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第六話 真実

「えっ……?」

 遂に、言ってしまった。私の罪を。全ての真相を。

「私が!沙紀さんを誘拐して、閉じ込めたの!」

「何?嘘、どういうこと……?」

 沙紀さんはかなり動揺しているようだった。それもそのはずだ、今まで仲良くしていた相手が黒幕だったんだから。


「だから、私を助ける必要なんてないのよ。」

「で、でも。」

「私が全て仕組んだの!この部屋も、状況も。私は犯罪者なの!」

 向こう側で小さな悲鳴が聞こえた。ああ、これはもう嫌われたな。でも、それでいい。私を嫌いになって、それから早くここから逃げて。あなただけでも助かって。


「早く出てけっ!!」

 力を振り絞って、できる限りの大声を上げる。

「い……いやぁぁぁああああ!」

 叫び声とともに、走り去る音が聞こえた。良かった、沙紀さんを傷つけることがなくて。私の傷は確かに浅い。けれどもう脱出する体力もないし、そもそも目の前の壁のせいで逃げるのは不可能だ。


 今まで全部上手くいっていたのにな。沙紀さんと良い雰囲気になったし、すごくどきどきもした。でも、これで全て終わり。私はこのままここで力尽きるか、また瓦礫が降ってきて今度こそ押しつぶされて死ぬ。

 でも、これは私への罰だろう。沙紀さんへぶつけた私の勝手なエゴ。やっぱり、私が何かを手に入れようとするなんて無理だったんだ……。


 ◇


 私はお金持ちの家に生まれた。父は不動産の仕事をしているらしく、そのおかげで何不自由ない生活を送ってきた。欲しいものは言えば何でも与えてもらった。学費が高い女子高へ行かせてもらい友人との価値観も合い、また自身のある容姿のおかげで私は周りとの関係に困ることはなかった。

 何度か告白されたこともあった。でも、全て断った。彼ら如きが私と付き合うなんておろかだと思っていたからだ。今思えば、私は調子に乗っていた。


 全てが私の思い通りだと思っていた。でもそんなある日、沙紀さんに出会った。彼女を見たとき、私の何かが解き放たれたような気持ちになった。

 彼女は友達と話しているらしく、私にはよく分からない内容だった。百合がなんなの、二次創作がなんなの。でもそんなことより、それを語っている彼女の目が輝いているのが気になった。


 彼女みたいに自分のことを楽しく話している人は初めてだった。私はいつも周りの話を聞いているだけだし、周りも自分の家自慢しかしなかったから面白いなんて思ったことはなかった。でも、彼女の楽しそうな様子を見て、話を聞きたいと思った。

 初めて、自分から興味があると思える存在に出会った。彼女ともっと会いたい、話したい。道で一度であっただけなのに、私の中で沙紀さんの存在がどんどん大きくなっていった。


 次に彼女に会ったのはお互いの帰路だった。私は彼女の前を自信満々に横切った。今まで私が何もせずともすべて手に入ったため、今回も彼女から声をかけてもらえると思ったからだ。でも彼女は何かに気付く様子もなく、ただ私の横を通り過ぎて行った。

 当然だ。見ず知らずの人に突然話しかける馬鹿なんている訳がない。でも、それが普通だと思っていた私にとっては衝撃だった。なんだか悔しかった。なんとしてでも彼女と友達になりたかった。


 無意識のうちに彼女の姿を追っていた。向こうが気付かなかったので良かったが、ただのストーカーだった。彼女の家までたどり着いた。何の変哲もないただの家。私の家とは大違い。なのに、どうしてこんなにも彼女のことが気になるのだろう。

 これ以上詮索するわけにもいかず、自分の家に帰った。その後も何度も彼女を思い出し、何故か恥ずかしい気持ちになりながらもこの感情が何かは分からなかった。


 ある日、机の上に父の仕事の書類が置かれているのが見えた。どうやら老朽化したアパートを建て壊すため、土地や住人との契約を更新しないといけないなどといった内容だった。私には仕事なんてまだ分からないし、そのまま忘れてしまって終わりそうだった。

 しかし、そのアパートの場所を見たときに衝撃が走った。これは、彼女の帰り道ではないか。こんなことを覚えているのも気持ち悪いが、何かがつながったような気がした。


 どうしてこんなことを思いついてしまったのかは分からない。彼女と一室で過ごせば、彼女とお話しできるんじゃないか、最初はそんな軽い考えだった。そこからの行動は早かった。

 住人が退去して取り壊されるまでの日程を調べ、親にお金をねだり必要なものを揃えた。親からは自分でものを買うなんて珍しいね、なんて言われたが自分でもこんなに自主的に動いたのは初めてだった。

 私の、彼女と仲良くなろう大作戦が始まった。

 違和感を抱いた方もいると思いますが、ここから南夢乃視点となっています。

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