筋トレしてたらサイボーグになってしまった件
※サイボーグのシステム音は『』、脳内で努吏也がシステムに問いかける時は『()』で表記しています。
「798......799......800......よし、終わった」
俺は水戸 努吏也。筋トレ大好き高校2年生だ。
今やってたのは反動懸垂。今日のノルマは終わったので、ソイプロテインを飲んで眠りにつくとしよう。
☆ ☆ ☆
「いっけね!今何時だ?」
嫌な予感と共に目が覚めて時計に目をやると、その針は8時25分を指していた。全速力で走っても20分はかかるというのに、始業まであと15分しかない。
とりあえず、制服に着替えよう。朝ご飯は......仕方ないな、諦めるか。休憩時間にプロテインを飲んで凌ぐとでもしようか。
......って、あれ?
俺は異変に気付いた。まだ着替えてすらいないというのに、何故か今の俺は制服姿なのだ。
それと、若干平静を取り戻したことで気付いたことがある。さっきから、視界に座標みたいなものと変な数字が並んでいるのだ。
これは一体何なんだ?
『水戸 怒吏也は、サイボーグへと変異を遂げました。表面は液体金属に覆われていて任意の服装に変化する事が可能なため、金輪際服を着る必要はありません』
うおお、びっくりした。なんか脳内から返事が来た。
って、サイボーグだと?一体全体どうしてそうなるんだ?
『水戸 努吏也の筋力強化計画は、副作用としてサイボーグ化を引き起こします。副作用誘発率は0.0000735%です』
オーケー。脳みそが追いつかない、ということは理解した。
サイボーグ化の経緯はこれ以上解明しようとするだけドツボにはまりそうなので、実用的な質問を投げかけよう。
『(サイボーグの体なら、2階から飛び降りても大丈夫か?)』
『是。終端速度の衝撃に耐えられる構造となっております』
思った以上に耐久力が高いようだ。というか終端速度に耐えられるって相当だな。さっき液体金属とか言ってたし、密度の高さを考慮すれば終端速度そのものも一般人とは比べ物にならないくらい速いだろうに。
とりあえず耐えられることは分かったので、荷物を抱えて窓から飛び降りる。難なく着地できた。
あとは、間に合いはしないだろうが学校までひたすらダッシュするだけだ。
通学路を全力疾走していると、俺は流れる風景がいつもと違うことに気づいた。何というか、車で走っている時のようなスピードで景色が変わっていくのだ。
おかしいなと思っていると、視界に移っていたとある数値に意識が向いた。
そこには、「50km/h」と表示されていたのだ。
そりゃあ速いわけだ。
しかしこれは思わぬラッキーだな。この分なら、遅刻せずに学校に着けそうだ。
そう思っていた矢先──
『曲がり角に生体反応あり。通常の減速での回避不可能。これより緊急停止を行います』
......今なんつった?時速50キロ、サイボーグの重量で人にぶつかったら最悪の場合相手死ぬぞ?
焦りで思考が遠のいていく俺。
しかしながら、それとは対照的にサイボーグとしての「俺」はちゃんと動作していた。
足元の液体金属が刃渡り数十センチはあるかという超細長スパイクに変化し、プリンにフォークが刺さるかの如くアスファルトを抉る。
結局、コンマ1秒とかからず時速50キロから停止できた。
「なんとか正面衝突は避けr──ゴッ!!」
確かに、俺は急停止できた。
しかし、それは決して衝突の回避成功を意味している訳ではない。
そう、相手の方が止まれなかったのだ。
人との衝突により、飛び散る液体金属の飛沫。
・・・っておい。本気で固めればアスファルトを容易く貫通する癖に、平常時はちょっとした衝撃で飛び散るのかよ。
『是。飛沫液体金属を通し、様々な情報を取得することができます。それを最大限活用すべく、自分に害を成す存在に自然と液体金属を付着させる工夫が成されております』
『衝突者およびその周辺環境のプロファイリング開始。物体Xの組成比情報の取得に成功。タンパク質19%、炭水化物18%、食塩相当量16%、銅16%、食物繊維総量14%、葉酸13%、カロリー13%、亜鉛11%、資質10%。物体Xを食パンと特定』
衝突した相手に目をやると、そこにいたのは確かにパンを咥えた女子高生だった。そのパンの上にはごく微量の液体金属が飛び散っている。
・・・うわぁ、これ典型的な「いっけなーい、遅刻遅刻!」系女子高生だ。しかも結構可愛い。
まるでラブコメの1シーンかのような状況だけに、サイボーグによる解析が余計に滑稽に思えてしまう。
「......お怪我はありませんか?」
必死に笑いを堪えながらも平静を装い、相手を気遣う。
サイボーグのシステム音声は俺にしか聴こえてないはずなので、ここで笑ってしまったらおかしな人だと思われてしまうからな。
「はい、大丈夫です。そちらこそお怪我はありませんか?」
女子高生はしっかりと俺の目を見て返事をした。
こうして見るとマジで美人だな。ああ、こんな時なんて返せばいい?
高ぶる緊張でだんだんと呼吸が浅くなっていく、まさにその時だった。
『対象のプロファイリング完了。対象の氏名は神保 恵奈。遺伝コードの保存が完了した為、いつでも神保 恵奈の情報にアクセスする事ができます。』
全く、こんな時にシステム音声かよ。邪魔でしかねえ。
・・・いや、待てよ。これはチャンスかもしれない。少々卑怯な気もするが、この情報を利用して親睦を深めさせてもらうとしようか。
『(神保 恵奈が今1番困っていることは?)』
『特記事項を読み上げます。神保 恵奈の物理、数学の偏差値は某三流模試基準でそれぞれ27、28。今日これから行われる試験で進級できるかどうかが確定、留年率は67%です』
なるほど......って、おい。試験今日かよ!
教えるにしても時間が無さすぎる。というか学校ついたらもう試験開始だろ。
うーん、何というか使えるようで使えない情報だったな。何かいい手はないのか......
『神保 恵奈に変異しますか?』
......それだ!
そうだ、完全に忘れていた。俺はサイボーグ。液体金属の形状変化でどんな人間にもなりすませる。
「神保さん」
「......へ?何で私の名前を?」
「詳しいことは後で話します。今日、物理と数学のテストですよね」
「え……まあ、そうですけど……」
「進級がかかっているんですよね?僕が代わりに受けてきます」言いながら、液体金属の形状を変えて神保さんを象る。
神保さんは、カッと目を見開いて口をあんぐり開けたまま石像のように動かなくなった。
「時間が無いので、説明は後回しにさせてください。必ず両教科満点を取ってきます。試験が終わってから、13時に10丁目交差点前のコンビニで会いましょう。それまで何があっても決して学校に近づかないでくださいね」
約束ですよ、と念押しすると、神保さんは状況を飲み込めないながらも何度も頷いた。
それを確認すると、俺はサイボーグのシステム音声のナビゲーションに従い神保さんの高校に向かって走り出した。
・・・俺の学校?そんな些事はこの際どうでもいい。
☆ ☆ ☆
結論から言うと、試験は拍子抜けするほど簡単だった。
というのも、サイボーグとしての演算能力だけでほぼほぼ解決してしまったのだ。
例えば、確率漸化式の問題は「10↑↑10回の試行の後、最も近い分母・分子共に2桁以内の既約分数を収束先と暫定する」とかいう演算量任せな方法で解けてしまった。あれはもはや数学と呼んでいいのか分からない。
物理はというと、サイボーグのシステムに物理エンジンが搭載されていたため値を設定したら勝手に演算してくれた。
そんなわけで......ほぼほぼ満点なのは間違いないと思う。
何がどうあれ留年回避は確実だろう。
意気揚々と約束したコンビニに向かうと、イートインコーナーに神保さんがいるのが見えた。
『警告。変異を解除していません。このままでよろしいですか?』
・・・よろしい訳ないだろうが。
物陰に隠れ、慌てて元の姿に戻った。
「あ、あの......一体何から話せばいいのか分からなくなっちゃって......もう少し落ち着いて話せる所に行きませんか?」
俺を見かけるなり、神保さんはしどろもどろになりながらそう提案してきた。
まあ、そうなるだろうな。
あれだけ奇怪な現象が起これば、時間が経つにつれ冷静さを取り戻すどころか余計に混乱したっておかしくはないだろう。
「落ち着いて話せる場所、ですか......。どこか心あたりはありますか?」
「ここから西に向かって100mくらいの所に個室付きのカフェありますよね。そこ行きませんか?」
「分かりました。ではそこで話しましょう」
「......あ、でもやっぱりあそこはダメです。確かあそこはコーヒー1杯で1200円くらいかかりますし、個室利用は1人あたり5000円以上使用の客限定だったはずです」
「……なるほど」
1人5000円か。流石にそれは持ってないな。
そう思った時。ふと、コンビニATMが目に留まった。
『(ATMのセキュリティを突破することは可能か?)』
『是。PINコード取得推定所要時間は0.5秒です』
「あの、良かったら私の家でも......」
「......神保さん。お金の心配ならいりませんよ」
なんか急展開のチャンスだったような気もするが、気が動転しているどさくさに紛れて事に及ぶのは俺のポリシーに反する。
一か八かだが、ここは「サイボーグっぽい事」を数多く実演しておいた方が神保さんの事態の飲み込みも早くなる気がする。よし、やってみよう。
人差し指の液体金属をカードの形に変化させ、ATMのキャッシュカード挿入部分に挿し込む。
と同時にキャッシュカードを模した磁場を発生させ、システムへの介入も開始する。
『──PINコード取得完了。引き出し額を入力してください』
『(20万円)』
数秒後、ハッキングした機械からは20枚の福沢諭吉のブロマイドが出てきた。
「楽勝っす」
神保さんは、半笑いの表情で頭を抑えていた。
☆ ☆ ☆
「つまり、私の答案はほぼ満点ってことね」
俺がカフェの個室に映し出した映像を見ながら、神保さんが問いかけてきた。
どうやらサイボーグとしての俺の目はプロジェクターとしての機能を持ち合わせているらしく、そのおかげで神保さんへの説明は割とスムーズにいった。
俺が液体金属式サイボーグであること。サイボーグとして神保さんになりすまし、試験を受けて来たこと。その試験はほぼ満点確実なこと。その全てを、神保さんは「理解はしてないけど把握はして」くれた。
ATMのセキュリティを破った件を話すと「もうさ、努吏也がその気になれば世界征服とかできちゃうんじゃない?」とツッコまれた。
そこまでなら良かったのだが、直後にシステム音声の野郎が『是。水戸 努吏也はサイボーグ化により惑星破壊級の軍事力と世界中の最高機密に容易にアクセスする演算能力を身につけています』と来やがった。余計なお世話だ。
「しかし、大事な試験をよくどこの馬の骨とも分からんサイボーグに任せる気になったな。心配じゃなかったのか?」
「あの時の私に冷静な頭が1ミリでもあれば任せはしなかったわね。......努吏也がやったのはそれだけ非常識なことなのよ?」
それもそうか。
ちなみに、説明を重ねていくうちにいつの間にかタメ口になったのだが、それがいつからだったかはよく覚えていない。
「......ねえ、努吏也」
「何?」
「お願いがあるんだけど」
「どうした?」
「……私の家庭教師になってくれない?」
どういうことだ、と思って聞いてみると、神保さんはどうやら勉強が嫌いで成績が落ちたわけではないらしい。
中学まではトップクラスの成績だったが、高校に入って急に分からなくなり、脱落してしまったのだそうだ。だが、俺の「目からプロジェクター」での試験内容の説明を見て、「このサイボーグとなら成績を取り戻せそうだ」と直感したらしい。
そういう事なら問題ないぜ、と返事をすると、最後にもう一つお願いがあるのだという。
「……今度の土曜日、一緒にその……買い物とか行かない?」
☆ ☆ ☆
神保さんと一緒に買い物に行く約束をした土曜日の前日まで、俺は可能な限り沢山の男性アイドル、モデルのサイン会や握手会に出向いた。
そして、とにかくイケメン達の外見を3Dスキャニングしまくった。
このために何度ATMのセキュリティを破ったことか。
だが、その惜しみなき努力の甲斐あって、俺は最高の美男子をモデリングするのに十分な外見データを集めることができた。
「よし、バッチリだな」
約束の当日。
待ち合わせの駅の鏡張りの柱で、俺は液体金属整形の最終チェックを行った。
なんかいつもの数倍の視線を浴びている気がするし、駅の改札付近で芸能事務所のスカウトっぽいものをもらうというお墨付きも得たし、今の俺は最高のイケメンに仕上がっているとみて間違いないだろう。
そうこうしていると、駅の向こうから見覚えのある美少女が歩いてくるのが見えた。
『神保 恵奈の遺伝コードとの一致率99.98%』
・・・うん。システム音声君はちょっと黙っていようか。
「おはよう、恵奈」
「......あんた誰!?」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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