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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
火星への帰路
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第5話

 戦闘が終わり、和やかな雰囲気を取り戻しつつある船内。

 糊の効いた着慣れない制服に袖を通したコウキは軽く腕を回すと組織防衛部へと移籍された。

 コウキが格納庫内に到着すると、大柄の黒人男が手を上げながら近付いてくる。


「よぉコウキ、今日は全くゴキゲンな1日だな!」


「久しぶりだな、ニコ。俺はサイアクの気分さ、この服を新調するのに200ドルも使っちまった」


「使わないからといって、下取りに出すからですよ」


 悪態をつくハルをコウキは肘で横腹を突くが、反作用で自分だけが飛んでいく結果に終わった。

 その様子を見て笑っていたニコがメナエムとイーリアの姿を視界に捉え、隊員達に整列の号令をかける。

 とはいえ専門技能の熟練した組織の為、隊員は5名しかいないのだが。


「傾注!」


「形式は不要だ…皆楽な姿勢で聴いてくれ。本船はこれより火星に向かって航行を始める、イーリア少尉……」


「はい、火星軍所属、イーリア・ソーンツェワ少尉であります。

 本船に搭乗されている皆様には大変御迷惑をお掛けしています」

 

「いいってことよ! 退屈凌ぎにはなったぜ!」


 マイケルが軽口を叩くと、ニコが笑いを堪えながらも脇腹を突き、両者は作用反作用で飛んでいった。

 その構図がツボに入ったのかイーリアは笑いを堪えようと頬を膨らませ顔を紅潮させる。


「まぁ、こんな連中だが悪い奴らじゃない、短い間だが面倒を見させてくれたまえ」


「プフッ! は……はいッ!」


「これがバカウケというやつですね」


「笑いの沸点低すぎだろ……」


 ハルと付き添いのコウキの案内でイーリアは船内を案内して回る。

 途中食堂に並列された売店に立ち寄ると、ハルはフィルムモニターに流れる新製品のTVCMに釘付けになる。


「ここが食堂だ、1日に決まった量しか出さないから、食いっぱぐれないようにね……そういや君はロシアン?」


「え? あ、はい……人種はロシア系です、でも今の私の母国は火星です!」


「んーまぁ、気楽にやんなよ、うちでは粘ついたのとパザパサのしかでない、残念ながらボルシチもない」


「コウキ、早期に購入すべき商品を発見しました」


「火星に着いたらな……」


 コウキはハルの耳朶を引っ張ると、イーリア用の客室へと案内しその前で別れた。

 時間はsol/20:00に達を過ぎていた。表はそもそも暗いままだが、ジェネレーター出力をエンジン供給に回す。

 居住区の明かりは蛍光のみ。コウキは部屋に戻るなり、制服を脱ぎ散らかすとベットの上に横臥し目を閉じた。




 暗黒の宇宙に散発的に光が巻き起こる、弾体の曳航が線を画き対角線上から放たれる光がそれを逸らす。

 お互いの姿は見えず遥か彼方、コスモポリタンは地球軍艦艇からの宙間爆撃を何とか凌いでいた。


TGターゲット・A023・300・233・IC TG・B……」


ICインターセプトできていない№だけでいい!」


「TG・7…TG・9…TG・E…TG・1A…」


「こちらアルファ2、船速を緩めてくれ、相対速度の低下で弾体を押し切れない」


『チャーリー1、アルファ2の提案に賛同します、或いは敵艦への攻撃許可を……』


 ハルが淡々と敵の発射したターゲットを読み上げながら、コウキが堪らず叫び声を上げる。

 敵艦は数万㎞の彼方からコスモポリタンに向けて弾体を投射し続けている。

 敵の弾体の多くはFELによって無力化されているが、幾つかの大型砲弾は逸らしきれないままだ。


『敵弾体の無力効果が現れるまで船速を上げる。交戦許可は出せない、繰り返す……交戦許可は出せない』


「このままじゃ宇宙の藻屑になっちまう、ハル……ツィガーヌのTAUを射出、戦域に展開!」


『こちらブラボー1、アルファ2中央に寄ってくれ、お前のスコアが一番高い』


「アルファ2了解」


 ツィガーヌの両肩に装備されたレーザーユニットの水冷システムが限界が来たのか、赤熱を始める。

 ハルは手早くコンソール上のマクロを動かし、放水システムをオン、液体窒素による急速冷却を行う。


「機体温度が危険水域に達した為、強制排水開始……予備冷却システム稼動」


「これが尽きたら、あとは質量兵装だけか……」


『緊急警告! レーダーに高速の飛来物片を感知! 命中まで00:00:16』


 三次元レーダーに該当飛来物がマークされる。

 コウキが目標をFELで狙いをつけるが、船体の構造物で遮蔽され狙える位置に着けない。

 落着地点に居たマイケルは落着物の相対速度を下げようとインパクトガンを連射。

 続いて、船体が大きく揺れ、足部を固定したガイドポールからコクピット内まで振動が伝わってきた。


「艦長! 落着物は第3ブロックに被弾!」


「第3隔壁を閉鎖……船体角度を調整、第3ブロックを敵艦へ向ける、続いて当該ブロック上のEVCは即時撤収せよ」


「各機に告ぐ、第3ブロック上に展開するEVCは即時撤収せよ!」


 通信を聞いたマイケルとニコは素早く、第3ブロックから撤収すると他の分隊と合流する。


『What's up!』


『こちらブラボー2、一体何を始めるんだ!?』


 その様子を聞いていたリュウが通信に答え、コウキが大声で警告を発した。


『おそらく第3ブロックを隔壁で閉じて敵艦に向けて射出するんだ』


反作用リコイルが来るぞ!」


 船体モジュール切り離し様の雷管に火が入ると、微かな揺れと共に第3ブロックがコスモポリタンの船体から離れていく。

 回転しながら飛来する第3ブロックは宙間爆撃を阻止するだろう。

 そして船体質量も軽減する事で船体は大きく加速度を上げ、コスモポリタンは戦域からようやく離脱することに成功した。


CU-03 ツィガーヌ


宇宙空間での迎撃と大気圏内でのミサイル戦闘を想定された機体、偵察用TAUを戦域に展開する事で位置情報を元にミサイルの中間誘導を行う。

有効射程は火星であれば500㎞の長射程を誇る。ミサイルとスムースボアキャノンの換装も可能。


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