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第10話:どちらの選択が正解か

第10話:どちらの選択が正解か



 イノシシの死骸か、石の確保が先か。

 トワは迷わずイノシシの死骸を選択した。


 崖の上に目印(フラグ)をつけ、階段も作った。またいつでも来る事が出来るし、イノシシの処理が終わってから、改めて石の確保をしてもいいだろう。



「しかし、ほんまでっかいなぁ」


 砕けた頭をなるべく見ないようにしながら、イノシシを観察するトワ。

 こうして、安全な状態で見ても、明らかに常識外。体長はゆうに2メートル越え。しかも幅の太く四肢もまた太い。これはもうトワの知るイノシシではなかった。怪物(モンスター)であった。


 ここは日本ではない。


 今自分のいる地がどこかはわからないトワであったが、このイノシシの死骸を見て少なくとも日本、いや地球ですらないという事を確信した。


 まぁ、考察など(セーフハウス)に戻ってからでも出来る。

 だが、変換(クラッシュ)をする前に、トワはそれでいいのか自分に確認した。


 皮を得る手段は変換(クラッシュ)だけではない。直接、この死骸から剥ぐという選択肢もある。剥ぐ為の刃物、木の剣はどこかへいってしまったが、木材4個で基本作業机は創造(クラフト)出来るし、基本作業机があれば木の剣は創造(クラフト)出来る。


 進んで剥ぎ取りを行いたいとは思わないが、変換(クラッシュ)の仕様にいささか問題があった。

 例えば、コノコノの木に対して変換(クラッシュ)を使えば、木材と実が残る。そして、それ以外は消滅する。では、もし葉が欲しい場合は?


 体躯(サイズ)はともかく、見てくれはイノシシである。肉は食べられるだろう。牙も何かに使えるかも知れない。そして、そもそもの問題として変換(クラッシュ)の結果、皮が残るのは絶対とは限らないというのがある。


 配置図(レシピ)集に皮らしきものがあったとして、それの入手方法については書かれていなかった。あるいは読めない文字で書かれているのかも知れないが、読めない以上どうしようもない。


 トワはさらに考える。素人であるトワがケモノの解体などできるのか? グロイという問題はさておき、皮を剥ぎ、食べられる部分と食べられない部分を切り分ける。

 そして、皮にしろ肉にしろ、普通はそのままでは腐る。配置図レシピ集には冷蔵庫なんて無かったし、皮については冷蔵庫に入れっぱなしにするようなものではないだろう。恐らく、なめすという加工を施して皮は様々な用途に使われる革となるのだろうが、あいにくここにはグーグル先生はいないし、ヤフー知恵袋もない。


 変換クラッシュなら何が残るにせよ、アイテム化という形で《力》に沿った仕様に変えられるので、少なくとも創造(クラフト)に支障の出るような事にはならないだろう。すなわち、創造(クラフト)の結果が『革靴』ではなく『腐った皮の靴』にはならないとトワは判断した。


 選択肢は2つ。変換(クラッシュ)をするか、否か。



「『変換(クラッシュ)』!」


 トワの判断は早かった。

 2つの選択肢のどちらにも正解が見出せなかったからだ。結局は《力》の仕様の問題。それは使ってみないとわからない。

 なら、使って仕様を確認した方が良いと思ったのだ。

 結果として皮が手に入らなかったら痛いが、授業料だと思うしかない。ゲームと違い、セーブ&ロード(やりなおし)など出来ないのだから。


 そして、イノシシの死骸のあった場所には三つのものが残った。砕けた頭部も地面を濡らしていた血もキレイに消えた。


「……『収集(ピックアップ)』」


 所持品目録インベントリに追加されたのは、イノシシの牙、イノシシの肉、――そして、イノシシの皮だった。



 一つの山場を越えて、トワは大きく息を吐いた。無事皮は手に入り、おまけに死骸どころか血まで消えた。これで他のケモノが匂いにつられて来る可能性も低くなるだろう。


 解決すべき事はもう一つあったが、これに対してはトワは楽観していた。まぁ、少なくともイノシシの処理に比べれば、たいていの事はマシに思えるだろう。



 他のケモノがトワ自身の匂いをかぎ付ける事もありうるので手早く処理する事にした。

 石の入手。これはまず壁の断層、それの岩部分を変換(クラッシュ)すればいいだろう。


 トワは木や土にそうしたように、壁面に手をあてた。だが、すぐに眉を潜めた。

 変換(クラッシュ)の手ごたえがないわけではない。しかし、手を通して伝わって来るフィーリングが鈍い。


 トワは一度壁面から手を離す。

 実はこれは事前に想定していた。土、木では変換(クラッシュ)にかかる時間が違った。ならばより固い石はさらに時間を要するだろうと。


 感覚フィーリングでは時間をかければそれでも可能に思えたが、一つ二つ持ち帰るならともかく、出来れば所持品目録インベントリの1枠の最大数である64個は最低持ち帰りたい。

 となると、事前に準備をしていたアレ(・・)の出番だ。


「『装備(イクイプ)』!」


 トワの左手に木のツルハシが現れる。

 サンドボックス系ゲームでは石や鉱物を掘る必須道具(ツール)といってよい。ゲームのタイトルの中には上位素材で作ったツルハシでないとレアな鉱石は掘れなかったりする。


 ちなみに木に対する道具(ツール)は斧というのが定番で、配置図(レシピ)集にもあったのだが、特に素手でも困っていないので作っていない。



 トワはツルハシの先端をコツンと軽く壁面に当てた。今まで手を通していた感覚(フィーリング)が、さらにツルハシを通して壁面に干渉しているのがわかる。だが、一定の段階で感覚(フィーリング)が止まってしまった。


「やっぱり、ただ当てるだけじゃだめなんかな?」


 力を込めて壁面に突き立てようと、ツルハシを一度壁面から離したが、奇妙な事に気付く。ツルハシが壁面から離れたにも関わらず、壁とツルハシをつなぐ感覚(フィーリング)が維持されており、壁面に蓄積された変換(クラッシュ)のエネルギーがリセットされていない。


 トワはもう一度、軽くツルハシを突き立てる。


 さらに壁面に力が加算される。感覚(フィーリング)からすると後1~2回分で変換(クラッシュ)が発動しそうだ。


「なるほどなぁ。どれだけ力込めたかじゃなくて回数でカウントされるんか」


 さらに壁面にもう一度。そして、そこには四角の窪みと、窪みより一回り小さな正方形六面体(サイコロ)状の物体が残っていた。


収集(ピックアップ)!」


 晴れて所持品目録インベントリに『石材』が追加された。



「いよぉーし、掘るでぇ!!」


 気合をいれてさらなる石材を掘るために、トワはツルハシを振り続けた。





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