第12話:豆腐二丁
第12話:豆腐二丁
探索を打ち切る事にしたトワが、戻ってまず何を創造したか?
実はトワが最初に行ったのは創造ではなかった。家である豆腐ハウスの増改築であった。
保管と作業台をここに設置するからには、今後もこの世界で生きていく前提として考えれば、ここが拠点となる。
さらには、石材によって創造出来るモノが増えた。
さすがに急作りの豆腐では狭すぎた。
幸いな事に、所持品保管箱にアイテムを仕舞う事が出来たので所持品目録の空き枠に余裕がある。
ずっと靴下だけのままだったせいでボロボロになっていたので、靴下を脱いで、革靴を創造してはきかえる。脱いだ靴下は捨てようかとも思ったが、トワが日本にいた数少ない証拠のようなものだったので、所持品保管箱で保管しておく事にした。
そして、周囲の木々を片っ端から変換し、木材とついでにコノコノの実も収集していく。
十分な量が集まったら、次はマイ豆腐に手をつける。壁、天井を容赦なく変換していく。
しかし、ここでちょっとしたトラブルが来た。
「きゃあ!」
変換している最中に天井の一部が落ちてきたのだが、トワの悲鳴があざといあたり、余裕はありそうだった。
トワは落下してきた天井と、まだ上に残っている天井を見比べて原因を把握した。
「完全にゲーム仕様ではないんやなぁ」
落ちて来たのは変換によってどこともつながりを失った部分だった。
それは現実では当たり前の事なのだが、サンドボックス系ゲームでは応力や重力がデタラメなものが多かった。
例えば、土のブロックを4つ縦に設置し、下から三つを破壊すると残った一個は宙にういたまま。そんな事は珍しくなかった。
トワはふと思いついて壁に突き立てるような感じで10個の木材を横一直線に創造してみた。先端をおしてみるが揺らぐ感じはしない。どうやら、つながっている限りは重力、応力は無視されるようだ。実験に使った木材を変換して収集し、再度増改築作業へと戻る。同じ事にならないように注意しながら。
増改築後の画は出来ている。
創造する予定の家具類の分を多めに見積もってサイズを拡大する。なにせ、豆腐である。複雑な作業になる事はまずない。強いて言うなら天井を高くした為、地面や床から直接設置出来なくなった事だが、それも崖に作ったような階段を壁の外側に作る事で容易に屋上部分に上れるようにする。
なお、作った階段は増改築が完了次第撤去予定である。壁に余計なものがついていては豆腐として美しくないからである。豆腐の美学をトワ以外にどれほどの人間が理解出来るかは不明だが。
ちなみに、実はこの増改築工事、実は2丁――もとい、2棟の豆腐を作る事になっている。日常生活メインの生活用豆腐と創造用の作業台を設置する工房用豆腐。後者は石材で作る予定だ。
なぜこうなったかだが、配置図集の中に炉やカマド付き調理台のような火を扱うようなものがあったからだ。木材の豆腐では火事になる危険があるが、だからといってトワは石材の豆腐に住みたくなかった。
理由は現在ある資源ではベッドが創造出来ないからである。と言う事は床で寝る事になる。
幸いな事にイノシシからとれた皮からカーペットのようなものが作れそうだが、それでも石と木の床、どちらが良いかと聞かれれば後者だろう。
木材を半分にスライスした木のハーフブロックで気持ちだけでベッドらしく、盛り上げてそこにイノシシの皮を創造して作った『皮のロングマット』を敷く。掛け布団代わりにもう一枚創造し、さらに一枚創造して、丸めて枕代わりにする。
さらに『木のテーブル』、『木のイス』、『木の皿』、『木の収納棚』を次々と創造し、設置していく。
壁に穴を空けただけだった窓には『木の面格子』を外側から貼り付け、出入り口には『木の守護紋付きドア』を設置。
『木の守護紋付きドア』だが、いくつかあるドアの種類からこれを選択したのは、他のドアよりも必要素材が多かったからである。『木の』と枕詞がついてる割には石材も必要であったし、何かギミックでもあるのかと思ったからだ。もっとも枕詞については、創造してから分かった事ではあるのだが。
そして件のドアだが、外開きで内側からかんぬきがかけられるようになっていた。石の部分はどこにあるかというと表面に四角のパネルとしてはめ込まれ、そこに幾何学的な紋様が掘られており、さらに掘られた部分が微かではあるが、青白く明滅している。
恐らく、幾何学的な模様が守護紋なのであろうが、それが何の役に立つのかトワには分からなかった。
所持品保管箱のように手を触れる事で、何か機能を発揮するのかと思ったが、紋様に直接触れても何の感覚も感じなかった。
「ま、いいか。ちょっとかっこいいかもしれんし」
肩を竦め基本作業机に手をふれ、石材棟用に『石の守護紋付きドア』も創造した。材料がやはり余分にかかるが、トワとしては、どうせなら2棟おそろいにしたかった。
そして、石材の棟もあれこれ悩みながら作っていき、内側はともかく見かけは立派な家になる頃には日は落ちていた。
最後に木材の豆腐を豆腐ハウス、石材の豆腐を豆腐工房と命名して作業を締めくくった。