第1章「アルタナ帝国革命篇」第1話・『日常を取り戻したい少年と平和を望む少女』
「Berceuse de la Paix」
登場人物表
オスカー・シックザール(17)……今作の主人公。崩壊した国『ラグラトプ』出身のマーロット連邦共和国軍一般兵の青年。
オリヴィア・アモル=フィロテンス(17)…絶滅したと思われ伝説上の存在となっていた種族『アモル』の生き残りの少女。弟のオリヴァーに声を奪われ、現在は声が出せない状態。声を取り戻す為、弟を探し求めている。
リュカス・マッカーサー(18)…アルタナ帝国軍第12番隊一般兵。神を信じ、アルタナ現帝王ジョエル・アルタナに命を捧げる。戦争で父親を亡くし、母親も病床に着いている。唯一の肉親である妹を守るために軍隊に入った。
【第1話】
○ラグラトプ王国・サザビーズ区・昼・外(樹暦2392年)
M:OP曲
人々が行き交う。
盛んな町。
アイスクリームを食べる子供。
笑いあっている男の子たち。
老夫はベンチで新聞を読む。
手を握り合って歩くカップル、オスカー・シックザール(16)は微笑む。
太陽が出来立てのアスファルトを照らす。
ベンチに座っている少年の汗が垂れる。
冷えたジュースをその少年の首筋に当てる少女。
驚く少年。
笑う少女。
砂場で遊んでいた幼女と幼児は、空に向け指を差す。
その場にいた者たちは、その幼女の指差す方向を見る。
飛行機が飛んでいる。
次の瞬間、光が街を包む。
大きな爆弾の音が鳴り響く。
M:OP終了
○アルタナ帝国・スラム街スポルコ・郊外・朝・外(樹暦2393年)
人気が無い街風景。
読み捨てられた新聞が風に靡いて舞っている。
新聞は電柱に引っかかり、止まる。
その新聞には『マーロット連邦共和国、ジェテンダ陸戦にてアルタナ帝国に勝利。アルタナ帝国、初の敗北』の記事。
街の奥から傷だらけの青年、オスカー・シックザール(17)が脚を引き摺りながら歩いている。
オスカー、息が荒い。
しばらく歩き、街角に座り込むオスカー。
オスカー(M)「僕、オスカー・シックザールがまだ幼い頃、母親によく絵本で読み聞かせてもらった御伽噺がある」
一息ついているオスカー。
アルタナ帝国軍、オスカーを発見する。
オスカー「ちっ……!」
歯を噛み締めるオスカー、慌てて走り出す。
逃げるオスカーを追う帝国軍。
脚を引き摺りながら懸命に逃げ続けるオスカー。
オスカー(M)「昔、この世界には“平和の子守唄”と呼ばれる、人々に平和をもたらすことが出来る唄を歌うことができる種族がいた」
響き渡る銃声。
帝国軍の一般兵、リュカス・マッカーサー(18)がオスカーに向かって銃弾を放つ。
銃弾はオスカーの肩を掠める。
悶えるオスカー。
リュカスはオスカーの元まで駆け、オスカーを捕らえる。
リュカス「その命、帝王に捧げよう」
オスカー「そうはいくかよっ……!」
抵抗するオスカー、リュカスを殴りつける。
オスカー、リュカス、取っ組み合いをする。
奥から他の帝国軍のものがオスカーたちの元へ追い着く。
オスカー、リュカスが首にかけていたペンダントを引きちぎり、リュカスを蹴り飛ばす。
オスカーは再び、懸命に逃げ始める。
オスカー(M)「その唄を聴くと、人々の乱心は鎮まり、平和を齎した。そして、人々はその種族を崇めた」
○同・住宅地・朝・外
帝国軍を撒いたオスカー、住宅地に辿り着く。
オスカーの血痕が続くアスファルト。
オスカー、住宅地の一角に倒れる。痛む脚と肩をを摩る。
スポルコの住人が集まってくる。
スポルコ住人A「おい……、マーロット兵だ!」
スポルコ住人B「神聖なアルタナの地におめおめと入ってきやがって……、無礼な!」
スポルコ住人C「このゴミクズマーロットめ!」
住人は次々とオスカーに暴力を振るう。
オスカーは抵抗する間もなくなぶられ続ける
オスカー(M)「しかし、その種族の一人が人々を乱心させる唄を唄うことができた」
暴力を降っていない周りの人間も、オスカーに対し、憎悪を向けている。
オスカー(M)「その唄によって、世界中で戦争が起きてしまった」
オスカー「やめ……て、……くれ」
スポルコ住人A「お前らマーロットは我々アルタナが降参しながらも攻撃を続けた外道だ! 今更やめてと言っても遅い!」
オスカー「俺の……、せいじゃ……ない」
スポルコ住人D「息子を、息子が殺される理由なんてなかったのに!」
スポルコ住人の涙がオスカーに垂れる。
オスカーの目から涙が流れる。
オスカーは腰に掛けていた銃の引き金を引く。
オスカー「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
オスカーは銃を撃つ。
銃声が響き渡る。
オスカー「やめろって言っているだろ!」
オスカーは泣き叫びながら次々と銃弾を撃つ。
住人は次々と倒れる。
周りの暴力を振るわなかった者たちまでも撃つオスカー。
泣き叫ぶ子供にも容赦はせず引き金を弾く。
オスカー、周りにいた全員を殺し、死体の上に立つ。まだ息が荒い。涙の跡が光る。
「カラン」と遠い方で物音がする。
そっちを見ると手に口を当て、息を潜む赤髪の童女が隠れている。その童女は走って逃げ出す。
オスカー、その子の方へは行かず、反対方向にとぼとぼと歩き出す。
オスカー(M)「その戦争を止めた者はその種族の者だった。しかし、その種族は世界の人々から非難され、虐げられ、一族皆処刑された。そして、その種族はこの世界からいなくなった」
オスカーは当てもなく彷徨い続ける。
裏道の奥の方に気配がする。
オスカーはその方向に歩き出す。
奥の方で、小汚い格好をした少女が膝を抱えて座っている。
オスカー(M)「その種族の名は“アモル”と言い、透き通るような金色の髪に、透き通るような白い肌、そして紅い目を持つ」
その少女は透き通るような金髪、透き通るような白い肌で紅い目をしている。
オスカー(M)「その絵本の名前は『Berceuse de la Paix』と言う」
その少女は小汚い格好をしていて髪もボサボサ、少しばかり痩せこけているが、目だけは死んでいない。
オスカー(M)「そして僕は出逢ったんだ」
オスカー「あ、あ。……あぁぁぁ……」
オスカーの頬を大粒の涙が流れる。
オスカー「君は……、アモ……ル?」
オスカーの声は震えている。
オスカー(M)「争いが絶えないこの世界で」
少女はオスカーをただひたすら見つめている。
オスカー(M)「絶滅したと思われていた“アモル”の少女に」
オスカー「あの日みたいな日常を……、取り戻したい。……もう僕は誰も、誰も殺したくない……! お願いだ……」
オスカーは泣きながらその少女に跪く。手を取り、祈る。
少女は一瞬泣きそうになりながら、俯く。
黒齣。
オスカー(M)「言い忘れていたけれど」
少女は顔を上げる。
オスカー(M)「これは、僕とこの少女が」
オスカーと少女、見つめ合う。
オスカー(M)「世界を平和にするまでの物語だ──」
黒齣。
4.タイトル『 Berceuse de la Paix 』 第1章【アルタナ帝国革命篇】
続きは次回へ。