STAGE1-6サヨナラとReincarnation
エリアが手のひらから出した青白い光は
ぐにゃぐにゃした小さな線が一つ一つ並んでいて読めはしないが文字のような形をしていた。
生前では見ることのなかった光景に興味を示していると、
「あぁ、これかい?さっきも言っただろう?君からデータをとって異世界に反映させる準備をしているんだ。転生時の状態は勿論、能力値とかね」
「つまり、ステータスみたいなもんか」
「まぁ、平たく言うとね。
さて、それじゃまずは転生時の状態から聞いていくよ。転生時の体、産まれたての赤ちゃんとか
青年、とかおじさん、とか希望はあるかい?」
「んー、そうだなぁ」
ファンタジーの世界って俺の知識じゃ16歳あたりから大人と見なされる、みたいなイメージあるんだよな。いきなりそれ以上の年齢から始めたんじゃいろいろとワケわかんなそうだし、しばらく情報を集めたいな。つっても赤ん坊ってのもなぁ...。身動き取れないのはつらいな。よし、
「8歳くらいで頼む」
「随分と微妙だねぇ。いいのかい?」
「あぁ、8歳くらいなら多少ひとりで行動してもおかしくはないだろ?多分。
赤ちゃんプレイは趣味じゃないし」
「なるほどね。分かったよ」
エリアが指を動かす。
すると光の文字がすっと浮かび上がってきた。
「じゃあ次だ。前世の記憶はあった方がいいかい?」
「頼む。異世界で記憶持ち、って言うか自我がハッキリしてんのはアドバンテージでかいし、家族のことを忘れたくはないな」
「ふふっそうかい。じゃあ次、ルックスはどn」
「金髪イケメンで頼む」
俺は日本人だから金髪に染めても全然似合わないからな。
せっかく異世界に行くならそれっぽくありたい。
「速いね...。うん、OK。じゃあ次はステータス面を割り振っていこう」
キタキタキター!ステータス作成!
これ大事!場合によっては俺TUEEEE!とか
なっちゃったりしてさぁ!
「その前に一つ君が考えてそうなことについて
言っておかなきゃいけないことがある」
「ん?なにさ」
「破格な数値のステータスを作ることは出来ない」
「Σ(゜д゜;)えっ、マジで!?なんで!?」
「異世界転生は転生の中でも特に異例。
転生させる時は神の力を使うんだが、何せ全く違う構成の世界へ飛ばすんだ。力を大量に消費する。そして体に対して比例しない数値の能力値を与えると体が耐えきれなくなる。それを合理化させるには更に神の力を消費することにもなる。
...それにあんまりやりすぎると“上”がうるさい。つまり『無茶はよしてくれ』ってやつさ」
なるほど、神様にも限界はあるってことか。
それは、仕方ないな。
「だが、比較的高い数値を振ることはできる。それと一つ教えるならこの世界では努力値、というものがあってね。元から持っている能力値に加えて伸ばしたい数値を鍛えればそれに応じて少しずつだが上昇するシステムがある。
頑張り次第では強くなることが出来るさ」
「頑張り次第...かぁ。まぁ、楽して進める道なんてないよなぁ」
「そう、千里の道も一歩から、というやつだ。
さぁ、ステータスはどこに振る?」
「んーそうだな...。魔力と武力と知能。この3つがあればどうとでもなる。でもあんま詰め込むとダメなんだろ?なら魔法4割 知力4割 武力2割って感じでどう?」
「配慮してくれて感謝するよ。
でもいいのかい?剣と魔法の世界なのに武力より知力を優先してしまって」
「俺のやってるゲームだとMPあっても知力なきゃ魔法使えないってのがあったからな。魔法覚えるにしても何するにしても知識がないと何も出来ないし。...欲を言えば魔法剣士が理想だったんだけど、まあそこは剣振るなりなんなりして努力値稼ぐよ。」
「そうか。...よし、次はスキルだ。」
「おっ、スキルとかあんの?」
「あぁ、スキルには戦闘に使えるスキル、職人のように作業に使えるスキルの他の色々ある。
スキルはランダムで選ばれるが強いスキルは低確率だ。当たれば超ラッキー程度に考えてくれ。スキルはこれで決まる。」
エリアが渡してきたのは上面に丸い穴が空いた箱で、中にはボールが入っていた。
「これまた古典的だなぁw。」
「ユーモアがあっていいだろう?」
「古臭いぞ、これ」
思ってたものと違うことに若干不満を漏らしつつ中のボールを手に取る。
「ダブルスキル?...なんだこれ」
「おっとーこれはー、そこそこラッキーだねぇ天弥。これはねぇ、スキルを二つ獲得できるというものさ。何が当たるかは転生してからのお楽しみだよ」
なんか妙に白々しい喋り方な気がするが、気のせいか?
「ここじゃわかんないのか。...つかそれなら
このクジやめてはじめから転生時にスキル決めればいいじゃんか。」
「何が当たるか自分で確認したいだろう?」
「俺の場合スキル二つ貰える以外わかんねぇけどな!」
「それだけでありがたいだろう?...さて」
エリアは少し楽しそうにしながら箱をしまった。
「これでやることはすべて終わりだ。
名残惜しいが早速転生の準備に取り掛かろう。」
光の文字を操作し終わったエリアは
立ち上がり、コタツに向けて指を鳴らした。
するとコタツは消えてそこからは魔方陣らしきものが現れた。
「コタツがあったのはそういう事か。
...いやぶっちゃけよくわかってないけど。」
「魔法陣があっては気になって話ができないだろう?」
「コタツが教会にある方が明らかにきになるんだけどな。」
「神様だってのんびりしたいのさ。」
そう言ってケラケラと笑うとエリアは魔法陣の前に立ち両手を広げ呪文を唱えだした。
我、運命を司るもの
我、道を開くもの
此方と彼方、一条の光を紡ぎ
新世界への扉を開け
『神世界の扉《 ディヴァイン・ゲート》』
眩くも神々しい光の線が魔法陣をなぞり
起動させる。
「すっげぇ......。」
その光景に俺は思わず言葉をこぼした。
それを見てエリアは笑った。
「何を言うんだい。これから向かうのは魔法のある世界だろう?。この程度で驚くようじゃ体が持たないよ?」
「し、仕方ないだろ!ホントのことなんだからさ」
「ふふっ...」
「はははは...」
「...よし、行くわ。」
魔方陣を、門を見た。この中に入れば新しい世界がまっている。とても不思議な感覚で、楽しみで、だけど突如心の中で黒いものが現れた。体が震えて......
涙が出た。止まらなかった。
今になって気づいた。
もう元の場所には戻れないこと、
家族には2度と会えないこと、
一人で知らない世界へ行くこと。
楽しみだと、夢の世界だと、そういって心のどこかで誤魔化していた恐怖がいざ前にして溢れたのかもしれない。
せっかくの旅路なのに、格好がつかない。
「ごめっ...こんな、急に...かっこわり──」
言いかけた時、温もりを感じた。とても優しい温もりだった。何が起きたのか確かめようとする。
─エリアが自分を優しく抱きしめてくれていた。
「君はもう...元の世界にも会いたい人の元へ戻ることも出来ない。不安で怖くて、涙を流すのもあたりまえだ。...だけど君なら大丈夫。君には寂しさを乗り越える優しさが...恐怖を乗り越える勇気がある。行いには必ず結果はつく。
君の未来には必ず、その不安を拭う幸せが待っているはずだから。勇気を出して少女を救った君が不幸になるなんて私が認めない。神の加護が君には付いている。」
ありふれた言葉だ。青臭い台詞だ。
だけど涙は止まっていた。とても穏やか気持ちだった。
「...ありがとな。もう大丈夫。」
そう言ってエリアから離れ魔法陣の中へはいる。
体が光に包まれていく。感覚が消えていく。
「君の見る世界を私も楽しみにしている。
幸運を祈るよ。天弥。」
「......ありがとう、エリア。」
薄れる意識の中で、消えていく短い時間の
中で言える精一杯の感謝を俺は伝えた。
伝わったかどうかは分からない。
でもとても優しい笑顔が見えた気がした。
その日俺は生まれ変わった。
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「随分と長かったなエリア」
「お、先輩じゃあ無いですか。えぇ、つい話が弾んじゃってw」
「ふむ、まぁこの役割はお前に任せているからな。あまりつべこべ言うつもりはないが、
死んだ人間がごねても困るしな。それにスキルは転生時にランダムで選ぶもんだろ。...全く
...程々にしろよ、お喋りも、それも。」
そう言ってエリアの先輩らしき神は
スキルの書かれたボールの入った箱を指さしながら光とともに消えていく。
「...バレてたか〜。」
エリアは苦笑いしながら箱を開けボールを取り出す。それにはすべて『ダブルスキル』と書かれていた。
最後臭い内容ですが、超好みです!たまらんのぉ