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第22話:そして、彼女が現れた

第22話:そして、彼女が現れた



 広大で深い森。そのやや(へり)に近い場所に奇妙なものが存在していた。

 あえて言葉で表現するなら土の塔。赤茶の土が四方向を不自然なまでにキレイにカットされ、空を目指すが如く高く聳え立っている。

 太さはせいぜい人が一人乗るのがせいぜいで、自重で崩れそうなものだが、風に揺れるようすすら見せない。まるで見えない何かに固定されている、そんな感じだった。



 そして、その土の塔の天辺では一人の少女が遠くを見つめていた。

 説明するまでもないが、トワだ。

 当然この土の塔を作ったのもトワである。

 サンドボックス系ゲームではわりとメジャーなテクニックである、ブロックタワー。

 手順もほとんど共通で、ジャンプして空いた真下の空間に、建材系ブロックを設置する。それの繰り返しでどんどん高く積んでいくのである。


 なぜ、これがメジャーなのか。それはお手軽に作れるからである。何せただ真下に積むだけなので。


 用途は高所から周囲の確認、上部への高速移動、敵からの緊急回避。遠くからも見える目印として設置する場合もあるが、その場合は別途下りる手段が必要になる。何せただブロックを積むだけなので下りるには足場のブロックを一つずつ破壊するしかない。間違って落ちて、落下ダメージで死亡はよくある話である。




「どう見ても、村やんなぁ、あれは」



 目を眇めるトワ。彼女の視界には森を抜けた先に田園風景と農村と思わしきものが見えた。この高さからでは近いように錯覚しがちだが、インドア派のトワには結構な距離で、行った日には翌日は筋肉痛確定だろう。



 トワがその存在を知ったのは今日が初めてではない。

 森の中にあるいくつかの高台で、ブロックタワーを作り周囲を視認しては書き込み地図をチェックする、その過程で見つけたのだ。



 もっとも、見つけたのはいいが、距離以外にもいくつか問題があって、そこを訪ねるのは保留にしていたのだ。

 また、『すごく怪しい洞窟』で手に入れた封書にこの世界の人々と交流云々と書かれていたので、余計に躊躇した。



 だが、今のトワにはそうも言っていられない事情もあった。



 一週間ほど前の事だ。もっとも、トワはこの世界で曜日を意識した事はなかったが。そういう概念(ようび)があるのかすら不明だ。

 それはさておき、拠点セーフエリア付近でこの世界の住人と遭遇したのだ。


 ファーストコンタクト。突然の事だったので、トワは凍りついた。トワはコミュニケーション能力、略してコミュ(りょく)は低い。皆無とはいかないまでも、必要がなければ自分から家族以外の誰かに話しかける事など滅多にない。


 何を話すべきか。そう考えながら、トワは相手を観察した。

 相手は三人の男性達。狩りか木の実の採取目的か、鉈や弓などを手にしており、厚手とはいえ明らかに確立された技術で切り縫われたと思わしき服を着ていた。トワの服装はといえば、いつまでも部屋着のままでいられなかったので、イノシシの皮から創造(クラフト)した服を着ていたが、見かけは原始人から進化したてなレベルで、比較すると相手の方が遥かに洗練されていた。

 恐らく、服飾用の作業台(ワークベンチ)ではなく、基本作業机の配置図(レシピ)創造(クラフト)したからだと思われる。織機おりきもどちらかと言えば、服飾系統の作業台(ワークベンチ)になるのだろうが、あいにく糸や布の生成が専門のようで、配置図レシピ集に衣類らしきものはなかった。



 相手は相手でトワに――、というよりもその背後に視認できる建物(とうふ)が気になるのかちらちらと視線がトワを通り過ぎていく。

 害意はなさそうではあるのだが、かといって友好的(フレンドリー)かと言えばそうでもなく、何か用心しているように見受けられる。


 か弱い乙女(トワのじしょう)相手に何を警戒しているのだろうと、トワは内心首をかしげたが、ようやく相手が話しかけてきた。






 日本語ではなかった。






 その可能性は考慮していた。というよりも、この世界の人々と交流するにあたって最大の難問がそれだった。


 言葉が通じない可能性。


 むしろ通じなくて当たり前。何せ、地球ですら日本語が通じるのは日本か、後は超親日国であるパラオあたりなら単語レベルで通じるレベルか。


 良い案が思いつかず、とりあえず肉体言語(ボディランゲージ)でも試してみようかと思い、トワは失敗して(やらかして)しまった。


 左手にもっていた書き込み地図を所持品(インベントリ)に戻してしまったのだ。

 肉体言語(ボディランゲージ)を試すには邪魔だからとほぼ無意識の行為だったが、彼らの驚愕の表情に、トワは自分がしてしまった事に気付いた。



 所持品(インベントリ)を含め《力》は耕作者(ドラマティスト)権利(ちから)。逆に言えば、耕作者(ドラマティスト)でないなら《力》をもっていない事になる。

 手に持っていたものが忽然と消える。トワが彼らの立場でも怪しげに思うだろう。



 幸い、襲われる事はなかった。彼らは何もせず去っていった。ただ、何度もこちらを振り返りながら。まるでいつ襲われるか、それを用心するような風情で。






 そして、ファーストコンタクトから数日後から、屋外では常に視線が突き刺さるのを感じるようになった。視界の端に人影がちらつく事もあるが、トワがそちらに顔を向けると誰もいないのだ。

 恐らく、去っていった彼らではなく、監視に秀でた職業か技術の所持者達なのだろう。




 そして、現在に至る。

 ブロックタワーの上までは姿を隠したまま監視するのは無理なようで視線を感じないが、最初の赤土ブロックを設置(ビルド)する寸前までは、確かに存在を感じられた。


 まぁ、そんな状態でブロックタワーなんぞ作るなという意見もあるだろうが、すでに手書き地図を消して、建物(とうふ)も見られている。後一つや二つは誤差とトワは決め付けた。一般的な基準かどうかはさておき。



 別にやましい事はないが、怪しい事はいくらでもある。

 今、トワが危惧しているのは、ずばり魔女狩り。



 一応、念の為に豆腐ハウスと豆腐工房(スタジオ)内から拠点セーフエリア外へつながるトンネルを作ってある。他にも監視者に気付かれないように注意しながら、近道(ショートカット)や、身を隠せるよう小さな穴をいくつも作っておいた。



 だが、あると思っていた再度の遭遇、あるいは襲撃は一向におとずれない。



「やっぱ、こっちからアクションおこさんとあかんのかな?」


 嘆息してトワはブロックタワーの天辺、自分の足場に拳を添えた。


「一撃必倒、二重の極み!!」


 ほぼ落下する勢いでトワは地面に降り立つ。ブロックタワーは一瞬にして消えた。

 もちろん、本物(ふたえのきわみ)ではない。上から順番に赤土のブロックを変換(クラッシュ)しただけである。1ブロック程度の落下なら大した衝撃ではないし、それを一番下まで続けただけである。

 トワとしてはちょっとノリでやっただけなのだが、それが見ている者にどのような影響を与えるかまでは考えてはいなかった。





 そして、それからさらに数日。

 ようやく、二度目の接触の機会が訪れた。



 ただ、意外だったのは女性たった一人だった事だ。

 赤い皮鎧に身を包んだ彼女。



 拠点セーフエリアの敷地内にいるトワに対して、柵の外側から彼女は言った。――日本語で。



「あなたは何者ですか?」


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