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男の奴隷と女の奴隷


「お、男は女に絶対服従……?なんですか、それ……」


「知らないんですか……?」


(知るわけがない。なんだその男女平等主義者真っ青のルールは。というか女神様が定めた? 頭おかしいんじゃないの?)


 混乱した頭を必死に働かせてなんとか返事をする雄二。


「つ、つまり、貴女様に命令されたら絶対に逆らえないって事ですか?」


「いえ、逆らえますよ?」


「はあ?」


(言ってること違うじゃねえか!)


 そんな事を考えてるのが顔に出ていたのか、なにやら心配そうな顔をして少女は雄二を見つめた。


「もしかして……命令権の事も知らないんですか?」


(知るわけないだろ!? だって異世界こっちに来て半日ぐらいしか経ってないんだし!)


 雄二のあまりの狼狽ろうばいぶりに少女は少し考える素振りをすると、言葉を選ぶようにつたない説明を始めた。


「……男の人に命令するのは誰でも出来るんです。ですが……えっと、優先的? に命令を聞く序列……っていうのがあって」


 雄二を学のない奴隷と判断した少女の、出来るだけ噛み砕いてわかりやすく説明しているのだが、肝心の雄二にそれは届かない。


(なんか急にしどろもどろになったな……というかよく見たらこの子、かなりみすぼらしい格好だ)


 必死に少女は説明しているが、雄二はあまりちゃんと説明を聞かず、少女の格好を観察するように見ていた。


 少女の髪は肩の少し下までのばしているが全体的にボサボサで町で見た人たちよりくすんで見えた。着ている服も、元々は無地で亜麻色だったのだろうが所々どす黒いシミが幾つも付いていた。


(……顔は、けっこう可愛いかんじだけどさ。……そういえば、自分も奴隷だって言ってたような……つまり、まともな教育を受けてないって事なのかな? だから上手く考えを言葉に出来てないとかそんな感じか)


 そんなお互いがすれ違った事を考えていると、うんうんと唸っている少女は何か閃いていたように少しだけ目を輝かせて言い放った。


「つまり、偉い人の命令を一番に聞くの!」


「ああ、なるほど」


 実に分かりやすい説明に雄二はつい微笑んでしまう。


 学校で例えるならば担任より校長の指示を優先的に聞け。だが、校長からの指示をもらったら担任の指示は聞かなくてもいい。それに当てはめるとしたらこの子の命令は聞かなくても大丈夫って事らしい。


「えっと……分かりましたか?」


「ええ、とてもよく分かりましたよ」


 そんな風に解釈したとは露とも知らずに少女は嬉しそうに微笑む。


「それならよかった! 説明が分かりにくかったらいけないと思ったのですが……貴方は教育を受けていたのですが?」


 ホッと胸を撫で下ろす少女に雄二は頷いて答える。一応これでも高校に在学中の身である。……成績がいいかどうかはこの際関係ないだろう。


「教育を受けていて傷一つない身体……もしかして、国外では専属奴隷をしていたんですか?」


「いえ、ですから奴隷では……というか、専属奴隷ってなんですか?」


 そういえばあの衛兵にも専属奴隷かどうか聞かれたなと雄二は思い返す。


「ええ、専属奴隷も知らないの!?」


 あまりの驚きように雄二は少しだけムッとしてしまう。


(知らんもんは知らん! 俺はこの世界に来たばかりなんだっつうの。この世界の常識なんて知るわけないだろ)


「えっと、奴隷には一番から四番まで等級があって……」


 そこから少女は奴隷と等級について雄二に説明をする。


 等級とは四つあり、それぞれに分けて仕事する内容が違う。


 第四等級は危険で過酷な肉体労働が主な仕事で、第三等級は建築など特殊な技能を必要とする仕事。たまに平民の仕事の手伝いをする。


 そして衛兵や警備などは第二等級。第一等級は教皇や貴族のお世話係であり、その中から教皇達は気に入った奴隷を自分の専属奴隷として所有している。


 このように奴隷を分けて管理、運営しているとのことだ。


「基本的に奴隷の中では専属……第一等級から順に偉いです」


(なるほどな……んで、俺が専属と勘違いされたのも身なりがよかったからってわけね)


 確かに少女の服と比べるとまだスウェットのがまだましだった。


 だいたいの事は理解できた。しかし、話を聞いていると、雄二はどうしても気に事があった。どうせなら今聞いてしまおうと口を開く。


「色々教えてくれてありがとうございます。ついでにもう一つ聞きたいのですが……」


「はい、なんでも聞いてください!」


「では……なんで貴方は奴隷なんですか?」


(男が奴隷ってのはまあわかる、絶対服従なら奴隷にするのもんな。だけどじゃあ目の前のこの子はどうなんだって話だ。女の奴隷なんていなくてもいいんじゃないかと思うんだけど)


「……そうですね、この国の女性について説明していませんでしたね」


 そういって先ほどとは打って変わって沈んだ声で少女は説明を始めたが、雄二はもしかして聞いてはいけないことだったんじゃないかと少しだけ冷や汗をかく。


「……先ほど命令権で説明しましたがこの国で一番偉いのは女神教の教皇様です。その次に貴族様、平民様と続いて……」


 少女は何かに耐えるように、身体を震わせて声を絞り出す。


「……さ、最後に……罪人……いえ……奴隷どれい産出さんしゅつにん……になります」


 どうやら、雄二は超特大の地雷を踏んでしまったようだ。

この時間はなろうが重すぎる……

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