第43話:二通目の封書
第43話:二通目の封書
緊急連絡の場合もありますので、情事より優先して下さい。
封書の中身は苦情から始まっていた。どうやら、内容はリアルタイムかそれに近い形で変更可能らしい。
そして、覗かれていた事が確定。
「トワ!? 何を!」
「焼いてしまえっ、こんなもん!!」
封書ごと便箋を暖炉に投げ入れようとするトワとブロックするアレク。むろん、体育会系のアレクに分がある。
やめて下さい。文に罪はありません!!
冒頭の文章がかわっていた。中々に芸が細かい。
便箋の一部分をアレクに固定されてしまった為、トワはあきらめて文章に目を通す事にした。すると、以前そうであったように読んだ文章が頭の中に流れ込んでくる。
まずはご結婚おめでとうございます。この世界に耕作者が根付く事は、喜ばしい事でございます。
むろん、それは意図していない事でしょうが、耕作者の義務を順調に果されています。
「義務、ね。なんの事かさっぱりやな」
さて、それはそれとして、今回このような形で再びあなたと文通したのは、別の理由があります。
前回の文の時点では、いずれ気付くと放置していたのですが、現時点までそれを行われなかったので、お知らせしなければと筆をとった次第です。
率直に申し上げますとあなたの権利は制限された状態です。
本来であれば、順を追って開放されるはずの権利が、その開放の鍵となる行為を行われなかった為、その段階で権利の範囲が止まってしまっています。
早急にその行為を行ってください。その行為とは――。
「あー、そう言えばやってないなー」
文章が指摘した行為は、確かに行っていない。が、特に不自由もトワは思いつかなかった。
これから、さらなる権利が必要になる事かと存じますので、急ぎ開放する事をお勧めします。少なくとも、この地を離れる前に。
またも文章が変化した。対話式の手紙というのも珍しい。
取り急ぎの連絡は以上になりますが、せっかくのご結婚に立ち会った事ですので、お祝いの品を贈らせて頂きます。微力ながらあなた方の助けになるでしょう。
トワは前回のことがあったので空のはずの封書を振ってみると、二つの指輪が小机の上に落ちた。二つの指輪は同じものではなく、片方は赤色の石が四角にカットされたものがはめられており、もう片方は乳白色の石で楕円のものがはめられている。サイズは赤色のほうが大きい。
トワは赤色の指輪をつまんでアレクに渡す。
「え? あの」
「たぶん、こっちがアレクのやと思う。結婚祝いらしいから私だけがつけるもんちゃうやろ」
そう言って、トワはもう片方の白い指輪を薬指にはめようとして気付いた。
「アレク。指輪は左手の薬指にはめてな」
「何か意味があるのですか?」
「私の世界のしきたり。結婚や婚約する時はそこにはめるんや」
そう言って見本のようにトワが指輪をはめる。
「予想はしてたけど、サイズぴったりやな。いつ計ったんや」
「私も丁度です。指輪などはめる機会があるとは思いもしませんでしたが」
「こっちじゃ、結婚指輪ってないん?」
「基本的にこういった装飾品は、貴族のような上流階級者の趣味で身につけるものですね」
「まったくおしゃれとかせえへんの?」
「まったくしないわけではないですね。ただ、貴金属や宝石の類は使いません。そんなものにお金をかけるなら生活の向上に使うでしょう」
「なるほどな」
トワは自分の指輪に意識を傾けた。
便箋には結婚祝いと書かれていたが、まず普通の指輪とは思えない。砂の箱を探る要領で、感覚を指輪に浸透させていく。
しかし、いまいちよくわからない。感覚はただの指輪でないと告げている。ただ、すでに指輪の機能は発動しているらしいが、何か変化があったのかトワにはわからない。
「これは……トワの固有能力ですか?」
「え?」
アレクの視線を追えば、普段出しっぱなしにしてるインベントリパネルやクラフトパネルがある。
「アレク。もしかして、パネル見えてる?」
「はい。これが指輪の力でしょうか?」
「ちょっと違う気がするな」
指輪は二つ。しかし、効果はアレクだけ? 少し考え、トワはある可能性に辿りついた。
「アレク、まだパネル見える?」
「消えました。トワ? なぜ、目をつぶっているのですか?」
トワは確信して閉じていた目を開いた。
「アレク。またパネル見えるようになったやろ」
「はい。もしかして、これは――」
「うん。たぶん、視覚を――。いや、実験してみなわからんけど、たぶん五感を共有するもんちゃうかな。少し手のひらが痛むんやけど、これはアレクの手のひらの傷やと思うわ」
「え!? すいません、トワ」
「いや、謝らんでもええけど。って、あれ。痛みが消えた。アレク、なんかした?」
「トワに痛みが伝わらないように願っただけですが」
「ああ、そういう事か。制御可能なんやな。封書の主はむかつくけど、なかなか面白いもんくれたな」
アレクが呆然と己の指にはめた指輪を見つめる。
「このような力が宿る品、国宝レベルのものですよ。封書の主とはいったい。まさか、本当に神――」
「神かもしらんし、違うかもしらん。わかってるのははた迷惑で人騒がせっちゅう事だけや」
そう言ってトワはアレクの胸にしなだれた。
「この件はこれで終わりや。考えてもしゃーないやろ?」
「そうですね。そうします」
そして、アレクの手がトワの下腹部に伸びる。
「え? まだやんの?」
「トワに余裕がありそうですので。もっとトワを奏でる音を聞いていたいです」
「もうっ。人を楽器扱いにっ、すんなっ」
さっそく意図せぬ声が出そうになるのを堪えながら、トワは苦情を言ったが、アレクは決して聞き入れなかった。




