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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
メレフ攻略作戦
31/65

第31話

 地球近傍小惑星の内、火星との間に存在するアポロ群から捕らえられた小惑星の1つ“メレフ”が宇宙空間に浮かび上がる。

 地球や火星からの光学観測を受けない様に常に側面を向けながら、緩やかな公転軌道に合わせている。

 その内部を掘り進むように隠蔽された宇宙港では異貌の集団が整列していた。


「我々の地球は今滅亡に危機に瀕している。

 資源を食い潰さんとする意志薄弱な者達……。

 我々は惰弱なる理想家の手から母なる地球を守る為に勝利しなければならない!」


「ゴッド・セイヴ・ザ・アース!」


 叛乱軍総司令官ウェリントンの演説に高らかな復唱を挙げるのは、剥き出しの機械の体を晒し敬礼を上げるアンドロイド達。

 そして、もう一方には皆一様に似た風貌を持った集団、叛乱軍が予てより育成したクローン兵“ミスパル”。


 それを遠巻きに寄港した火星軍の戦艦フォボスが入港すると、地球・火星の合同叛乱軍が姿を現す。


「まるっきり悪の枢軸みてぇだな」


「再就職先間違えたんじゃないか、オッツォ?」


「金払いが良かったからなぁ。

 ま、劣勢になればさっさとトンズラさせて貰うさ」


 オッツォの言葉に苦笑いを浮かべるウォンは、自分も同じ気持ちで参加している事に軽く同意するとEVCの整備に向かった。

 先程の挟撃戦で無数の弾体を浴びたUNIT‐13はスフィアブロックを残し、ほぼ全壊状態である。

 幸い弾体の全長が短かった為にコクピット内部まで貫通した物はなかったが、オッツォは軽い骨折を負った。


 EVCの補給を受け取ろうと港内で跳躍する兵士達を余所に、不機嫌そうなフレデリックの姿があった。

 彼等エッジ隊も挟撃戦に参加、アキダリアを撃沈した物の肝心のミンネザングを発見する事は出来なかった。


「とんだ無駄骨だぜ、全く……」


「しかし、フレデリック少尉、今度の防衛戦には好機があります」


「成る程、もうメレフの位置を掴まれたか? ハシム」


「えぇ、確かな情報です」


 アラブ人の部下ハシムの言葉に気を良くするフレデリックの目の前で、ミサイルを眺めているクローン兵が見えた。

 フレデリックが横目で確認する他のクローン兵達は理知整然と動いてるのに対して、この男からは異質な印象を受ける。

 その男に近付くと相手も気配に気付いたのか、隈のできた双眸でフレデリックを視界に入れた。


「何やってんだ? クローンさんよ」


「これはなんです?」


「あぁ、それはミサイルだな……」


 ミサイルも知らないのだろうかとフレデリックは含み笑いをすると、男は思っても見ない言葉を口走った。


「宇宙空間でミサイルは役に立たないのでは?」


「……へぇ、何故そう思うんだい」


「宇宙空間は真空ですから、尾翼で進行方向を調整できない。

 宇宙空間で並進移動するには、物質の投射による反作用を利用するしかありません。

 結果的にミサイルその物が推進剤によって、このように無駄に大型化します」


 男は宇宙空間でミサイルが有用でない理由を分析してのけると、フレデリックは驚嘆した表情を浮かべた。

 クローン兵等与えられた命令をこなすだけの、アンドロイドの劣化版に過ぎないと考えていたからである。

 フレデリックが男に詰め寄ろうと足を向けた時、横合いから別のクローン兵が声をかけた。


「フィロソファー、サボるなよ?」


「別にサボってた訳じゃないよ、チェス。ちょっとした思考実験で……」


「思考実験なら手を動かしながらでも出来るだろう、すいませんね兵隊さん」


「ん? あぁ……」


 フレデリックは背中を押されていくフィロソファーの姿を眺めながら、退屈する事はなさそうだと口角を上げた。




 コスモポリタンは月の重力を振り切るように月面を滑走すると、火星軍からの依頼を受けて小惑星メレフへ向かって帆を上げた。

 本作戦に参加を表明したのは大方の予定通り、コウキ・ニコ・イーリア、そしてリュウの4名である。

 11m/sという緩やかな加速で旋回すると火星軍の艦艇と合流、短い航海に乗り出した。


 中央船室では、コスモポリタンのクルーに変わって、火星・地球における合同軍の仕官達が配置に付く。

 ハルも中央船室の制御に借り出され慣れない船体の操舵に対して、逐次補正を加えサポートを行っている。


『ケルベルスよりコスモポリタンへ、御協力に感謝する。

 只今より小惑星メレフに対する侵攻を開始する』


「了承した。船速をケルベルスに合わせ、直ちに巡航体勢に入る」


 メナエムの号令に合わせ、メインエンジンが火星艦船の巡航速度である約RS・30km/sにまで船速を引き上げる。

 目標の小惑星は地球と火星間を公転している小惑星帯に存在、2500万kmほど離れた場所に位置する。

 予定船速を合わせれば、凡そ10日間程度で到着する運びになるだろう。


「EVC現場監督者へ通信を繋いでくれ」


「格納庫へ通信します……通信開きます」


『こちらEVC現場監督者リュウです。

 お呼びですかメナエム艦長?』


「私は本作戦の内容に関して詰めの作業に入る。

 君には悪いが、ブリーフィングを頼む……それと」


 メナエムが言葉を切るのに通信機の向こう側に居たリュウは、聞き逃さぬように真剣な面持ちで待機する。


「戦域に到達後、本船の指揮権を君に一時移譲する。通信終了」


『……メ、メナエム艦長!? それは流石に……』


 通信機越しに反論するリュウであったがメナエムは一方的に通信を切断、メナエムは満足顔で椅子に体を固定する。

 その様子を逐次眺めていたハルは悪い物を見たような顔で、眉をひそめるのだった。


 通信を一方的に切られた格納庫にてリュウは心底参った様子で、眼鏡のつるを指で押し上げるとその場を振り向いた。

 火星・地球・コスモポリタンの2軍1社合同の作戦となった本作戦には多数の兵士が参列している。


「それでは今より本作戦のブリーフィングを行う。

 ……その前に自己紹介かな? 私の名前はリュウ」


「コスモポリタンコーポレイトガード、コウキ」


 ミンネザングのおまけが短い自己紹介を終えると、兵士らしい屈強な地球軍の白人男性が怪訝そうな顔を向けた。

 艦艇の最大撃破数4隻という、ミンネザングに並ぶ成績を持つマーチングのパイロットだ。


「地球軍宇宙海兵隊所属、サリンジャー二等兵だ。宜しく頼む」


「同所属、メリンダ二等兵よ。

 彼は御覧の通りの堅物だけど、勘弁してあげてね」


「地球軍航空宇宙隊所属、タケル少尉です」


 女性がサリンジャーの横に並び堅苦しい敬礼をすると、イーリアが反応して敬礼を交わす。

 もう一方の男は若い日本人の少年のようだ、コウキは久しぶりに日本人を見た気がして思わず視線を向ける。

 彼はコウキの視線に気付いたのか、爽やかな笑顔で返した。


「コスモポリタンコーポレイトガード、ニコ。

 海兵隊なら俺も従軍経験あるぜ、ヨロシクな」


「コスモポリタンコーポレイトガード、イーリアよ」


「オイオイ火星軍の所属じゃなかったか?」


「私は過去には拘らない女なの」


 そういうなりイーリアはウィンクを一つ。無論それは対面に居るメリンダ二等兵に対してだが、勘違いしたタケルが笑顔を返す。


「火星軍特殊作戦軍所属……ステラ」


「火星軍航空宇宙隊所属デンドロン。

 この娘はまぁ、こんな感じだが腕は確かだよ」


 コールネーム・アルファはニコ・イーリア・デンドロン。コールネーム・ブラボーはコウキ・ステラの2機編成。

 コールネーム・デルタはタケル・サリンジャー・メリンダ。エコーはメナエムのみの単騎編成となる。


「よろしくね、ステラちゃん」


 タケルが言葉をかけステラに挨拶するが、彼女はぼそぼそと返事をするのみで興味なさげに溜息を吐いた。


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