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僕の好きな人

書いていた他の作品の続きがバックアップごと昇天されました。

気分を変えて書いてます。

 僕の好きな人は地味だ。

 肩からちょっと下までの髪をいつも無造作に一つに束ね、基本ぼさぼさ。

 束ねられなかった髪は両耳はもちろん、頬までもっさりと覆い隠している。

 ダサい以外形容できない黒フレームの大きな眼鏡をかけ、更に前髪がいつも眼鏡を半分くらい隠して表情もわかりにくい。今どきの女子高生なんて化粧は当たり前だけど、彼女はいつもスッピン。制服のスカートも校則通りひざ下、ブレザーも前ボタンはきっちり締め、ブラウスも第1ボタンまできっちり留めてリボンもきっちり。おかげでカワイイと評判のわが校の女子制服だけど、どうにも野暮ったい。

 女子が話しかければ普通に会話をしているけれど、基本休み時間の雑談に混ざるわけでもなく本を読み、お昼も黙々とお弁当を食べた後は本を読み、放課後はホームルームが終われば即帰宅。そんなクイーンオブ地味が僕の好きな西島洋子さんだ。


 高校に入学して、同じクラスになった西島さんを見た第一印象は地味の一言。だから僕も特別意識していたわけじゃなかった。

せっかく高校生になったのだから、可愛い女の子と仲良くなってあわよくば彼女をGETしたいと思っていたし。

 じゃあどうしてそんな地味な女の子を好きになったのか。

 あれは1年の夏。

 その日、部活(ちなみに文芸部だ)が中止になった僕はいつもより早く学校を出た。

 うちの高校から最寄りの私鉄駅まで歩いて15分ほど。賑やかでもなくかと言って寂れているわけでもない微妙な商店街を抜け、僕はてくてくと歩く。いつもなら同じ部活の友達か、小学校の頃から同じ学校の斎藤と一緒に帰る事が多いので一人というのは久しぶりだ。 

 午後の日差しはまだ厳しく、僕は額に浮かぶ汗を時折拭きながらゆっくり歩いていた。誰かと話しながらならあっという間の道のりだけど、容赦なく照り付ける太陽に耐えながら歩くのは永遠に続く拷問のようだ。

 拷問に耐えながらも歩いていると、僕の100メートル位先にうちの学校の女の子が歩いているのが見えた。

「ああ、あの後姿は西島さんか・・・」

 何でわかるかと言えば、教室で僕の右斜め前に座っているのが彼女だからだ。

 別に熱心に毎日毎日観察しているわけじゃ無いんだけど視界に入ってしまうので仕方がない。

 髪型はつい数十分前まで教室で視界に入ってたぼさぼさから何ら変わっていない。校則通りにきっちり着込んだ制服姿も相変わらずだ。でも。

「・・・姿勢がいいな」

 何というか、背筋を伸ばして歩いている姿は結構恰好よく見えてしまった。地味なのに。

 彼女は意外と歩くのが早いようで、僕との距離は縮まる気配がない。

 このまま駅に着くかなと思っていたら、彼女が急に立ち止まり、道端にしゃがみ込んだ。

一匹の野良猫が居た。

 この真っ黒な野良猫は僕も見た覚えがある。通学路にいつもいるのだけど警戒心が強いらしく触りたいと思ってもなかなか近づけない。でも西島さんは逃げられることなく近寄りしかも撫でているではないか。

ほー、慣れてるんだな。

 猫は気持ちよさそうに目を閉じてされるがままだ。僕もこの機会にお猫様に触らせて貰えないだろうか、などと思いながら近づいていく。

 そしていつも比較的無表情な西島さんの口元がにへらと緩んでいるのが見える。

 僕は自分の心臓が高鳴るのを感じた。

え、どういうこと?

 太陽光線とは別の理由で自分の頬が熱くなるのを感じ、僕はそのまま彼女の横を通り過ぎていった。

 そう、この時僕は地味な西島洋子さんに恋をしたのだった。


 その翌日から、教室で西島さんの後姿をついつい見るようになった。

 彼女はいつも背筋を伸ばして姿勢正しく座っている。授業中先生に当てられて立ち上がる時にも無駄ない動きで見ていて気持ちいい。何だか見惚れてしまうのだ。もし、彼女が椅子から立ち上がってまた座るという動画があれば1日中見続けられる自信がある。それは月日が過ぎて高2になった今でも変わらない。そして不思議な事に何度席替えしても僕の席は彼女の斜め後ろになる。

「しかしお前さんのストーカー歴も長いな」

 さらっと失礼な事を言う斎藤。

 今は10月。制服が冬服に変わった直後の放課後、下校途中だ。

 こいつとは小中高と同じ学校で、不思議と同じクラスになる事が多かった。

 スポーツマンタイプの斎藤は僕とは正反対の人種だけど、なんだか昔からウマが合って仲がいい。西島さんの事もいつの間にかバレていたけれど、まあ特にけしかけられることもなく偶に進捗状況を聞いてくる位。勿論この1年以上報告する事は特になく、僕が語る「西島さんのちょいといいとこ」もイマイチ賛同が得られない。イケメンのこいつに賛同されても色々問題があるような気がするのでそれはいいのだけど。

「ストーカーじゃないよ。見守ってると言ってください」

 斎藤は肩をすくめて見せた。こういうのが絵になるから困る。

 身長180、いわゆるソフトマッチョで爽やかなご面相、人当たりの良さで女の子から人気が高い。それに対して僕は身長160、ひょろっとしている上に女顔。私服で並んでいてカップルに間違われること多々。身長は諦めてせめて筋肉だけでもと鍛えているけど、どうにも育ってくれない。筋肉の反抗期なんだろうか。

 ちなみに小さいころから「おとこおんな」とからかわれるのが定番だった。でもそれは普通女の子に対する悪口じゃないかい?

「それで満足ならいいけどね。でも見てるだけじゃなくてせめてお友達位にはなっとけよ」

 珍しく斎藤が説教してくる。

 お友達かあ。

 確かに、今のところ西島さんとは単なるクラスメートでしかなく、そもそも僕の名前をご存じなのかもわからない。さすがに2年間同じクラスだからそれ位は知っていると思いたいけれど。

僕だって友達になりたいし、できればお付き合いとかしたい。でも第一歩を踏み出すのが難しい。

「斎藤位カッコよければ自信出るんだろうけど、僕こんなんだし」

 ため息とともにネガティブ。

「しょうがねえなあ。お前さん、素材はいいんだからちったあ自信持てよ」

 斎藤はいつもそう言ってくれるけど、この自信の無さはどうしようもない。男として情けないというか。

女に生まれていればまた違った人生だったかもしれない。


 学校の最寄り駅に着いた。

 今日は部活が無かったので早めの時間。

 斎藤は用事があるとかでそのまま改札に消えて行く。

 僕はそのまま帰る気にならなくて、駅前の本屋に行くことにした。特に目的も無く雑誌コーナーに行き、次に文庫本コーナーへ行く。

 そこで僕は立ち尽くす。

 何故ならそこには西島さんがいたからだ。

 僕は普段彼女の後姿を見る事が殆ど。

 今、本棚に正対している彼女に対して僕は右側からアプローチしている。

 つまりあまり見れない横からの姿が見れるという事だ。レアだ、実にレアだ!!

 脳内ハードディスクに動画を保存すべく、僕はなるべく自然に少し離れた場所の文庫本を手に取り、身体を少し左向きにして視線の端で彼女を見る。相変わらず立ち姿が美しい。頭はぼさぼさだけど。

あれ、でも様子が変だ。

 視線は本を向いているけれど、肩が小刻みに揺れて時々「ぐずっ」と鼻をすするような音がする。

・・・泣いてないか?

 思わず彼女の方を見ると、眼鏡を外したところだった。

 そして無意識なのか視線を感じたからなのか僕の方に顔を向ける。

 いつもの野暮ったさは無く。

 その顔は別人のようにとてもとても綺麗だった。

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