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#6.5 The LOST GIRL APPEARED.
ここはどこだろう、気が付いたら振り落とされていた。
見慣れたようで初めて見るような光景が目の前には広がっていて、恐ろしいことに人が沢山いる。それなのに、あの人はいない。
どこかから声がする。知らない声で名前を呼ばれる。その声が段々と数を増していくから怖くなって物陰に隠れて蹲った。すると、足元にこそばゆい感覚がした。猫だった。
するりと去っていく猫を追いかけていると、また名前を呼ばれた気がした。でも今度は知ってる声だった。きょろきょろと辺りを見回しているうちに猫は見失ってしまったけれど、やっと知ってる顔を見つけることができた。でも気付いてもらえない。
やっぱりここは何かおかしい、夢の国だから? 嫌でも聞こえてくる声の欠片を寄せ集めた〝噂〟でしかないけれど、現実から逃れる為に鏡を無くしたり世界から切り取られたみたいに周りのことを忘れさせるいろいろな工夫がされているらしい。
忘れられてしまったのか、忘れてしまっているのか。分からないけれど、あの人の服の裾を掴んだときにふわりと香った柔軟剤の匂いはよく知ってるものだったのに。