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第四話 事件

「扉から出れるかもしれない!」

 そう言って私は扉を指さす。

「どういうこと?」

「あの扉、多分後からつけられたんだと思う。横にねじで簡単に固定してあるのが見えるでしょ?」

 扉と横の壁とをつなぐ金具がねじで固定されていた。しかもガバガバなことに内側に。そう、扉を開けるという発想が駄目だったのだ。扉を外せば、そこから出られるではないか。


「ほんとだ……。でも、どうやってねじを外すんですか?」

「あるんだよ!ドライバーがここに。」

 先ほど探索して、工具箱を発見した。ドライバーは入っているだろう。つまり、金具をドライバーで取る、扉を外す、脱出する、という魂胆だ。自分でも天才だと思う。


「なるほど、確かにそれならここから出られそうですね。」

 そう言いつつ彼女は不安そうな顔をしている。

「どうしたの?」

「いや、こんなに簡単に脱出できていいのかなって思いまして。」


 確かに、設計者自ら他の脱出方法を置いておくとは考えにくい。いくらこの部屋がガバガバだからと言って、実験を終わらせるようなミスを犯すだろうか。この工具箱が置かれているのは他のお題で使用するためだったはずだ。いや、やっぱりこんな事態を想定していない馬鹿だったのか。


 今は考えても仕方ない。

「とにかく、やってみよう!」

 そう言って私は、工具箱からドライバーを取り出し扉へ向かった。一刻も早くこんなふざけた部屋から脱出するんだ。彼女のためにも。


 扉には上下に二つの工具がつけられていた。ねじの頭は大きく、ドライバーは問題なくはまりそうだ。

「外せそうですか?」

「うん、いけそう!」

 しかし、一つ問題もあった。上の金具が高すぎて背が届かないことだ。


「後は何か台になるようなものがあればいいけど……。」

 そう言って段ボールの山を見つめる。あれらに乗るのも一手だが、強度が少し心配だ。

「はしごみたいに支えがあればなあ。」

「それじゃあ私が支えますね!」

「えっ。」


 かくして私が積みあがった段ボールの上に乗り、倒れないように彼女が腰を支えてくれる、という図が完成した。彼女が腰に手を回す。なんだかいかがわしい雰囲気になってきた。それもこの部屋のせいだろうか。色々とふわふわしている。

「今のうちにお願いします!」


 ぷるぷるしている彼女を見ているのも楽しいが、負担をかけないように早く作業を終わらせなければ。

「よ、よし。」

 おぼつかない足場に震えながら、上の金具にドライバーを指す。大丈夫そうだ。一本、また一本と順調にねじを外していく。これは出られるぞ。私に安心感が戻ってくる。


 最後の一本を外したところで金具がひとりでに下に落ちた。

「やった!」

 そういった瞬間、安堵からか体制が揺らいだ。まずい、倒れる。

「きゃっ。」

 彼女を巻き込むわけにはいけない。その時はその考えしか思い浮かばなかった。

「危ない!」


 素早く彼女を抱え込むようにして、自分の腕から倒れた。高さもないため痛みはそんなに無かったが、衝撃でドライバーを放り投げてしまった。

「大丈夫?」

「沙紀さんこそ!私をかばって……。」

「私は平気。南さんが傷つかなくて良かった。」

「そんな、私の心配なんてしなくても。」


 こんなに綺麗な彼女を傷つけるわけにはいかない。まあ、結果的に二人とも無事でよかった。二人で見つめあう。そういえば、彼女を抱きかかえたままだった。彼女の顔が近い。

「じゃあ下も外そうかっ!」

「そっそうですね。」


 見つめあう時間が無限にも感じられた。しかし、そんなことをしている場合か。だって彼女の瞳に吸い込まれそうになってしまったから…じゃなくて、早く脱出しなければいけないからだ。

 でも先ほどの光景が頭から離れない。彼女の柔らかさ、彼女の匂い、彼女の整った顔。どれも私の心臓の鼓動を早まらせるには十分だった。

「ごめん、ドライバー向こうにいっちゃったね。」


 気を紛らわせるために、さっさとドライバーを取りに行くことにした。ベッドの下まで飛んで行ってしまったようだが、後は下の金具を外すだけでこの部屋から脱出できるのだ。

「私が取りに行きますね。」

 そういって彼女がベッドに向かっていき、そして手を伸ばした。優しい。そして少し届かなくて頑張っている姿が愛らしい。


「ありましたー!」

 彼女が嬉しそうな声で叫び、ドライバーを上に掲げた。

 ドゴォォォ!

 その瞬間、大きな音とともに天井が落ちてきた。

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