第三話 捜索
結果として、段ボールには十分な量の水のペットボトルが入っていた。お腹の空きを満たすことはできなかったが、体調を整えることはできた。
「あの、お腹大丈夫ですか?」
彼女が心配そうに聞いてくる。自分から痴態を見せてしまった手前、恥ずかしい。
「大丈夫!ましになったよー。」
人間は水だけで一ヶ月は過ごせると聞いたことがあるので大丈夫だろう。多分。
「そうだ!他の段ボールも開けてみませんか?食べ物もあるかもしれませんし。」
そういえば、段ボールを漁ったときに他の段ボールの名前も目に入った。全て中身は入っていたので、ディスプレイを載せる置物として活用されていたのだろうか。
「確かに……。」
「じゃあ私は奥から調べますね。」
そう言って、彼女はベッドから立ち上がり段ボールの山を下ろし始めた。
「お菓子とかあったらいいなあ。」
そう呟きながら箱を整理していると、小さな箱に見覚えのある名前が書いてあった。いわゆる、大人のおもちゃだった。ちょっと待て、なんでこんなものがあるんだ。
「何かありました?」
「いっいや、まだ分かんないっ。」
動揺してしまった。だって使ったことなんてない……とかそういう話ではなく、明らかにそういう意図で置かれたものだろうこれは。一体設計者はどういうつもりなんだろうか。よく見ると他にも、お題を遂行させようとする用具がちらほら見えた。
くそ、これらを使って扉を開けろっていうのか。っていうか女の子同士で使わないものもあるし。そういえば、ディスプレイの黒い人は被験者とお題はランダムに選ばれるって言っていたような気がする。まさか二人の性別までランダムだったとは。雑すぎるだろこの実験。
「んんんんんんん!!」
こんな適当な企画に巻き込まれて苛立ちが込み上げてきた。出題するだけで後は自分たちでなんとかしろっていうのか。
「どうしたんですか!?」
「いや……ごめん、ちょっと落ち着くね。」
まずい、彼女に当たるのはよくない。彼女だって私と同じ状況なわけだし、今一番重要なのは冷静に対処することだ。落ち着け、落ち着け。
他の箱には電化製品や家具などもあった。違うお題ではこれらを使って脱出することもできるのだろうか。電卓や和英辞典、縄跳びや工具箱といった何に使うのかも分からないものもあったが、食べられるようなものは特になかった。
「南さんはどうだった?」
「いえ、こっちも何も……。」
「そっか……。」
二人で一通り探してはみたが、結局食料といっていいものは水しかなかった。
「食べ物はありませんでしたね……。」
「うん……、ありがとう。私のために探してくれて。」
「いえ、困った時はお互い様ですし!」
互いに向かい合って笑う。彼女の優しさにはずっと助けられている。一人ではお題がどうこうではなく、すぐに諦めていただろう。私が頑張れるのは彼女のおかげだ。
「でも、ずっとこのままだと駄目だし、何かしなきゃね。」
「何かって、えっと。」
「あっ、いやそういうつもりじゃなくて!」
再び二人して慌てだす。すぐにこの話題に戻るのはよくない。
「例えば、他の脱出方法を考えるとか?」
「他の、ですか……。」
それが分かれば苦労しないのだが。でも、まずは「帰る」という目的のもと手段を考えてみるのは一手かと思った。いや、彼女としたくない訳じゃないんだけど、そうじゃなくて諦めるのはまだ早いと感じた。
「そうですね、隠し通路を探すとかですかね。あの扉は絶対開かないでしょうし。」
「なるほど……。扉を開けるには、お題を満たさなきゃいけないしね。」
今度はぼかして伝えることができた。
「あの……最終手段として、ですよね。」
「えっ!あっうん。そうだね。」
なんだか最終手段としてなら良いといったニュアンスが感じ取れて驚いた。彼女の顔をちらっと見ると、ほのかに赤くなっているように思える。
なんだかこの雰囲気のせいで全てがピンクに見えてきた。勘違いするな私、初対面の人に情が湧くなんてことはありえないはずだ。それも愛情なんて。
そういえば吊り橋効果というものを聞いたことがある。不安を感じる場所では恋愛感情を抱きやすくなるとか。不安な場所、××しないと出られない部屋。
やばい、今の状況そのままじゃないか。そんなことを考えていたら彼女がとても愛おしく思えてきた。私たちは同性なんだ。でも、こんなに可愛い娘となら……。
「私も水飲みますねっ。」
「ひゃいっ!」
急に呼びかけられて変な返事をしてしまった。私も紅潮していないかな。そんなことを思いつつ彼女が歩き出す姿を目で追っていると、向こう側の大きな扉が目に入った。そうだよね、このままじゃいけない。どうにかして脱出しなければ……。そして、あの扉が開くためには。
……ん、待てよ。
「閃いたっ!」
「えっ?」