最終話 関係
「……。」
目が覚めるとそこは、……病室だった。私は生きていた。何故?足に少しの痛みを感じながら辺りを見回すと、自分が寝ているベッドの横に、一人の少女が座りながら眠っている姿が見えた。
「沙紀……さん?」
「んぅ……?」
彼女が目を覚ます。まるで、あの部屋で目覚めたときのように。
「南さんっ!」
沙紀さんの目がカッと開き、私に抱き着いてくる。どうして彼女がここに?
「よかったあああぁぁぁ南さああああぁぁぁん。」
大声で私を呼んでくる。あの冷静で格好良かった姿からは想像できないような動揺っぷりだった。
「なんで……?私を置いて逃げたはずじゃ。」
「置いていける訳ないでしょ!」
どうやら彼女が部屋を出た後、私のために助けを呼んでくれていたらしい。
「あの後戻ってすぐに救急に電話したの!無事でよかったあぁ。」
彼女がここまでしてくれてとても嬉しい。でも。
「……どうして。」
「えっ?」
「どうして私を!助けたの!」
そう、沙紀さんを危険な目に合わせたのはこの私だ。
「私があなたを閉じ込めたの!本当よ。なのにどうして!」
決して許されてはいけない。犯罪を行ってまで生き残るつもりはなかった。
「……だって。」
彼女が落ち着きを取り戻した後、こう呟く。
「南さん、泣いてたんだもん。」
「っ!」
「瓦礫で逃げられなくなったあと、私に出てけって言ったでしょ。あれ、私を助けるためだよね。嘘だったらあんなに悲しい顔して、怒鳴らないよ。」
瓦礫では私の表情は隠せなかったか。やっぱり、沙紀さんは賢い。
「そこで分かったよ。私を閉じ込めたのは本当。でも、私を心配してくれてたのも本当だよね。」
何も言い返せない。彼女を傷つけるわけにはいけないと思ったのは事実だ。
「だからって、私を助けたの?犯罪者なのに。」
「……。」
彼女が押し黙る。やはり、憎んでいるんだろうな。私を恨んでいるんだろうな。そう考えると、悲しさがあふれていきた。自業自得ではあるが。
「……南さんと、仲良くなりたいと思ったの。」
喜びの感情が湧く。駄目だ、油断するな。
「勿論あなたが仕組んだって聞いて驚いたよ。こんなに不安にさせて、しかも隣にいたあなたが私を騙していたなんてショックだった。……でも逃げたあと、あなたのことが忘れられなかった。」
その言葉を聞くだけで嬉しい。
「犯罪者を助けるなんておかしいとも思った。このまま放っておいて、警察に連絡しようとも思った。……でも南さんと、もっと話したいとも思った。」
私がこんな気持ちを抱いてはいけない。私は罪を背負わなければいけないはずだ。しかし、今私の心は高ぶる感情でいっぱいだった。
「あそこで別れるのは嫌だった。その方が、今後ずっとあなたのことが忘れられなくなってしまうから。今あなたとまた会えて、とっても安心してる。」
あぁ……、私はこんなに善い人を自分のためだけに利用しようとしていたのか。罪の自覚と、私を想っていてくれていたことへの喜びと罪悪感が混ざり合って、今まで押しつぶしていた感情があふれ出した。
「……ごめんなさい、ごめんなさいいいいぃぃぃぃ。」
沙紀さんに抱き着く。彼女も、私の頭をなでてくれる。
「私、沙紀さんと話したかった。一目ぼれだった。友達になりたかった。でも、恥ずかしかった。だから、あんなことを……。」
「そうなんだ、ちょっと恥ずかしいな。」
「ごめんなさい、許してください!あなたに嫌われたくないいぃぃぃ。」
子供みたいに泣きじゃくった。もう、隠している感情なんてない。
「許さない。」
「えっ?」
「私を攫って監禁までしたんだから、許せるわけない。」
「そ、そうだよね……。やっぱり恨んでるよね。」
「だから、私とこれからも会って欲しい。」
彼女が笑顔で語りかけてくる。聞き間違いかと思った。
「南さん、動画で部屋のことを他に話さない代わりに、報酬をくれるって言ってたよね。」
「う……うん。」
「このことは誰にも言わないよ。だから、その報酬。私と友達になって。」
初めてそのセリフを言われた。幸せでいっぱいになった。
「そんな、いいの……?」
「私だって、南さんを初めて見てからずっと気にしてたんだよ。一目ぼれだった。」
「でも、私は許されない罪を。」
「ああもう!」
「私とこれからずっと仲良くする!これがあなたの罰。ねっ。」
沙紀さんが私の手をつかんでくる。彼女の柔らかな暖かな手が、私を包み込んでくれる。そんなことを言われたら断れるはずないじゃないか。
私は許されてはいけない。だから、その償いとして一生彼女の傍にいよう。そう決めた。驚きと嬉しさでごちゃごちゃになりながらも、私も笑顔で彼女に返事した。
「ありがとう……、これからよろしくお願いします!」
一つの部屋から始まった一つの関係。それは、純粋なものではなかった。
しかし、お互いがお互いの真実をさらけ出したことで、二人の絆は深くつながった。これからも彼女たちはずっと、隣に居続けるだろう。それが許しであれ、償いであれ、二人の関係はこういうものなのだから。
初めはお互いが真実を秘めたまま終えようと思っていましたが、ハッピーエンドにしろと直感が語り掛けてきました。
キャラの思考が多くて読み辛かったかもしれませんが、語り手を入れ替えるために二人の感情描写を増やしたり、夢乃の口調を途中から変えた工夫は良かったんじゃないかと思います。
執筆のいろはも分からず、拙い文章になり申し訳ないです。それでも、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。