第1章「アルタナ帝国革命篇」第3話・『アズ ユア ウィッシュ』
【第3話】
○アルタナ帝国・住宅地・朝・外
オリヴィアとオスカーを見失ったリュカス含める帝国軍兵士は辺りを捜索している。
リュカスの首元には千切れたネックレスの鎖。
リュカス「クッソ……‼︎ どこ行きやがった……」
足元の石を蹴り飛ばすリュカス。
蹴飛ばされたい石はオリヴィアが落としたペンに当たる。
リュカス「ん?」
ペンを拾いに行くリュカス。
リュカス「なんだこれ……?」
ペンを拾う。
x x x
リュカスの頭の中に様々な映像が流れる。
大昔の景色。
戦争する人々。
アモルの活躍。
魔族ヘクサの暗躍。
鼐道藝の人々。
倒れていった王国の権力者たち。
戦争を繰り返す人間たち。
憂世樹頭首の残虐非道な裏側。
笑顔で死にゆく魔族の女性。
残酷に殺されていく人々。
x x x
リュカス「あぁぁぁぁぁぁぁあああああ‼︎」
リュカスは発狂し、その場に頭を抱え蹲る。
その声を聞き、下士官のカレンディオ・ビーバー(26)が現れる。
カレンディオ「どうした! リュカス・マッカーサーよ!」
リュカス「あぁが…、ああ」
よだれがこぼれ落ちるリュカス、立ち上がり、周りをふらふらと歩き回る。
ペンを落とす。
カレンディオはリュカスの体を支え、背中を手でさすっていると、他の仲間の兵士もリュカスの元にやって来る。
帝国軍兵士B「大丈夫か……? リュカス」
帝国軍兵士C「立てるか?」
リュカスの息が徐々に整っていく。
少し躊躇いながら、再びペンを拾うリュカス。
カレンディオ「敵を逃したのはしょうがない。とりあえずもう基地に戻る時間だ。さぁ、行こう」
他の兵士もそれに従い、基地の方角に歩き出す。
リュカス「さっきの……、なんだったんだ?」
リュカス、ペンを胸ポケットに入れる。
基地方面に向かうリュカスの後ろ姿。
○アルタナ帝国・地下道・朝・内
歩いているオスカーたち。
オスカー、ヴォルをチラチラと見る。
ヴォル「どうした、若造よ」
オスカー「あ、えっと…、ヴィーナスさん」
ヴォル「ヴォルでいい」
オスカー「あ、じゃあ……、ヴォルさん。さっき700年って言ってたのって…、あれは…冗談かなんかですか?」
ヴォル「あぁ、それはな」
ロー「(食い気味に)爺さんのこと疑ってんのか?」
ローはオスカーの胸ぐらを掴む。
ロー「爺さんの言っていることは本当だぞ」
オスカー「い、いや別に疑ってるわけじゃ! ただ気になっただけで」
ヴォル「ローよ。変に突っかかるのはやめなさい」
ローは足を止める。
ヴォル「何だ。何か文句でもあるのか」
ロー「いや……、爺さん。違うんだ。前見てくれ……」
オスカー「な、なんだこれ」
一行の目の前に聳え立つ巨大な壁。
ヴォル「……ほぉ」
オリヴィア「……」
オリヴィア、固まるように壁を見つめている。
ロー「これじゃあ、どうやって先に進むっていうんだよ」
オスカー「地上に出るしかない、ですかね」
ヴォル「……そうだな。ローよ。この上はどの辺りかわかるか」
ロー「おそらくだけど……、ハイデニー辺りだと思う」
ヴォル「ハイデニーか。……なるほど」
ロー「でも……この壁、何なんだろうな。前まで無かった気がするのに」
ヴォル「この壁に触れるのは止そう。少し嫌な予感がする」
オスカー「嫌な予感……? 確かになんか変な音聞こえません?」
ヴォル「音だと……?」
一行は耳を立てる。
ロー「何も聞こえねぇじゃん」
オスカー「あれ……、聞こえたような気がしたんだけどな」
ローはオスカーの背中を蹴る。
オスカー「痛っ」
ロー「こ、怖ぇこと言うな!」
オスカー「ご、ごめん」
ヴォルはローの頭を軽く叩く。
ヴォル「ローよ、ハイデニーまでの道を先導しなさい。オリヴィアよ。お前はこれを着て顔を隠しなさい」
ヴォルは壁を見つめているオリヴィアに大きなフードがついている服を手渡す。
ロー「わかったよ」
ロー、顰めっ面で道を先導する。
オスカー「僕も、これ(軍服)脱いだ方がいいですかね」
ヴォル「いや、若僧、お前はそのままでいい」
オスカー「なんでですか?」
ヴォル「その服が活躍するからだ」
オスカー「……活躍?」
ヴォル「あぁ、それはもう」
ヴォル、口角を上げる。
○アルタナ帝国・ハイデニー・ハイデニスト商広場・昼・外
ヴォル「立派にな」
広場の中心に立つオスカーたち。
多くの人が行き渡る広場。
盛んな商人たちの声が響き渡っている。
オスカーの周りに集う人々。
商人A「マーロット兵の方、これどうぞ!」
商人B「これも貰ってって」
住人A「マーロット兵様! 勝利をありがとう!」
住人B「我らの希望の光!」
戸惑うオスカー。
○アルタナ帝国・帝国軍基地スポルコ支部・大会議室前・昼・内
大会議室の扉。
中から声が聞こえて来る。
扉には『会議中』の札が貼られてある。
○同・大会議室・昼・中
会議をしている帝国軍兵士たち。
不法入国してきたマーロット兵を逃したことを中心に話が繰り広げられている。
扉が開く。
会話をやめる人々。
そこにはドグラマ・トイレンジ大尉(34)が立っている。
ドグラマ大尉「東区域の者共よ。ネズミ一匹捉えられなかったと聞くが、何があったのかね」
ドグラマ大尉はズカズカと会議室を歩き、奥の椅子に腰掛ける。
勢いよく立つカレンディオ下士官。
カレンディオ「負傷していたマーロット兵は忽然と姿を消し、我々から逃れました!」
溜め息を吐くドグラマ大尉。
ドグラマ大尉「……カレンディオくん。君はバカかね」
ドグラマ中尉はタバコを咥える。火をつけようとライターを探し始める。
ドグラマ大尉の側近が手を添え、ドグラマ大尉のタバコに火をつける。
ドグラマ大尉「そんなことあるわけなかろう」
リュカス「(食い気味に)本当です」
一般兵のリュカス、勢いよく立ち上がる。
リュカス、一歩前に出る。
ドグラマ大尉「誰だね。君は」
リュカス「第12番隊一般兵、リュカス・マッカーサー。マーロット兵を目の前で逃した張本人です」
ドグラマ大尉、立ち上がり、リュカスの目の前まで歩く。
ドグラマ大尉「君か……」
タバコの煙をリュカスに向かって吐き出すドグラマ大尉。
ドグラマ大尉「消えた消えてないはどうでも良いんだ」
無表情なままのリュカス。
ドグラマ大尉「逃したことが問題なんだ。そこら辺の覚悟はできているのかね?」
リュカス「覚悟ならあります」
ドグラマ大尉「……ほぉ、どんな覚悟だね」
ドグラマ大尉はタバコをリュカスに当てようとする。
リュカスはそのタバコを奪い取り、ドグラマ大尉の口に再び咥えさせる。
ドグラマ大尉は驚き、佇む。
リュカス「帝王に全てを捧げる覚悟。そのためなら何でも受け入れます。例え、死さえも」
ヴィヴィオ中将「はっはっはっはっはっ‼︎」
端に座っていたヴィヴィオ・マスターレイヴン中将(37)が高笑いをしながら現れる。
ヴィヴィオ中将「気に入った! 私は大いに気に入ったぞリュカス・マッカーサーよ!」
その場にいた多くの者がヴィヴィオ中将を見る。
ドグラマ大尉「な、なぜヴィヴィオ中将がここに……!」
ドグラマ大尉は慌てて敬礼をする。
ヴィヴィオ中将「私がここにいてはいけないのか。ドグラマよ」
ドグラマ大尉「い、いえ。そう言うわけでは」
ヴィヴィオ中将「なら良い。……リュカス・マッカーサーよ。先ほど、死さえも受け入れると言ったが、帝王に命を捧げる覚悟はあるのか?」
リュカス「愚問です」
ヴィヴィオ中将「ほぉ。良いぞ。貴様は私について来い。帝王の側近部隊である第1番隊の所属を許可しよう。今、帝王への忠誠心が強い奴を帝宮に集わせているため、貴様のような者が求めていたところだったのだ」
リュカス「……! ありがたきお言葉」
リュカスは跪き、ヴィヴィオ中将に忠誠を誓う姿勢を取る。
周りの兵士たちはざわつく。
ヴィヴィオ中将「戻って良いぞ。リュカス・マッカーサーよ」
リュカス「アズユアウィッシュ」
リュカスは元の位置に戻る。
ドグラマ大尉「しかし……、良いんですか? 中将。マーロット兵を逃した者に何も処罰しないことは、軍として示しがつかないのでは……」
ドグラマ大尉はヴィヴィオ中将の耳に手を当て、こっそりと話す。
ヴィヴィオ中将「良いんだ。ああいう奴は使える。それに」
ヴィヴィオ中将は小さな声で囁く。
ドグラマ大尉「あぁ。ほほぉ。なるほど。それは良いですな」
ヴィヴィオ中将は笑む。
兵士、リュカスの背中を叩く。
リュカスの胸ポケットからペンが落ちる。
帝国軍兵士D「よかったな、リュカス。帝宮所属だ。一般兵から大出世じゃないか」
リュカス「あぁ、嬉しいよ」
リュカスはペンを拾う。
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リュカスの頭の中に何者かが現れる。
???「スクエ、セカイヲ。アラガエ、サダメニ」
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リュカスは固まる。
帝国軍兵士D「どうしたんだ?リュカス。強く叩きすぎちゃったか?」
リュカス「……あ、あぁ。大丈夫だ、何でもない。(呟くように)……何なんだ一体」
続きは次回へ