勇者の聖剣を奪ってみた件について
勇者の聖剣を奪った。
何を言っているのか分からないのだろうが、奪った俺にもよく分からない。
事の次第はこうだ。
久しぶりに首都への出稼ぎから帰ってきた。
そしたら、自分の村に勇者が来ている事を知った。
勇者の聖剣が見たかった俺は、勇者を遠巻きに見に行った。
そうしたら勇者は剣を帯刀していなかった。
鎧も着けてなかった。
アイテムボックスの中に持ってるのかもしれない。
だが、もしかしたら勇者が泊まっている宿屋に装備と置いてるのかもしれない。
俺は半ばフラフラと我を忘れて、勇者が泊まっているであろう村で一番豪華な宿屋に向かった。
勇者の聖剣が見たい。
向かった時はそれだけだった。
俺はこの村の小さい鍛冶屋の三男だ。
狩りなどに使う軽めの武器や防具を大量生産するのが得意だが、中でも剣が好きだった。
大剣は作った事がないが、大剣が好きだ。片手剣が好きだ。曲刀も変わってて好きだし、レイピアだって好きだ。
もっと世界中周って色々な剣を見たい。
狩り用の武器や防具以外についても学びたいが、とても村の鍛冶屋の三男ではお金もないし、そんなわがままは許されないだろう。
一番上の兄さんを支えていかないといけないのは分かっている。
分かってるが、多分現時点で世界の最高の剣である聖剣が見たい。
首都でも色々な剣は一応見たが、聖剣なんて見たことはなかった。
フラフラと歩いている内に、宿屋についた。
いつもなら居る宿屋の受付嬢が見当たらない。
もしかしたら皆で勇者を見に行ってるのかもしれない。
俺は勝手に宿帳を見て、勇者の部屋を調べた。
二階の一番奥。
勇者の部屋にたどり着いた俺は、ドアノブをゆっくりと回した。
部屋は驚く事に鍵がかかってなかった。
鍵をかけるのを忘れるなんて有り得ない。
勇者は異世界からの転移者だそうだが、あちらでは宿泊場所に鍵をかけなくても大丈夫なんだろうか。
勇者の世界はドアに自動で鍵がかかる、とか?
俺は様々な偶然が重なって、勇者様の部屋に侵入した。
綺麗な部屋の中には誰も居なかった。
部屋の中央に少し汚れた状態で、剣と防具が無造作に置かれていた。
汚れていても勇者の剣は白銀に光り輝いていた。
宝石が散りばめられた立派な鞘と剣。
どうして剣がこんなに無造作に置かれて居るのだろうか。
俺は近づいて剣をよく見た。
今までに見た事のない美しい両手剣だった。
刃は少しも歪みなく真っ直ぐで綺麗な刃文が浮き出ている。
俺は見るだけで良かったそれを。
それを。
アイテムボックスにしまった。
サイズは小さいが、俺もかろうじて持っていた空間魔法だ。
剣を入れるだけで、容量は限界に近かった。
しかし、入れるか入れないかの内にアイテムボックスがものすごく広がった。
「えーと、勇者様の部屋はこちらか? 手入れ手入れっと」
後ろから誰かの声、いや親父の声が聞こえた。ドアが開けられようとしている。
俺は窓に駆け寄り飛び降りた。
二階の窓から飛び降りたが、体勢を崩さなかった。
捻挫ぐらいはするかと思ったが、体はビクともしなかった。
そのまま宿屋から走り去る。
いつもの俺ではあり得ない速度が出て、あっという間に宿屋どころか村から離れた。
誰も俺を見咎めない。
何故か無尽蔵に湧いてくる体力に任せて、あっという間に遠くまで来た。
どこかの山の山頂で、アイテムボックスから聖剣を出した。
何度見ても美しかった。
「美しい」
俺はアイテムボックスからいつも持っている手入れ道具を出して、手入れを始めた。
汚れを念入りに落とす。
ほとんど刃こぼれはしていないが砥石でもって刃を整え、奮発して手持ちの中で一番いい油を塗る。
ユニコーンの柔らかい毛で綺麗に磨き上げた。
更に眩く剣が輝く。
このまま勇者の追っ手が来て、盗人だと切り捨てられてもいい。
いや、この剣の側で死ねたら本望だ。
そのくらい幸せだった。
「俺のもの……ふふっ、俺のもの。ずっと一緒だ」
幸せで幸せで、そのまま剣を素振りしてみた。
振ると更に剣の煌めきが残像となって美しかった。
「はわわっ、変態さんに攫われちゃったですぅ」
その時、女の子の声がした。
「誰だっ」
「私は聖剣ちゃんですぅ」
剣の側に、白銀の髪をした少女が浮かび上がった。
剣と同じ色の目と髪をしている。
「汚れたままお昼寝してたら、はわわ。勇者さんのトコに戻してくださいぃ」
「いやだ」
俺は少女の言葉に即答した。
なぜか剣の精霊と思われる少女を見ても動揺しなかった。
何故だろう。
剣を手に入れた時から、精神力が上がった気がする。
「綺麗にしてくれてありがとうなのですぅ。でも聖剣ちゃんを返してくださいぃ。勇者さんから聖剣ちゃんの加護が外れちゃいますぅ」
聖剣ちゃん(?)は、メソメソと泣き真似をしてみせた。
「いやだ。俺は取り返されるまで、聖剣と一緒にいる」
「はわわ、聖剣ちゃんと一緒に居たいですか?」
「ああ、死ぬまで、いや死んでも離さない」
俺の言葉に聖剣ちゃんは頰を抑えて首を振った。
顔を赤くして、
「いやんいやん、聖剣ちゃんは罪作りな女ですぅ」
とか騒いでいる。
俺は剣が自分の意思で離れるかもしれない、と思った。
綺麗になった剣を鞘に納めてギュッと抱きしめる。
「そんなに聖剣ちゃんの事! 勇者さんより情熱的ですぅ」
聖剣ちゃんは指先を合わせてもじもじし始めた。
ところで俺は剣が好きで、その剣の精霊は別にどうというわけではないのだけれど。
「聞こえてますよぅ。その剣と聖剣ちゃんは同じですぅ」
そうか? 剣の魂みたいなものか?
「じゃあ、じゃあ! 神様は今は見てないみたいだから、ちょっとそこまで、聖剣ちゃんと魔王を倒す旅に出ますかぁ?」
「聖剣と一緒にいられるなら何処へでも」
剣を手ばなさないで済むなら何でもする覚悟だった。
いつ、盗人と殺されるか分からないけれど。
「聖剣ちゃんはバッサバッサと魔物を倒すのがお仕事ですぅ。魔物の魔力を回収するとさらに綺麗に強くなりますぅ」
「よし! 行こう!」
剣がより綺麗になるなら、より強くなるなら何処へでも。
「うんうん、魔物を切るのをためらわない感じナイスですぅ。勇者さんはいちいちなかなか切らないし、手入れも自分でしないし」
聖剣ちゃんが何かブツブツ言っていたが、俺はみなぎる力のままに走り出していた。
そうだ、剣は切るためにあるんだ。
聖剣の為に魔物を切らないと。
鍛冶屋だったから、今まで魔物は切った事はなかったが、多分大丈夫だ。
「そうそう、勇者さんも切り方なんか知らなかったけど、聖剣ちゃんが教えてあげたですぅ。あっ、名前教えてくださいぃ」
「俺の名前はユート」
「へぇ、勇者さんと名前似てるですぅ。これは神様にもバレないかもぉ。えへへ、よろしくですぅ」
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勇者ユウト(文献によってはユート)は、異世界から来た。
勇者しか抜けない聖剣を抜いた後は、しばらく魔物退治をためらっていた。
異世界人は殺す事が得意ではない。
だが、聖剣の導きにより積極的に魔物を退治するようになる。
やがて、その勇者の力によって魔王を退けて世界に平和をもたらしたという。
そして、平和になった世界に勇者の強大な力が不要になる。すると、聖剣と共に勇者は光の中に消えていったそうだ。
勇者は無事異世界に帰ったのだろう。
はわわ、読んでくださってありがとうですぅ。
ちなみに異世界から来た勇者ユウトの方は、ユートの方が魔王を倒したら元の世界に帰りました。
描写が分かりにくかったと思います。
何も倒す事なくフラフラしているとある日突然元の世界に帰れたという。
後、別に盗みを推奨してません。反省してないけどすみません。




