
(街のみんなも、冒険者の人達も。ぜんぶ、ぜんぶ居てくれる。)
ああ、人に目を合わせても怒りか怯えしかぶつけられなかったオレに、こんなにも多くの人が笑いかけてくれるんだ。
(そんで。お前も居てくれてる。)
《ええ。》
もうな。オレの欲しいモンは全部。叶っちまった。
でもな。
(オレな、すげぇ幸せなんだ。街のみんなにゃ喜ばれて、さっき変えちまった冒険者の人らからも、涙ながらに感謝された。みんなから受け入れて貰えてる。)
(でもよ。その度に思うんだ。)
(オレだけそんな幸せになっていいのかよって。)
不幸な誰かを見る度に、昔の自分の顔がチラつくんだよ。別に気にしなけりゃそれまでなんだけどよ?
(最初はな。もうワカバとコイシと、他のみんなと一緒に俺らだけでここらの片隅で幸せに暮らせりゃいいんだって思ってた。
それにオレの力は、むやみやたらと使っちゃダメなモンなんだって思ってたんだ。どう絡んでもソイツの心と身体を変えちまうコイツは、あんまり使うべきモンじゃねぇんだって。)
オレの勝手で人のアレコレ変えちまうこの力の事を、オレは正直あんまよく思ってなかった。モノだってそうだ。ソイツらは本当は変わりたくなかったんじゃないかって、そんな事どうしても考えちまうわけさ。
(だけどオレ、今日識っちまったんだ。)
(世界にゃよ。
昔のオレが抱えてたような理不尽を、抱えたまんまの人が一杯いるんだ。今日ここにきて、冒険者のオッチャンと、あの娼婦さんの言葉聞いてからそう思った。)
ああ、あの人らは結局昔のオレに似てるんだ。理不尽に追いやられちまってどうしても幸せになれない、そんな場所にいる人達。
(んでそんなどっかで困ってるヤツをこの力なら、救えるかもしれないって事を。そんで泣きたい誰かと、泣いてる誰かと一緒に笑えるかもしれんって事を。
識っちまったんだ。)
そんな人をさ。助けられるかもって識っちまった。
(ほんと、こんな事。オレが心配するこっちゃねぇんだろうけどよ。)
(出来る事なら救ってやりてぇ。)
(その人達とも家族みてぇに、本当に笑い合ってみてぇんだっ。)
(世界中にいるそんな人達をっ。)
だったら助けたいって思った。
悪ガキ達みてぇに救えるってわかった。
(そしたらよ。)
(オレ胸張って、言えるんだ。)
(オレは幸せになる筈だった自分、全部取り戻したんだぞってよ。)
あの人らを救うことで、オレは昔の自分を救った気持ちになれるんだ。昔からそうだ。悪ガキどももそうだ。オレ自身が救われないから、せめてそのチャンスがあるアイツラには幸せになって欲しかった。
だから目につく所で悪ガキどもにおせっかい焼き続けた。そうする事で少しだけ、自分が救われた気になれたから。
ようはソレの延長なんだ。完全にオレのわがまま。
(みんなは嫌なら拒否できるんだけどよ。オメェはそこらへん無理だからさ。最初に言っときたかった。)
《……バカですね、貴方は。》
(へっ、知ってらい。)
だからみんなにも後で聞くつもりだ。
いろんなトコにいる理不尽に追いやられた奴らを、助ける為に旅に出てぇってよ。みんながどう思うか分からんけど、それでもオレは決めたんだ。
《言われなくとも付き合いますよ貴方に。ステラはどこまでも貴方と一緒ですよ。救いましょう、救えるだけ助けられるだけ貴方の望むままに。きっとそれは厳しい道程ですが大丈夫。貴方にはステラがいます。そして多くの仲間達が。家族が。》
(おう。)
ああ、本当にこいつは頼りになる。オレは恵まれすぎてるよな。改めてそう思うわ。カミサマにも感謝してるぜ。神棚、ウチノの家にでも作るかな?
《では話が以上ならば改めて状況を開始しましょうか。
対象は混乱状態。【シャイニングレイン】の使用を推奨。》
(わかったっ!)
これからオレは勘違いでなく、成り行きでなく、自分の意思でこの力をあの女の人に使う。これからはオレがちゃんと決めるんだ。
掴みたいんだ。
そいつの輝かしい明日を。
《神威。主の有り様を示し、虹の橋の名を持つ少年よ。》
(ん?)
《みなが貴方に変えられる事を望んでいる。
貴方のお人好しを絶望に見せつけてやりましょう。我が女神よ。》
(ああ、それだけは得意分野だっっっっ!!)
・
加速していた思考が鈍化し、世界の流れと交わり始める。
こうしてオレは、神様より全てを美少女に変える力を貰った不幸だった1人の男は。世界中の人を救う旅に出る事を決意した。
それはまさに世界中を股にかけた大冒険で。
世界を救う為でなく、魔王を倒す為でなく、世界中の人々を救う為の第一歩。
つまりオレはこの時、冒険者になることを決めたんだ。
閲覧ありがとうございます。
やっと色んな覚悟を背負った神威くん。お人好しが彼の本当の武器です。
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