第19話:アイ ホープ ベジタブルズ
第19話:アイ ホープ ベジタブルズ
現在、拠点ではトワの手によって様々な畑が作られている真っ最中である。
規則正しく、正四角形に区切られ規則正しく並べられた畑に、トワは次々に種を投入していく。
森を探索していくうちに、日本で見かけた事のある農作物やそれに近いものがいくつか自生しているのを発見した。
トマト、トウモロコシ、ジャガイモ、ブドウ、キャベツ。他にも枝豆っぽいバンカ豆、三色米。
どうやらここの森は農作物の宝庫のようだった。探せば、他にも見つかりそうではある。ただし、一つ一つの自生範囲は広くなく、森の中に点在しているようだ。
現在のトワの食生活は、コノコノの実とクロスベリーの実。そして、トラップにかかったウサギや、オオネズミといった小動物の肉だった。
野菜が食べたい。
トワの切なる願いだった。
どうやら『力』で作った畑は作物の成長速度を著しく速める効果があるようで、そう遠くないウチに食卓に並べられる事を期待できる。
それにトマトやバンカ豆は食用以外にも調味料化にも期待出来た。カマド付き料理台のそれらしき配置図は見つけていたが、その為には専用容器が必要らしく、そちらの方の目処はたっていない。
ただ、調味料を直接作らなくても、カマド付き料理台で料理をつくれば味付け済みではありそうな気がする。肉だけで作る『焼肉』は微妙で、せめて塩コショウか、焼肉のタレ甘口が欲しいところだ。
自生していた農作物は創造する事により、種になる。ジャガイモも種イモになった。恐らくは普通に分割しても育ちはするだろうが、《力》の仕様にそった方が良いと考えたトワは、全て種化してから畑に植えた。
一通りの作業を終えたトワは、クロスベリーの畑のパネルを見ていた。
やはり、1×4マスが気にかかる。
クロスベリーの種はすでに発芽している以上、絶対条件ではないようだが。
ここでトワはゲームの知識に照らし合わせてみる事にした。
「水、肥料、染料――」
思いつくのを列挙していく。
ちなみに染料は、染料の材料になる花に使用する事で、使用した染料と同じ色の花に育つというものだ。もちろん、それを材料として染料を作った場合、花と同じ色の染料になる。今回の場合にはまるで関係ないが。
「今すぐに試せるのは水やなぁ」
水なら水がめは各棟に数個あり、水量もほぼ満タンにストックしてある。水がめに入れた水は腐りも変質もしない。これは所持品保管箱もそうであり、保管系アイテムの仕様のようである。
逆に、干したり発酵させたりは出来ないだろうが、トワには現実での食品加工の知識はないので何も問題はなかった。納豆を大豆と一緒に保存すれば全部納豆になると噂では聞いていたが、トワは納豆がダメなのでさらに問題はなかった。というか納豆は苦手な人間にとってBC兵器や拷問道具に匹敵するだろうとトワは思っている。
とりあえず、トワは水がめから水桶に水を入れてくる。汲むではなく入れるになるのは、全部パネル越しだからだ。こうしてトワの非力さは、この世界でも維持されていく。
畑パネルの1x4枠の一つに『満杯の水桶』を入れてみる。変化はすぐに起きなかった。外れかなとトワが水桶を取り出そうとした時、水桶の画が変化した。水が減っていくのだ。
しばらく、待ってから水桶を取り出す。所持品目録での表示が『空の水桶』に変化していた。
トワは畑に手を触れてみる。乾いていたはずの土が、かすかに水気を帯びているような気がした。
トワはすぐさま豆腐工房に入った。全ての畑に水を供給するため、所持品目録の空き枠を水桶で埋め、その全てに水がめの水を移す。
さすがに一度に全ての畑は無理だったが、何度も豆腐工房を往復し、水を入れなおす事でなんとかなった。最悪、豆腐工房の水がめが全て空になる可能性もあったが、水がめは豆腐ハウスにもあるので、水切れの心配はとくにしていなかった。
そして、この畑に水を供給する作業で気付いたのだが、作物によって消費する水の量が違うようなのだ。もしかすると、肥料など他に1×4の枠に入れるものは量も、場合によっては使用するアイテムにすら違いがある可能性もある。
今は水くらいしかないので問題ないが、トワはこの事を頭に入れておく事にした。
畑の作業が終わったトワが次に考えたのが、ガラスの材料の入手である。
作物は恐らくありえない速度で成長すると思われる。それまでに調味料の配置図に必要なガラス容器を作りたかった。
ガラス容器なだけあって、配置図集では透明なガラスの板の画が表示されていた。
長らく作り方が不明であったが、時折チェックしていた配置図集からヒントが見つかった。今まで気付かなかったのは織機の配置図集にあったからだ。
織機は糸や布に関する作業台であったが、どうやらガラスの繊維らしきものを含む植物があるらしく、繊維状のそれをとりだし、炉で溶かす事でガラス板が作られるらしい。どのパネルも日本語じゃないので、画で判断する事になるので、らしいとなってしまうのが、歯がゆいところであるが。
書き込み地図もだいぶ埋まり、高台に上れば森の外が見える場所もいくつか出て来たが、それでも『まだ、なんかありそう』な部分も残っていた。
もちろん、トワはそこも探索するつもりだった。