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新しい朝

 朝日が昇り、この薄暗い部屋も多少は明るくなった頃に雄二は目を覚ました。寝ぼけてるのか唸ったり身体を捩ったりしていたが、ドアがいきなり開いたことでピタリと動きを止め息を殺す。


「おはよー。起きてる?」


 そういって顔を覗かせるメディアの姿を確認すると、雄二はホッと一息ついて身体を起こして挨拶をする。


「おはよ。うん、今起きたところ」

「そっか……ってクマが出来てるよ? 寝れなかった?」


 なんだか良い匂いがするお盆を持って部屋に入ってきたメディアの言葉に少しだけ苦笑しながら頷く。メディアという知り合いが出来たことで安心して眠れる、なんて事はなくていくら目を瞑っても眠れなかったのだ。主な理由は硬いベットと部屋のそこかしこから感じる虫の気配が気になって気になって仕方なかったからである。


 その事を伝えると、お盆をベットの横にある机に置いて椅子に座ったメディアも苦笑して「私も最初はそうだったよ」と同意してくれた。


「駆除してもまたすぐ沸くからあんまり気にしないほうがいいよ。ただ虱には気をつけてね? すっごく痒くなるから」

「うへぇ……それは嫌だなあ……」

「もしそうなったら潰すの手伝ってあげるね」


 にっこり笑いかけてそんな事を申し出てくるメディアに、雄二はなんともいえない顔をして笑い返す。


「じゃあ朝ごはん持ってきたから食べよっか。今日は当たりだよ!」

「当たり?」

「うん、冷めないうちに食べちゃおう?」


 そうして差し出された椀を受け取り、雄二はまたなんともいえない顔をしながら心の中で溜息をする。良い匂いは確かにする。するのだけど、中身は麦のようなものとほんの少しだけ入っているキャベツのような野菜と何かの骨だけだ。これが異世界名物、麦粥という奴なのだろうか。


 雄二は食べ盛り真っ盛りの男子高校生である。朝から肉が出てもぺろりと食べられるほどの強靭な胃を持っているのに、なぜこんな二日酔いが酷くゲッソリしたオヤジが食べるような胃に優しいお粥が朝食なのか。


(まあ、奴隷だからそんな贅沢は言えないのは分かってるんだけどな……)


 ちらりと横を見ると、美味しそうに骨をバリバリと噛み砕いて悦に浸っている女の子が。実にワイルドである。


 しかしあまりに美味しそうに食べているのと、昨日の昼から何も食べていないことも合わさってまあいいかと思い始める。とりあえず腹に入れて一息つこう。そんな事を思いながらスプーンで麦粥を掬って口に運ぶ。そして盛大にがっかりする。


 どうしたの? そんな事を思っているだろうメディアは首を傾げて見つめてくる。


(味がしねえ……味がしねえよぉ……)


 正確に言えば味はする。味はするのだが……かなり薄いのだ。素材の味を活かすために一切の調味料を使用していません。なんて宣伝文句が頭に浮かぶがそんないいものではない。良い匂いはするのになぜこんなにも味がしないのか。不味くもなければ美味くもない。それが異世界に転移して初めて食べた食事の感想だった。


 実際は、日ごろジャンクフードやスナック菓子やら味の濃い食事ばかりしている雄二だからこそそう思うのであって、舌が肥えている人が食べればちょっと塩が足りないかな? と思う程度には食べられるものである。


(てかこの骨って鶏じゃん…煮込みすぎてもう味が……)

「骨が入ってるなんてラッキーだよね。いつもはキャベツと麦だけなんだけど、たまに大物が入ってるんだー」

「へ、へえ、そうなんだー……」


 小指の先ほどしかない骨をガリガリと噛み砕きながら雄二はメディアを想って心で泣いた。







「というか、やっぱり麦とキャベツなんだ……」

「朝ごはん? そうだけど……ユウジの国ではそう呼ばないの?」

「いや、そう呼ぶけど……」

「?」


 あまり満たされなかった腹を慰めるように撫でながら呟く雄二に、メディアは不思議そうな顔をしている。

 麦にキャベツ。これは元居た世界のしかも日本での呼び名だ。それがここ、異世界でも使われているとなると……。

 

(よくある異世界に来たのは俺だけじゃなかったってパターンかな?)


 過去にも異世界転移した人がいて元の世界の知識を広めている、異世界転移や転生ものの定番だ。だがそんな事は今のはどうでもいい。問題はその人物が帰れたかどうかだ。しかしそんな事を麦とキャベツだけで判断できるわけもなく、雄二は心の中でまた溜息をつく。 

 とにかく情報だ、情報がなければ何も行動に起こせない。そう判断した雄二は頬を軽く叩き、絶対に日本に帰ると決意して身も心も引き締める。


「よし、じゃあ朝ごはんも食べたし早速ここの案内を頼む!」

「わかった! あ、でもその前に服持ってくるね!」

「え? ああ……ここにないの?」

「うん、お漏らししてたから洗濯したんだよー。乾いてるといいんだけど……」

「お、おも!?……もしかして、俺の服を脱がしたのって」

「私だよ?」

 

 自分が裸なのはもちろん知っていた。治療のために男の奴隷が服を脱がしたのだろうと思っていた雄二だったが、まさかそれをメディアが行っていたとは考えていなかった。

 実は漏らしていた事とメディアに裸を見られたというあんまりな現実を突きつけられた現役男子高校生(17才)の野田雄二は両手で顔を覆い、ベットの上をうめき声をあげながら転がりまわってメディアを困らせたのだった。

ちょっと書き方を変えてみました。読み辛くないでしょうか?

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