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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
終戦と牢獄
47/65

第47話

 宇宙海賊であるジャゴの活動範囲はアステロイドベルトや火星地域に限られる。

 曳航する資源を狙った襲撃を繰り返す海賊行為に対して火星軍の強硬な対応はよく知られている。

 何故なら彼等はかつての地球軍に雇われていた私掠船であり、火星の兵站線を破壊する為に暗躍する組織であった。


 ジャゴの海賊船内にある格納庫内で一人の男がその顔に憤りを滲ませている。

 格納庫に佇むフレデリックにハシムが接近すると、隊長であるフレデリックに対して報告を開始した。


「隊長、イグナツィオが死にました」


「そうか……これで我等がエッジ隊も、

 残る三人になっちまったな」


 セイヴ・ザ・アースの直掩に着いていたエッジ隊の内、イグナツィオはルクス・エテルナによって飛散するデブリによって致命傷を受けていた。

 唯一宇宙内で残存していた戦力であるジャゴとの合流を果たし補給を受けることは出来た物の孤立状態にある。

 残った隊員であるハシムとマルコスは顔を見合わせ、フレデリックが口を開くのを待つ。


「だが俺達はもう後戻りは出来ない」 


「はい」


 太平洋紛争後に組織されたエッジ隊は軍規に違反した者達だけで構成された懲罰部隊である。

 無謀な行動によって隊を危険に晒した者も居れば、無能な上官に対して命令違反を行ない処罰された者もいた。

 そこに仲間意識がない訳ではない、ジャゴの構成員が近付くとフレデリックは射抜くような視線を向ける。


「フ・フレデリック大尉。出撃準備が整いました」


 火星軍の巡視船に呼応するかのようにジャゴの海賊船からEVCが次々と発進する。

 フレデリックは修理を終えたアンセムに乗り込むと、コンディションモニターがイエローに染まる稼動状況をシャットしながら出撃準備を終えた。


「計器確認、推進剤充填確認、各部稼動許容範囲。

 コールネーム・アンセム――イグニッションファイア」


 ガイドによって宇宙空間に放流されたフレデリックは微かな機体の横転運動を加えながら、目前に迫る火星軍巡視艇に狙いを定める。

 巡視艇から現れたのは6体のゴスペル。予想外の機体数もさることながら火星の新型EVCがレーダー波に映らない事に気付いた。

 宇宙空間に微細金属粒子を噴霧してレーダー波をかく乱させる“ミストシェード”と呼ばれる技術である。


(俺等も所詮ロートルって事かよ……)


 先行して接触した海賊のミンストレル部隊が一瞬にして消滅。

 機体の性能の大半はAIによる自立機動で行なわれる以上、パイロットの腕の差など最早誤差にしか過ぎなかった。

 アンセムは有効射程外からオーブスロアーを射出すると破砕片による弾幕を形成する。


 RS13㎞/sという比較的低速域である為に接近する前に迎撃される恐れがあったからだ。


『射程距離内に到達』


「アンセムに火を入れろ、奴等の喉元に喰らいつけ!」


 迎撃に照射されたFELがデブリに妨害され遮光されると核パルス推進によって大きく弧を画いて突進する3機のアンセムが宇宙を奔る。 

 ゴスペルはアンセムに向かってインパクトアサルトを掃射、異様な加速度によって接近するアンセムはレールガンを投射する。

 レールガン発射の反作用で照準を外されたゴスペルに向かってフレデリックのショットガンが被弾。

 続いて擦れ違い様に放たれたオーブスロアーが巡視船に命中すると正面装甲を弾き飛ばす。




 質量弾の直撃を受けた巡視船の船体が傾いた、装甲内を高圧状態に置く事で船体に侵入した弾体を弾く。

 地球との宇宙戦争で得た教訓から火星軍も大きな技術的フィードバックを受けていた。

 エッジ隊は二次攻撃目標であるラストプリズンへと目標を変えると加速度を上げながら突進する。


 ラストプリズンの防衛に志願したコウキ達は行く手を遮るように宙域に展開していた。

 敵機の接近を確認したサリンジャーからの通信が届くと、作戦を立案したフィロソファーへと通信する。


『こちらダスト1。“アンセム”の接近を確認』


「フィロソファー?」


『こちらフィロソファー。FEL照射を開始して下さい』


 小隕石群を迂回するように接近を続けてきたアンセムに対して、ラストプリズンのFELが照射される。

 そのFELはアンセムを大きく外れ小隕石に遮られると、マルコスはその行動に違和感を感じた。


『一体何処に……ッ!?』


 小惑星の多くは氷隕石、FELの照射された氷隕石が目に見えない水素の壁を作り出すとマルコスのアンセムが接触する。

 この事を予測してラストプリズン内の資源を宙域へと配置していたのだ。


『囚人如きがッ!』


「この声は……?」


『ミンネザングのパイロット!?

 小癪な罠を……ブッ潰す!』


 相手は見たこともないような型落ちの船外作業用EVUに過ぎない。

 フレデリックはインパクトショットガンをEVUに向けて投射すると、コウキの搭乗したEVUは不規則な運動でそれを回避した。

 縦横無尽に回避運動を取るEVUの思ってもみない機動性に翻弄されるフレデリック。


「スラスター未装備で三次元機動だと、バカなッ!?」


『socorro!』


 バランスを崩したマルコムのアンセムにサリンジャーのEVUが放ったインパクトガンの弾体が直撃。

 大きく軌道を外れたアンセムは小隕石に激突すると粉々に砕け散った。

 フレデリックは目前のコウキが操るEVUから幾本ものワイヤーが伸びているのを確認する。


 小惑星に接続したワイヤーを巻き取る事で変則的な三次元機動を実現させていたのだ。

 完全に嵌められた事を悟ったフレデリックは激昂すると、ウェポンベイからコンバットツールを抜きEVUに向かって突進を開始。

 応射するコウキのインパクトガンはあらぬ方向へと飛んでいき、フレデリックはその攻撃を悠々と回避する。


『隊長!』


 フレデリックが周辺の小隕石の軌道に気付いた時には既に遅かった。

 コウキのインパクトガンによって打ち出された弾体はビリヤードキューのように小隕石を打ち出すと、アンセムの軌道を塞いだ。

 “空間認識能力”宙域内に存在する物理運動を完全予測する事で絶対的な空間把握を実現する能力である。


 これこそまさに八重河 隆一が泥沼の太平洋紛争を生き残った資質の一つであった。


「ハシム!?」


 フレデリックのアンセムに横殴りの小隕石が激突する瞬間、ハシムのアンセムが小隕石に向かって体当たりを敢行。

 その軌道を大きく逸らすとラスト・プリズンへと特攻を仕掛ける。


『フレデリック隊長――لنصر لنا!』


 オッツォのEVUから連射されたインパクトマシンガンの攻撃を浴びながらもラスト・プリズンに接触。

 碌な防護手段も取られていなかったラストプリズンは大きな欠損を受けると、収監されていた囚人の一部が宇宙に投げ出された。

 フレデリックのアンセムとコウキのEVUが交差する瞬間、EVUの腕部マニュピレーターがアンセムの機体に大きく食い込む。


「FUUUUUUCK!!」


 コントロールを失ったフレデリックのアンセムは機体を激しく回転させながら宇宙の深遠へと消えていった。

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