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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
第一次宇宙戦争
9/65

第9話

 数人の男達がルーツクレーター底部に存在する火星の山林を装甲車両を以って駆け抜ける。

 捕縛されたテロリストの一部から背後関係が漏れるのを避ける為に火星軍が彼らの逃亡を幇助したのだ。

 ムミートは軽く舌を鳴らすと、彼らのボスが指定した次なる目標に向かう途中の車内で指示を飛ばす。


「ファルーク首尾はどうだ?」


「順調です、そろそろ目的地の経緯に到達します」


 山林を抜けると廃棄された浄水場に辿り着く。気圧の弱い火星の環境で水を定着させる際に使用されていたプラントだ。

 テロリスト達は工場内に車を乗り入れると施錠されている鎖をカッターで断ち切り開放する。

 其処には旧式の戦車が数台、小型のEVCが鎮座されていた。


(またトラッド……しかも戦車だと? どうやら連中は俺達を切り捨てる腹積もりのようだな)


「ムミート! こいつを見てください!」


「ほぉ……こいつはプロビデンスのクレズマーか、少しは使えそうだな」


 ムミートはクレズマーの肩に装備されているFELを確認する、製造番号は削られているが正規品のようだ。

 確かに親地球派のテロリストが地球製のEVCで武装していれば信憑性は増すだろう。

 しかし、正規品のクレズマーを易々と密輸できるのは当人達が関わらなければ容易ではない。


「しかし、一台だけ突出した機体を渡されても火線が集中するだけだな……今回こいつを利用するのは見送るか」


 クレズマーのFELは非常に強力な熱線をもって大抵の弾体を蒸発させ無効化する事が可能だ。

 但しそれは真空に近い宇宙空間であればの話、火星の大気が薄いとはいえ威力はかなり制限される。

 戦闘機から打ち出されるミサイルの類であれば確実に無力化することが可能だが、質量弾ともなれば容易くはない。


「ムミートそれなら俺が志願します!」


「ファルーク……この機体に乗ればお前は集中攻撃を受ける。死ぬかもしれんぞ?」


 ファルークは真剣な眼差しでムミートの両眼を見つめる。ムミートは髭をなぞると諦めたように志願を受諾した。

 青年はまだ歳若い兵士の一人ではあるが、EVC操縦の腕は確かな物がある。


「好きにしろ。だがこの機体に乗る以上はお前の任務もそれ相応の物になる」


「はい! 有り難う御座います!」


 ムミートの思案の中では次の作戦の概要は既に定まっていた、不確定の問題要素はあの時に現れたEVCにある。

 幸い切る手札は前回と比べ充足している、以前のような失態を繰り返すようなことはないだろう。


(開戦派が主流に乗った以上、火星軍の態度は前回と同じとは限らないだろう、とすれば……)


 ムミートはトラッドに乗り込み、OSを起動させるとEVCはゆっくりと上体を起こし立ち上がる。

 正面玄関のシャッターが音を立てて開放されると、前方の視界に眩しい明かりが灯った。




 バイザー越しに流れる情報をつぶさに読み取り、コウキは敵の攻撃に反応する。

 しかし計器のスイッチの入れ方を取り違え、機体は意図しない方向へと流れていく。

 コウキは動揺し慌てて操縦桿を引き間違えた。


「Holy shit! リアクションホイールが!? 機体の立て直し……どれだよ!」


 パニック状態となったコウキが右往左往する間に敵機の攻撃に被弾。

 フィルムスクリーン上に警告が投影され真っ赤に染まる。

 それをみたコウキは機体が逆方向を向いていることにも気付くことなく、反射的にトリガーを引いた。


『ちょっとコウキ! フレンドリーファイアッ!』


「Oops! わ、悪い! あぁッ!?」


 眼前に明滅するGAMEOVERの文字。コウキはバイザーを頭部から外すとばつが悪そうにシミュレーターから降りる。

 外では腰に手を当て仁王立ちしたイーリアが不機嫌そうな様子でコウキを睨み付けていた。


「呆れた! 貴方そんな腕で実戦に出てたの?」


「いやぁ……返す言葉も無いね」


「悪ィな、イーリア! こんな楽勝の賭けで奢って貰えるのは少々気が引けるぜ」


「主人の醜態は所有物である私の不徳の致す所です」


 各人のスコアがパネルに表示される。ハル293.pt、ニコ211.pt、イーリア198.pt、マイケル179.pt、コウキ73.pt

 一般兵の平均が150である事から、ニコとイーリアのポイントはベテランの域にあると言える。


「今時、ミドルスクールの子供だって、ゲーム感覚で100.ptは取れるのよ?

 以前の狙撃の腕前はサポートが良かっただけなのね」


「マァマァ、落ち着きなってイーリア」


「実戦でFFされちゃ堪ったもんじゃないわ! 今日は貸切で基礎から徹底して鍛え直すわよ!」


「コウキ! ロシア美女が手取り足取り個人レッスンしてくれるそうだぜ? こいつァ怪我の功名という奴だな?」


 マイケルが何時ものジョークを飛ばすとイーリアの肘鉄が軽く横腹に命中。

 マイケルは苦しそうな演技をしながら倒れこんだ。


 その時、唐突に格納庫内にサイレンが鳴り響くと、メナエムがリュウを引き連れて格納庫内に現れる。

 隊員達は表情を引き締めその場に整列すると、メナエムが片手を上げて語り始める。


「君達も知っての通り、先週、破壊活動を行ったテロ組織

 ”フッリーヤ”は火星軍の収容所に捕縛された。

 しかし、今朝方彼らは収容所からの脱走に成功。

 コスモポリタンの衛星記録でも姿を捉えている確定情報だ……モニターを」


「はい…これがその時の映像です……この後山林に入り見失いますが、車両の時速から半径を絞って追跡した所。

 1時間後にイニティウムから40㎞離れている浄水場に、現れた事が分かりました」


 工場のシャッターが開き。戦車が走り出してくる様子が映し出されると、隊員達からはどよめきが上がる。

 マイケルは思わず鼻で笑い飛ばし、リュウに呆れた様子で語りかける。


「はァ? 戦車だと……連中は火星で砲撃戦でもおっぱじめるつもりかよ?」


「話は途中だぞマイケル、敵戦力は戦車5両、トラッドが3機……そして」


 モニターにクレズマーが映し出されるとカメラがパーンし一時停止。クレズマーの予測スペックが表示される。


「プロビデンスのクレズマーッ! ナゼ火星に!?」


「すまないニコ、その件に関しての情報は分からない、研究目的に輸入された物を横流しされたか、それとも……」


「火星の有力者が手引きしたか……か?」


 コウキがリュウの発言に横入りされ、軽く咳払いをすると否定も肯定もすることなく話を続ける。

 続いてモニターにはクレズマーの搭載しているFELのスペックが大写しで映し出される。


「クレズマーに搭載されているFELは

 僅かな時間照射されただけで戦車内の人間が破裂するほど高出力な代物だ。

 テロリストが市街地に侵入する前に何とか食い止めねばならない……しかし」


「有り難う…ここからは私の口から説明しよう、彼らは武装をしているものの、まだ直接的被害を加えた訳ではない

 私はそこが彼等の狙いだと推測する。

 彼等が何らかの破壊活動を行わない限り、我々には手の施しようがないからだ」


メナエム艦長は沈痛な面持ちで隊員達の顔を一望に眺め、重い口を開き懇願する。


「自由意志による参加を求める。

 彼等が市街地に侵入するのを妨害……可能であれば直接対話によって説得せよ

 直接攻撃は自衛権に基づいた反撃のみを許可する」


Sic-13 クレズマー


人型ロボットに対する忌避観からか、船外作業用EVUにFELを搭載しただけの簡便な機体。

それでも高性能FELのお陰でトラッドよりも非常に優位な性能を持つ、宙域降下の為にプロビデンスInd.の中では唯一地上戦と宇宙戦双方に対応している。

反射鏡を備え付けたTAUを宙域に射出する事で、レーザーを用いた超射程の曲射が可能。

FELの驚異的な防御性能の高さから、まるで周囲に壁があるかのように錯覚する程の迎撃率を誇る。



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