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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
燃え広がる戦火
30/65

第30話

 カザフスタン共和国チュラタムに存在するバイコヌール宇宙基地では、宇宙に向けての発射準備が行われていた。

 叛乱軍に対して核融合反応に利用する分離濃縮したトリチウムを供給する為である。

 宇宙ロケットがカウントダウンと共に猛炎を上げながら、今まさに離陸しようと船体を上げた瞬間。


 何処からともなく飛来したミサイル攻撃によって、ロケットは粉砕され青い空には噴煙が広がった。


『ケルベルスより各機へ、衛星より命中弾を確認』


「随分と間抜けな話だな、囮ではないのか?」


 山林に潜むように展開していたのはコスモポリタンから提供されたツィガーヌの3機。

 イクスラは火傷を負った負傷部位を人工皮膚で補い戦線に復帰すると、トリチウム強奪犯に対する作戦に参加した。

 目の前のフィルムスクリーンには艦艇からのリアルタイム観測によって蠢く敵の戦車などが移動するのが見える。

 機体をロックしてトリガーを引くと、肩部ミサイルランチャーが発射され敵戦車へと踊りかかる。


 その距離300㎞、戦車の砲弾ではどうにもならない位置からツィガーヌの一方的なミサイル攻撃が続く。


『ケルベルスよりアルファ1へ。

 地上部隊から援護要請あり、経緯度座標を送信する』


「アルファ1了解」


 イクスラは衛星からの映像を確認するとトリガーを引いた、ミサイルランチャーから投射されたミサイルが空域に到着。

 地上から叛乱軍の放った迎撃ミサイルをツィガーヌのミサイルが回避すると、光学観測によって目標を識別する。

 例え相手がステルス機であってもミサイルのカメラから映像認証を行い、自動追尾する誘導弾からは逃れられない。

 この場に配備されていた戦車の多くは、不幸にもFELによる迎撃能力を備えていなかったが故に鴨撃ち状態となっていた。


 衛星によるミサイルの中間誘導を回避するには、イクスラ達の様に山林に身を隠すか都市部に身を隠す戦法が有効だ。

 しかし戦車は森の中を直進するようには出来ていない。

 遮蔽物の得られない叛乱軍の戦車は都市部の店舗内に強引に車体を隠蔽、戦車壕代わりに潜伏する手段を選んだ。

 だが、そうして隠れている姿も捉えられている為に、宙間爆撃によってビルごと粉砕されると戦車の搭乗員は瓦礫へと埋まった。


「地上でのEVC戦闘、一時はどうなる事かと思ったが案外運用出来る物だな」


『トリガーを引くだけの簡単なお仕事。

 地上部隊に転属届を出したいぐらいだ』


『呑気するなよアルファ2、お客さんのお出ましだ』


 偵察に放ったTAUのサーマルビジョンが眼下の森の中を進行する歩兵部隊の姿を捉えた。

 膝射状態のツィガーヌは椀部の30㎜機関砲を構えると、数km先に居た歩兵部隊に対して機関砲を乱射する。

 森の木々を薙ぎ倒しながら銃弾が飛び交うと、歩兵達は鉄のカーテンに薙ぎ払われ砕け散った。


「簡単なお仕事でも、残業は多いようだ」


 イクスラのツィガーヌは軍用ヘリから飛来したロケット弾をFELで迎撃、1MwのFELは6mの鋼板を1秒で貫通する威力を持つ。

 更には宇宙空間とは違い伝導・対流放熱が利用できる地上では利用時間が飛躍的に向上。

 FELの直撃を浴びたヘリはまるで飴の様に機体が曲がると燃料に引火、爆轟を上げながら地上に墜落した。


「こちらアルファ1、FELの射程が伸びない」


『大気で拡散してしまうそうだ。

 まぁ、レーザー対策もされてない機体を落とす程度なら充分な光量さ』


 イクスラのツィガーヌはミサイルを撃ち尽くした肩部モジュールをアンカーで地面に降ろすと予備モジュールを装着。

 地球に夜が訪れても森から燃え上がる発火炎が静まる事はなかった。




 ケルベルスの中央船室ではダンドネルが地球上で行われている戦闘を眺めている。

 当然ダンドネル自身もこれが陽動である可能性を見越して、平行して地球から打ち上げられる商用ロケットの検問も開いた。

 想定通り一部企業の商船は武装しており、EVCが接近するなり攻撃を加えられたが無力化に成功していた。


「第3分隊より報告、積荷の中から高濃縮トリチウムを発見。

 引き続き同船籍の拿捕に向かうとの事」


「積荷の行き先は把握できたか?」


「船内のデータからサルベージを行っていますが、まだ……」


 ダンドネルは顎を擦り熟考する、未だ謎となっているのは叛乱軍が補給を行っていると目される本拠地である。

 恐らくは小隕石を改造した物であるだろうとの当たりはつけていたが、未だにそれらしい小惑星は発見されていない。

 位置を秘匿しておきたいのか叛乱軍の襲撃は鳴りを潜め、不気味な沈黙を保っていた。


「奴等の戦術から学ばせて貰うか……。

 第3分隊に報告、拿捕の方法についての提案がある」


 報告を受けた第3分隊は直ちに準備に取り掛かり、僅かな準備時間を以って作戦は実行に移された。

 該当船籍に向かいEMPザッパーを打ち込むと一時的に電子機器の使用を妨害する。

 続いて強化外骨格を着込んだ歩兵が分隊の揚陸艇から宇宙へと飛び立つと、相対速度を合わせゆっくりと接近していく。


「偶に仕事が来たかと思えばこれだよ」


『愚痴るには早いぞデンドロン、お次は侵入だ』


 火星軍特殊作戦軍所属デンドロンは問題なく商船の外壁に取り付くと、物資搬入口のシャッターに器具を圧着させる。

 それは丁度底の空いた壷のように内部が中空になっており、上部の蓋が開く構造になっていた。

 壷の内部でプラズマディスクを取り出し外壁に設置、スイッチを入れるとディスクが回転、外壁が円状に刳り貫かれる。


 同時に船内の空気が壺に向けて逆流、気圧が調整されるとデンドロンは船内に侵入する。


「ファージウィルスになった気分だな」


『ミクロの決死圏か? 其処はスパイ大作戦だろ?』


 デンドロンは通信手のジョークを聞き流しながら、腰に取り付けた麻酔銃を取り出すと操縦室へと向かった。

 電子機器が止まってしまったのを受け、未だに混乱している船員に不意打ちの麻酔銃を放つ。

 船員達を大人しくさせたデンドロンは、EMPザッパーの効果が切れOSがリブートを始めるのを待った。


 やがてOSが再起動を始めると、デンドロンはハッキングツールを操作して敵本拠地のものと思しき航行データを入手する。


「INSの入力座標を入手した」


『慣性誘導か? 道理で網を張っても見つからない訳だ。

 ……OKこちらでも確認出来た』


「船員達はどうする?」


『予定進路と到着日時さえ分かれば絞込みは楽なもんさ。

 適当にワイヤーで縛り上げておいてくれ』


「同情するよ、全く」


 デンドロンはどうとでも取れる発言をしながらも密輸船の拿捕に成功、火星軍は有力な情報を得る事となった。


ECT-M ステルスミサイルランチャー


レーザー迎撃システムの発展によって陳腐化したミサイルのステルス性能を高める事で大規模目標物への攻撃が多少有利になった。

しかし光学観測では簡単に捕らえられてしまう為に被迎撃確率は相変わらず高い。

コスモポリタン製のミサイルは高価なステルス機能を廃して、敵機の迎撃位置を本体から送信する事でミサイルに回避運動を取らせる方式を採用している。

宇宙空間では推進剤を多量に搭載する必要があるので大型化しており有効性の疑問視に拍車がかかっている。


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