メディア
「……メディアはなんで奴隷産出人になったんだ?」
考えに考えた結果、雄二はメディア本人に直接確認することにした。先ほどのように他の奴隷から聞いて回る事も考えたが、偏見などが入って本当かどうかわからなくなるだろうしなによりもまどろっこしくて面倒くさい。
いきなりすぎる話題にメディアは足を止めて俯いた。それに合わせて雄二も足を止めて向き合う。
「……いきなりどうしたの?」
「さっきの奴隷に言われたんだ。メディアは頭がおかしいから気をつけろって」
「……そっか」
相変わらず俯いたままのメディアに、雄二はもしメディアが快楽殺人鬼だったらどうしようとか考えて一人冷や汗を流す。
……どのくらい時間が経ったのだろうか。先ほど聞こえなかった木と木がぶつかり合うような音や怒鳴り声が聞こえ始めた頃にメディアは顔を上げた。
「男と女が仲良くするのはそんなにおかしいの?」
「え?」
「女神様が決めたからって、絶対服従だからってなんで男は奴隷なの? なんで女はえらいって事になるの? そんなのおかしいよ、奴隷なんていなくたって皆で力を合わせれば暮らしていけるじゃない!」
先ほどのしょんぼりとしていた顔とは比べ物にならないほどの悲痛な表情で雄二を睨みながら叫んだ。
「お、落ち着いて…!」
あまりの気迫に気圧されながら雄二は必死に宥めようとするもメディアはなおも叫ぶ。
「男か女かなんて関係なく、ただみんなで仲良く暮らしたかっただけ! 暮らしたかっただけよ! なのに皆はお母様はおかしいって、背教者だって!」
メディアの瞳から大粒の雫が滴り落ちると、それは一つ、二つと増えていき足元の床に大きな染みを作っていく。
「メディア……」
「お、お母様はひぐっ、お、おかしく、うぐっ……ないっもん。う、うえぇ……! だ、誰よりも優しく、て、だれ、よりも……っうぅ」
しゃくりあげ、顔を酷く歪ませながら涙を拭う事も、雄二から目を離すことなく訴える。
「な、なんで、だれも、お母様を、お、おかあ……さま、まちがって……みんな、なかよくっ」
今まで溜め込んできたものを全て吐き出しているのか、もはや自分でも何を言っているかさえ分からなくなっているメディアに雄二は何もせずただただ黙って聞いていた。いや、聞くこと事しか出来なかった。
これまでの人生でこれほどまでに感情を吐露してぶつけてくる相手に出会ったことがないのだ、当然だろう。
雄二の愛読しているライトノベルの主人公達ならば抱きしめたり、頭を撫でたりして宥めることも出来よう。だが、そんなこと雄二には出来ない。
「――メディアのお母さんは間違ってないよ」
「え?」
――――雄二に出来ることは、メディアの目をしっかり見据えながら口を動かすことだけだった。
 




