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ERROR CODE:  作者: 彩塔 双葉
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#05 By any CHANCE can't COME BACK…?


「エラーですかぁ……。うーん、恐らくタブレット側の問題だとは思いますけどねぇ」



 連絡を受けた柊は学校帰りだったらしく通学鞄を持ったまま、特殊能力研究の権威である古見と津島(つしま)(じん)を連れて慌てた様子で雪乃たちの元を訪れた。

 不幸中の幸いか、この日のアトラクション参加予定者は十七夜たちが最後だった為、小比類巻と巽がすぐにタブレット端末を管理局へ持っていき技術部でメンテナンスすることになった。



「そうだといいんだけど。今までこんなことなかったから心配で」

「確かに、電子機器を使って特殊能力の応用を実践したのも今回が初めてなのでなんとも言えないのが事実なのです」

「えっと、天王寺屋先生の能力は確かこの世界と先生の考えた物語世界を繋ぐ能力……でしたよね」

「ええ」

「それなら、大丈夫だと思いますよ。先生の物語世界は先生の想像が全て――つまりエラーなんて起こしようがないでしょう?」

「確かに!」

「でももし、世界同士を繋ぐときにエラーが起きたとしたら?」

「能力自体のエラーか……。特殊能力は絶対的な言わば魔法のようなものだからこそ特殊能力なのだと考えていたけれど、そうだとしたらやはり古見先生の考えの方が正しいと言えるのかな」

「ですが、雪乃さんの能力は僕の仮説ではまだ証明しきれていない力ですよ?」



 人間の脳や身体の機能が通常の状態を超越したことによる力、古見の考えでは特殊能力はそう定義付けられている。例えば透明化の能力は決してその姿自体を透明化させる訳ではなく、他者の盲点を突くことに長けた能力であると証明される。

 特殊能力そのものを略奪する小比類巻の力であれば、並外れた集中力で能力の特徴を的確に捉え瞬時に模倣することで自分のものにし、模倣された対象は動揺によりその力が一時的に使えなくなるのだと証明された。小比類巻自身も一度しか使えないのは本人の集中力の限界が丁度その程度だからだろうと考えられた。

 古見が立てた仮説はあらゆる特殊能力のメカニズムについて証明してきたが、どうしても雪乃の持つ現実と虚構を繋ぐ能力に関しては証明できなかったのだ。



「そうね、今の古見くんの仮説では私の能力は証明できない。でももしそれが正しいとしたら……なんて皮肉なのかしら」

「雪乃お姉さんの能力のエラー……一体何が起こるのでしょうか……」


 四人は、本来は単なる装飾に過ぎなかった丸机を囲むようにして並べられた椅子に座って向かい合いながら視線を落とし暫く思案した。


「現実と虚構が繋げられなくなるなら……あれ? あんまり何にも影響ないかもしれないね」

「でも、最後に能力を使ったときの対象は雪乃さんの物語世界に行っちゃったんだよね?」

「ええ。だから考えられる最悪の事態は……」

「あっ、もしかして、帰って来れない……?」


 津島がそれぞれの目を見ながら恐る恐る呟くと、雪乃は静かに頷いた。


「あくまで憶測ですが。もしくは、逆に現実と虚構の境界が曖昧になって私の意図しないうちに物語世界の何かがこちらの世界に侵入していることも考えられます」

「……そっちの方が恐ろしいかもしれないね。空想上のモンスターとかが現れたら大変だ」

「直結することで言えば、本の中の檻が機能しなくなる可能性もあるわけですからねぇ」

「能力犯罪者が大量に脱走なんてことになったら一大事じゃないか!」

「もし本当に能力自体のエラーだったとしても今回のことだけで治まってくれていたらその心配はないけれど。念の為に図書館に戻ってみますね」


 雪乃が立ち上がり部屋を出ようと扉に手をかけたその時、津島が何かを思い出したように彼女を引き止めた。


「どうかしましたか、津島先生」

「いや、最後に先生が能力を使った人はどんな人だったのか聞きそびれていたから。参考までにね」

「ああなるほど。えっと……あ、タブレットがないんでした」

「あの、タブレットなんですが、どうやら何の問題もなかったみたいなのです」


 スマホの画面をちらちらと見ていた柊がそう口に出す。技術部の解析では異常は見つからなかったようですぐにこちらに返しに来るというのだ。


「じゃあいよいよ能力自体のエラーということで確定なのかな」

「その可能性が高いですねぇ」

「私、何か変なことしてしまったかしら」

「天王寺屋先生は悪くないよ、きっと」

「何が原因なのか調査する必要がありますね」


 漂う暗く重い空気を入れ換えるように扉が開かれる。現れた技術部の青年は能天気そうに笑うと柊にタブレットを手渡し去って行った。


「すぐとは言っていたけど……早過ぎない?」

「まるで初めからそこで待っていたみたいですね」


 あまりの迅速さに津島は純粋な疑問をぶつけ、古見もいつもの調子で猜疑(さいぎ)心を露わにしている。


「先生方何を言いますかぁ。管理局の職員さんはみーんなすごい能力を持った精鋭ばかりなのです!」

「じゃあ、さっきの人は瞬間移動の能力者とか?」

「でも通り魔事件の犯人は高速移動の能力者だったのもあってか、なんとなくだけど悪い風に考えちゃうよね……」

「それは違うのです! 能力と性格や行動はリンクしませんし、何より彼の能力は足止めを食らわない能力なのです」

「足止めを食らわない能力?」

「はい! 例えばですねぇ……信号に引っかからなかったりどんな人混みでもさくさく掻い潜ることができるという能力です!」

「なんというか、究極に運が良いという感じなのかな」

「もしくは、人間の行動心理を熟知した上で信号の周期も把握しているのかもしれません。何にせよ、それだけではこの早さは証明しきれないというか……」

「彼は学生時代、陸上部で短距離の代表選手だったらしいのです!」


 示されたとてもシンプルな解答に、何を真剣に考えていたのだと権威ある教授たち二人は揃って苦笑していた。


「津島先生、最後に私が能力を使った対象のことですが」

「ああ、そうだったそうだった」


 「忘れるところだった」と津島は頭を掻きながら弱ったように眉を下げて笑う。そのまま雪乃が提示しているタブレットの画面を覗き込むと、「えっ」と声をあげて急に青ざめた。


「常之君と十七夜君……?」

「もしかして、先生のお知り合いで?」

「うん。二人とも僕の大事な友人だよ」

「十七夜って確か……」

「はい、管理局が保護観察対象としている方の名前がそうなのです」

「待って柊さん。どうして十七夜君が管理局に目を付けられるようなこと、彼は一般市民なのに」

「……その様子だと、彼は能力のことを周りには黙っていたみたいですね」


 十七夜の能力は危険であることに違いはないが、発動条件が特殊なだけに隠そうと思えばいくらでも隠せただろうと柊は考えてみる。

 柊自身が無意識のうちにでも分かってしまうことをその他大勢は知る由もない。能力を分析することで自分よりもずっと年上の大人たちに指示を出してきたが、仮にその純粋さと信頼がなければ、ただの妄言吐きと思われても何ら問題なく、おかしな奴だと思われて当然と言えた。

 津島からしてみれば柊の言うことはまるで理解できなかった。信頼を置く友人が保護観察の必要な注意人物などと言われる謂れに全く心当たりがなかったのだ。


「能力について口外する義務はありませんし、無闇に言いふらすと却って事件に発展しやすいので寧ろ黙っておく方が正しいんですけどね」

「それで、十七夜君の能力って一体……」

「致命的な脅威がその身に降り掛かる前に回避する能力――です」

「それってつまり……十七夜君自身は何があっても死ねないということ?」


 彼がいつか「死にたい」と口にしていたことを津島は思い出す。そしていつも何処かに滲ませていた仄暗(ほのぐら)さの訳を全て知ることはなくても、片鱗を掠めたような気がした。


「そう捉えるなんて、とっても津島先生らしいですねぇ。まったくもってそれで間違ってはないのです」

「その反対に、周りに危害を加えることにもなり得る……そうだよね柊さん」

「はい、ですから津島先生にも十分その危険があったということなのです」

「僕は平気だよ、現にこうして元気に生きている訳だし。それより、十七夜君は能力のせいできっと今までたくさん苦しんできたんじゃないかな」

「そうですねぇ。冠崎さん自身を護る為にも、一刻も早く管理局で保護しないとなのです」

「その為にもひとまず、二人がちゃんとこっちの世界に帰って来られるのか確かめないといけないね。雪乃さん、大丈夫そう?」

「ええ、私は大丈夫よ。二人とも無事に帰って来れると良いんだけど」


 雪乃は十七夜と常之の名前が記されたページを、さながらアプリをタスクキルするように指で上に払った。すると払った指先に人影が現れる。


「……っと。あれ、戻ってきたのか? はぁ、散々な目に遭ったよ。なんで僕が何回も何回も死なないといけないのさ」

「常之君!」

「あ、津島? なんでアンタがここにいんの?」

「そんなことより! 十七夜君は?」

「十七夜? 僕が戻ってきたならアイツも……あれ?」


 常之は部屋をぐるりと一周見回すが、見えた人影は津島と雪乃と柊と古見だけだった。


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