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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
メレフ攻略作戦
35/65

第35話

 地中海から吹きつける風が眼下の砂漠に砂塵を起こし、EVC用輸送ヘリに吊り下げられたイクスラのツィガーヌが揺れた。

 現在では地球のほぼ全域が乾燥地となり、地表の67%近くが砂漠化している。

 更には土中に含まれる塩分量の増加により塩性化を起こした白い砂漠は灌漑すら放棄され“空白地”と呼ばれるようになった。


「こんな場所に都市があるのか?」


『逆ですよ。都市のある場所が砂漠になったのです』


 通信越しに聞こえてくる激しい銃声音に加えて巻き起こる爆発音、街からは黒煙が立ち昇っている。

 火星軍所属であるイクスラ達はEVCによる地上戦のデータを集積する為の実験部隊として、各地を転戦していた。

 そこで彼女が得た地球の現状は到底宇宙戦争などしている暇などないという差し迫った現実である。


 耕作農地の減少と米国・EUによる穀物輸出量制限措置は、世界に大混乱を巻き起こした。

 食糧供給を輸入に頼っていた途上国では食糧を求める暴動が相次ぎ、それに対する対応も過激化の一途を辿った。

 イクスラはフィルムスクリーン越しに道路を我が物顔で駆け抜け、暴徒達を処理していく無人装輪車を眺める。


『ランディングゾーンへ到達――お気をつけて』


「アルファ1より各機へ、これより作戦行動を開始する」


『OK、Mom』


 ヘリから切り離されたツィガーヌは空挺装甲車用のパラシュートを開き、降着地点へとゆっくりと降下を始めた。

 ここまでのエスコートは完璧だが、作戦完了時には大型トレーラーによって帰還する手筈となっている。

 地表へと落着した際の衝撃を吸収しきれずコクピット内が激しく揺れ動き、イクスラの体がシートから飛び上がった。


『着陸はエコノミークラスだな』


『慣性制御で軽減可能なのは、一方向へのベクトルのみ。

 重力圏では余りあてにはならない』


「詳しいな伍長」


 イクスラは眼前のモニターに指を置きマクロから歩行を選択すると、目的地へとドラッグすると指を放した。

 電子音と共に目的地が確定すると、ツィガーヌがゆっくりとした足取りで歩行を始める。

 先程から何処からともなく飛んでくる銃弾を弾く音が、機体外に備え付けられた集音機によってコクピット内に聞こえてきた。


「地上は随分と喧しい」


『アルファ2より、ケルベルスへ。

 目標地点に到達、これより作戦行動へ移る』


 1kmほど歩行を行いプログラムに問題がない事を確認すると、次なる試験運用へと移行する。

 指定された防衛ラインへと到着すると、友軍機である無人装輪車がイクスラ達の周囲へと集結した。

 今回の彼女達の任務は地球側の援護、つまりそれは暴動の速やかな鎮圧。


 ツィガーヌの脚部が変形を始めバイポッドの代用として機能させると、頭部が上半身の胸部に格納され身を低く構える。


『早速おいでなすったぜ』


 武装した暴徒を機銃で薙ぎ払っていた無人装輪車が、砲撃によって弾き飛ばされ粉々に砕け散る。

 戦車は砲塔をイクスラ達の搭乗するツィガーヌへと向け、すかさず滑腔砲よりAPFSDS弾を発射した。

 迎撃用のFELが飛来するタングステン弾芯へと照射され弾頭が微かに変形すると、空力に歪みが生じた弾芯が縦回転する。 


 金属に塑性変形を生じさせるには金属装甲に流体化現象を生じさせるだけの圧力を生み出す速度が重要だ。

 空気抵抗によって速度を失った弾芯はツィガーヌの胸部装甲に命中すると、空虚な金属音を立てながら弾き返された。

 尤もツィガーヌの装甲はほぼセラミックであるので、旧式の砲弾でもなければ命中しても割れるだけで済む。


「Вот тебе!」


 コスモポリタン製のEVC用インパクトアサルトを射出する。APFSDS弾やHEAT弾をアサルトライフルのように連射する代物だ。

 集中砲火を受けた戦車は車体全体に無数の穴を空けると、反撃とばかりに主砲から火を噴いた。


「む、余り効いていない」


 この時代の戦車はセラミック複合装甲を持っている為に、弾芯の全長が短いツィガーヌの弾体では効力射に到らなかった。

 再びFELによる迎撃で無力化された弾芯がツィガーヌの装甲に命中すると、弾かれた弾芯がアスファルトへと突き刺さる。

 イクスラは武装をミサイルへと変更すると、敵戦車へ向けて発射。

 ミサイルは山なりの軌道を描いて上部装甲から命中すると、内側から吹き飛ぶように敵戦車を粉砕させた。


 一通りの試験運用を終えた火星軍は敵戦車の砲身を出会い頭に融解させ無力化、市街からの暴徒の排除に成功した。




 引き続き地球では強化外骨格に身を包んだ火星軍の歩兵達がビルに立て籠もる暴徒達を排除する為に戦端を開いた。

 携えている自動小銃はMH-1、液体水素を推進剤に10x24㎜ケースレス弾を発射する強化外骨格専用の自動小銃だ。

 火星軍宇宙海兵隊所属ミュケース軍曹は衛星からの偵察情報を確認すると、極めて小さな小型ドローンを取り出す。


「こちらマルス、UAVの通信情報は届くか?」


『ケルベルスよりマルス1へ。

 通信は良好だ、先行する』


 全長1mにも満たない小型ドローンは、発射プラットフォームから飛び立つとビル内部へと侵入。

 IR映像なども合わせた索敵情報が、フルフェイスヘルメット内のMAP情報にポップアップされる。

 ビル内部に潜伏しているのは小隊規模の約50人のようだ、早速宇宙空間から投射された宙間爆撃が上階を吹き飛ばす。


 しかし兵士の大部分は中階に潜伏していた様子で、20人程度しか排除できなかった。


「流石に対策はするか……マルスよりEVC部隊へ支援要請」


『こちらアルファ3、マルス1への支援砲撃を開始する』


 アルファ3の発射したミサイルが弓なりの軌道を描いて、ビルの窓から内部へと侵入すると潜伏していた階層を吹き飛ばした。

 階下へと慌てて下りて来る暴徒達に対して、小型ドローンがサイトを合わせるとミュケースは手元のスイッチを押す。

 発射炎を撒き散らしながらドローンから5.56mm弾が発射されると、暴徒達が次々と倒れる様子がモニター越しに確認できる。


「……」


 ミュケースは目の前で繰り広げられる一方的な殺戮に思わず言葉を失う、武装した暴徒達は皆一様に若く子供まで参加している。

 ボディアーマーを着た者も居るが、殆どの暴徒は銃を持っているだけの一般市民のようだ。

 これは最早戦闘ですらない、ミュケースの脳裏には処理という言葉が浮かんでは消えていった。


「撃たないで!」


 ミュケースの部隊がビル内部に侵入すると、目の前から1人の少女が階下へと降りてくるのが目に入った。

 ドローンは画像認識機能を持ち、武装して居ない人間に対して攻撃する事は出来ない。

 用心の為にミュケースは被っていたヘルメットのモニターをEMFビジョンへと切り替えると、彼女の体に通電している配線が浮かぶのを捉えた。


「その場から動くな!」


「助けて下さい!」


「動くなというのが分からないのか!

 死にたくなければ両膝を着いて頭の後ろに手を組み。

 ゆっくりと地面に腹を着け!」


 しかし少女はミュケースの言葉を無視して突入部隊へと接近してくる、恐らく自爆攻撃のつもりなのだろう。

 ミュケースは舌打ちをして少女に銃弾を撃ち込むと少女はその場で転倒、背後から機を窺っていた暴徒達が襲いかかった。


「企業の犬共め!」


 男は少女に巻き付けたIEDの起爆スイッチを押し込み、爆弾を起爆する。

 だが爆弾は起爆する事無く歩兵からの集中砲火を浴びると、血飛沫を上げながらその場で崩れ落ちた。


「ミュケース軍曹、これで全員のようです」


「おい、起きろ……死んだふりしても無駄だ」


 ミュケースは倒れ込んだ少女の肩口を軽く蹴ると、彼女は涙でぐしゃぐしゃになった顔を持ち上げて睨みつけた。

 EMFビジョンによって通電していた電波受信機を狙撃する事で、IEDの起爆を無力化していたのだ。

 少女は体を勢い良く持ち上げるとミュケースの脛を蹴り上げ、他の隊員に取り押さえられる。


「やりやがったな、この土人!?」


「うるさい、宇宙人はさっさと宇宙に帰れ!」


「えぇいクソ……何笑ってる! さっさとこのじゃじゃ馬を連行しろ!」


 ミュケースが片足を抑え跳ねているのを部下の隊員達が笑って冷やかすと、少女は後ろ手に縛られ連行されていった。


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