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 塔の中の魔動昇降機の中。セキに教えてもらって円筒の広い部屋の中、扉の近くのレバーをガチャンと上に上げる。足元がガクンと揺れて頭を押さえつけられるような感覚。

「おー、昇ってる」

 この円筒の部屋の壁はガラスみたいに透明になってる。塔の外からは灰色の壁しか見えなかったのに、中からだと透けて外が見える。壁際に座って下に下がっていく地面を見る。

 ウォーンと音がして凄い速さで登ってく。


「あ、モーロックが飛んでる」

 黒いドラゴンが翼を広げて飛んで、塔の周りをグルリと回ってから闘技場のあった方へ飛んでいく。

「飛んでるモーロック、カッコいー」

【ミルがモーロックの飛んでるところを見たいと言ったのに、応えたのであろ。気に入られたかの】

「ん? そうなの? ただのさびしんぼじゃ無いの? また、遊びに来いなんて言ってたし」

【あの遊びに来いは、少し意味が違うのだが】

「どゆこと?」

【そのうち解る】

 昇降機は雲の中に入って、九十九層へと。


 ボーン、と重い音が響いて昇降機の扉が開く。

【着いたぞ】

「よし、行こう」

 左腰に下げたセキの鍔を左手で握って歩く。まだ九十九層。地上は遠いなぁ。でもセキがいてくれたらなんとかなりそう。あんな大きいドラゴンのモーロックにも勝てちゃうんだから。モーロックは引き分けなんて言ってたけど、あれはセキの勝ちだって。


「最下層のカオスドラゴンより強いのっているの?」

【1対1ならば、モーロックがこの百層大冥宮で1番強いか】

「それならあとは進むだけだね。この調子でドンドン行こう!」

「止まりなさい」

 昇降機の扉を出たところで、周りをグルリと囲まれていた。あ、あれ?

【何を調子に乗っているのか。気づくのが遅い】

 私を睨む赤い瞳。20人くらいのメイドさんに囲まれてる。で、このメイドさん達、怖い。私を睨んでて、みんな赤い目が光ってるよ。私に止まりなさいって言ったメイドさんが私の方に手を向ける。


「ただの人間がどうやってここに忍び込みましたか? 包み隠さず話しなさい。さもなくば」

 その手から爪がシャキーンと伸びる。レイピアみたいに。うひゃ。

「し、忍び込んだわけじゃ無くて、これは話すと長くなるんだけどね」

「む? 魅刀赤姫? 貴様、何故魔王様の愛刀を腰に下げているのですか!」

「あの、これはセキがね」

「セキ様の名を軽々しく口にするな盗人!」

「盗んでないよー!」

「モーロック様は何をしているのですか。こんな人間に至宝を盗み出されるなど」

「だから盗んでないってば! 今は私がセキの主なの! 仮のお試し期間中だけど!」

「セキ様が貴様のような貧相な小娘を主にする訳が無いでしょう!」

「また貧相って言われたー! 流行ってんのその言い方ー!」

「盗み出しただけでなく、敬愛するセキ様を汚すなど、もはや赦せません!」

「バッチく無いやい! あ、このズボンの染みはね、モーロックのせいだからね」

「セキ様! 今、お助けします! 覚悟せよ盗人!」

「私が人拐いみたいになってるー?! なんでぇ! ちょっと聞いてよ私の話ー!」

「もう、黙りなさい、盗人! 八つ裂きにして全身の血を吸い付くしてあげます!」

「拷問決定!? なんで吸血鬼みたいなこと言い出すの! セキ助けてー!」


【いや、この者ら吸血鬼だし】

「いぃ? マジで? アンデッドの上の上の上の?」

【かくも言葉とは不便なものよの。通じ会うためには条件が多い】

「また肉体言語でお願いします! セキ様、ひとつバチンとやっちゃって下さい!」

【ミルの身体は疲労で限界よの。これ以上の無理はできん】

「そんなぁ!」


「その命で罪を購え! 悲痛の声で泣き叫べ!」

「小難しく酷い目に遭って死ねとか言われるし!」

〈双方、そこまで〉

 目の前に迫る爪が、牙が、赤い目のメイドさん達がその声でピタリと止まる。今の声、誰の声?


【見ておるなら、さっさと止めれば良かろうに】

〈フフ、このような珍奇な演芸、久方振りで見いってしまったわ。娘たち、その者を連れて来なさい。丁重に〉

 天井から聞こえてくる女の人の声に、メイドさん達が爪を引っ込めて、右手を左肩にあててピシッと立って軽く顔を伏せる。

「「はい、我が女王(ラー・マ・クイン)」」

 助かった、のかな?

「ご案内します。ついて来て下さい」

 さっきまで私に、泣き叫べ! と言ってたメイドさんがいきなり丁寧になって話しかけてくる。

「こちらです」

【行くぞ、ミル】

「このままついて行ってもいいの?」

【では、どこか行くあてでもあるのか?】

「私が行ったことも無い九十九層の地理なんて、解るわけ無いじゃん」

 メイドさんについて行く、というか、周りを赤い目のメイドさん達にガッチリ囲まれて、連れて行かれる。


「謁見の準備ができるまで、こちらの部屋でお待ち下さい」

 通された部屋は、白い壁に黒い絨毯。白い天井からぶら下がるガラスの彫刻みたいのが光って明かりになってる。貴族のお屋敷ってこんな感じ? 入ったこと無いけど。

 赤い椅子に座るとクッションがふっかふか。

「どうぞ」

 お茶まで出てきた。赤いお茶、でも熱くて飲めない。猫舌だから。喉は乾いてるんだよなー。お茶を持ってきたメイドさんに聞いてみる。

「お水もらえる?」

「少々、お待ち下さい」


 待ってる間に、

「ねぇ、セキ。九十九層って、どんなとこ?」

【聞いてくるのも今更だが、九十九層『輝白の舞宮』は吸血鬼の女王が守護する階層で、ここにいるのは吸血鬼と、あとは吸血鬼の使役する魔獣か。美麗なることを好む女王が治めることで、百層大冥宮で最も美しい階層とも言える】

「吸血鬼ってさ、エナジードレイン使うっていう、クレリックのターンアンデッドが効かないメッチャ強いアンデッドだよね」

【間違ってはいないが、ゾンビとか下級のアンデッドと一緒にすると気を悪くする吸血鬼は多いから気をつけろ】

「そうなの?」

【なんと言えば解りやすいかの。ゾンビとかスケルトンが平民で吸血鬼が貴族。そんな感じかの】

「アンデッドって、そんな身分とかあるの? あ、それで女王がいるのか。なるほど。それと、セキの声って吸血鬼に聞こえないの? モーロックには聞こえてたのに?」

【む? そうか、聞こえてしまうからミルにはその違いが解らんのか。モーロックとの会話は思念話でやっていた】


「思念話? 高位の魔術の遠距離通話みたいなやつ? 遠く離れたところとお話できるっていう」

【言葉を口にせずとも思念で会話する特技、というものだが、どういうわけかこの特技を使わなくてもミルには我の声が聞こえておる。そのせいか、どうやらミルにはこの特技を使った我の思念話と、我の呟きの区別がつかないようだの】


「なんかよく解んないけど、じゃあ、なんで私が吸血鬼メイドに襲われそうになったとき、止めてくれなかったの」

【油断をすればどのような目に遭うか、これで解ったであろ。それにギリギリで止めようとしたら、先に女王に止められたし】

「ちょっとー、私がビビってるの見て楽しんでるなんて、セキの性悪ものー」

【あのぐらいミルひとりでどうにか……は、まだできないか。相手も本気でミルを殺すつもりは無かったぞ】

「え? そうなの?」

【さんざん脅かして、怯えて震えるミルの血を飲もうとしてたのはいたが】

「それはそれでヤダー」


 周りに立つ吸血鬼メイドさん達を見てみる。ほとんどがおすましして立ってて、私を見張ってるんだろーね。チラチラと私の腰のセキを見てる。で、私を見る目は、なんでこんな小娘が、って見下す感じ。でも、中には、あれ? なんか珍しいのが来てるわって感じで、目を合わせるとニコリと微笑んでくれるのもいる。でも私を見てペロリと舌で唇舐めるとこを見ると、背筋がゾクッとする。私の血、狙われてる?


「お待たせしました」

「ありがとー」

 貰った水を一口飲む。ん? なんか入ってる。果物の汁でも入れてあるのかスッキリする。水にも味付けして出すのかー。これが貴族的ってもの? 喉が乾いてたからゴクゴク飲んで。

「お代わり」

「はい、どうぞ」

 

「失礼しまーす」

 明るい感じのメイドさんがなんか持ってきた。手でシュコシュコとレバーを押すと霧が出て、それを私にかける。これ、香水か。

 されるがままにシュコシュコと香水をかけられる。これは。

「えーと、私って、臭い?」

「これから我が女王に謁見するには、オシッコ臭いでぇす」


 面と向かってオシッコ臭いと言われた。とほー。だってズボンもパンツも替えが無くてずっとそのまんまだもん。あーこれも全部モーロックのせいだ。

 パチコーンといい音がする。メイドさんがひとり、私に香水をかけてたメイドさんの後頭部をひっぱたいていた。

「無礼な発言、どうかお許し下さい」

「あ、いえいえ、こちらこそお手間かけさせて、その、臭くてごめん()さーい」

 ……。

 誰も笑ってくれない。こういうの酒場で飲んでる探索者のおっちゃんなら笑うんだけど。いや、隅っこのひとりと頭叩かれてしゃがんだメイドさんは口に手をあてて震えてるから、このふたりは笑いのツボがおっちゃんだ。


「お待たせ致しました。どうぞこちらへ」




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