夢の異世界転移!
異世界。
それは夢と希望が満ち溢れている夢の世界。可愛い女の子に囲まれてハーレムを作れるし、神様からもらった特殊能力で悪者を退治して皆から賞賛と羨望の眼差しで見られる。
 
つらいこともあるだろうし、思い通りに行かない事もあるとはわかっていても異世界に行きたい。こんな何も思い通りにならない世界なんて捨てて異世界に行きたい。
(やっぱりチーレム俺TUEEEモノは最高だ……)
そんな益体のない事を考えながら、ベッドで横になっていた野田雄二は読んでいたお気に入りのラノベを枕元に置いて目を閉じる。
主人公が強大な敵をチート能力を使って圧倒し、美しい顔立ちでスタイルの良い美女や可愛いツルペタな女の子に囲まれてチヤホヤされている場面を、自分に置き換えて妄想を膨らませながら俺もいつか、そうならないかなと思いながら布団に潜り込む。
(夢から覚めたら異世界にいますように)
そんな事をわりと本気で考えながら眠りについた。
そして雄二は異世界に来た。
いきなりなんだ、と思うかも知れないが本当に異世界に来てしまったのだ。
目の前に広がるのは見慣れたコンクリートで作られた建物ではなく、土か石で作られた建物で道路はアスファルトですらない。極めつけは遠くに見える大きな城のようなである。
雄二の住んでいるところは都会から少し離れた田舎ではあったが近所にこんな家なんてないし、そもそも城なんかもない。
道行く人たちは見慣れない服を着ているし、中には鎧のようなものを着て歩いている人もいた。
夢にしてはリアルすぎる光景に雄二は頬を強めに抓ってみる。思いのほか痛くてすぐ手を離したが、そうして雄二は確信する。
自分は異世界に来たのだ、と。
感動のあまり体が震え、口からは抑えきれない声が洩れる。
「お、おおぅ……!」
こういうときは大声で喜ぶものだろうが、いくら頭の中お花畑の雄二でも、街中で大声をあげるなんて恥ずかしい事はできない。その代わりキョロキョロと忙しなく辺りを見渡して目の前の情報を得ていく。
(町並みは……中世ヨーロッパ風か……異世界転移ものとしてはありきたりだな……。ふむ、こんな街中で異世界人を呼び出すとは考えられないし召還者もいない…となると召還物ではない? ……いや、あの作品は)
緩む頬を押さえず顎に手をかけて雄二は考える。いや、今まで読んだライトノベルの設定を思い浮かべる。
自分の置かれた状況を照らし合わせれば多少は現状を理解できると思ったのだ。
まるで自分の好きなシリーズのラノベ主人公になったようなえもいわれぬ感覚に酔い痴れていたが、長くは続かなかった。
「おい、そこのお前。こんなところで何をしてる」
背後から声を掛けられた雄二は(お、イベントか? いやいや、もしかしてここでヒロインの登場かな?)と考えてさらににやけそうになるも、野太い声だったのでそれはないなとすぐに判断して振り返る。
そこにいたのはやはり可憐な美少女などではなく、自分より頭二つ分ほど背の高い男だった。鈍色の鎧を着ているところからしてこの町の衛兵か何かだろう。
「返事はどうした」
「え、あ……す、すいません」
値踏みするような視線を受けた衛兵は、鋭い眼光を雄二に向けて放つ。
それを前にした雄二は気圧されてしまい、何を言っていいのかわからずとりあえず謝ってしまう。
(異世界からいきなり飛んできました! ……なんて言っても信じてもらえないよな)
異世界転移ものにはよくある話で、主人公がどれだけ真摯に訴えたとしても異世界から来たなんて話しても信じてもらえないものだ。
それを良く知っている雄二は、軽く頭を下げてそそくさとその場を後にしようとしたが、ゴツゴツとした手に肩を強く掴まれて阻止されてしまう。
(あー……くそ、めんどうな事になったな……)
心でやれやれとため息をつきながら仕方なく足を止める。
衛兵に捕まるということは通りかかった女騎士に保護されるか、あの城に住むであろう姫様の目に留まるのだろうか。それともちょっと血生臭いが牢屋で人外美少女との運命的な出会いをするのだろうか。
そんな事を本気で考えていると思いがけない言葉が衛兵から告げられた。
「どこに行くつもりだ。……専属奴隷か? なら主の家紋を見せろ」
「は?」
――みんなにちやほやされて美少女にもてまくる。そんな野田雄二の夢、いや願望はあっさりと打ち砕かれ塵と消えるのに時間はかからなかった。
初投稿になります。
見苦しいところが多々あると思いますがよろしくお願いします。
 




