第28話
全方位から投射され続ける弾体がオーロラの船体を揺らし続けている。
現時点での損傷率は相当な物になるだろう、比較的質量の小さい弾体を無視して大きい弾体を優先している。
その為に何度も直撃弾を受けており、艦載FELの使用も限界に達しようとしていた。
EVCの稼働率は12機中9機。よく耐えていると言うべきなのか、スフィアブロックのみで漂っているのかは区別が付かない。
「ダンドネル中将は? ケルベルスは無事か!?」
「旗艦ケルベルス未だ健在です」
「アキダリア巡洋艦轟沈!」
大凡RS・27km/sの速度域にあるが、地球軍残党と叛乱軍は異なる相対速度で攻め立て火星軍を蹂躙している。
御丁寧に地球軍と叛乱軍は示し合わせたように、お互いを狙わずに火星軍のみを狙い撃ちにしていた。
余りにも露骨なやり口にヴィオラは内心腸を煮えくり返らせると、応戦中のコスモポリタンへと身を寄せる。
(悔しいが我々の力ではこの戦況――如何様にもならない。
ならば彼等の力を最大限発揮できるよう、我々がここで盾になる!)
「コスモポリタン防衛圏内に入りました」
「コスモポリタンの死角をカバーせよ!
EVC部隊、再度出撃急げ!」
オーロラの格納庫に満身創痍の状態で待機していた、3機のEVCに対して修理が続けられていた。
EVCはベースとなるスフィアブロックに、椀部や脚部といったモジュールを接続する方式を採用している。
そうすることで整備性を向上させ、損傷部位はスペアパーツと交換する事で迅速な修理を可能とするのだ。
格納庫内を整備員達が慌しく走る中でパイロットの1人であるデンドロンが声を張り上げる。
「ステラはどうした!? 整備主任!」
「まだ一度も見ていません!」
暗黒の帳を引き裂くように曳光弾が飛来する中、セクエンツィアに乗り込む少女はその幻想的な光景に見惚れていた。
その時、前方から弾体が無数に投射されると彼女は意識を集中させる。
フットレバーを小気味よく踏み込み推進剤を噴射すると、天井から下りて来るトリガーに指をかけた。
「……邪魔」
セクエンツィアは緩慢な動きでインパクトライフルを発射すると、本命と思われたオーブスロアーを弾き返す。
機体を制御しながら弾体の雨を潜り抜けると、前方からビクトリアの艦影を光学観測でも捉えた。
ビクトリア艦長のオルレアンはEVCの危険性を十全に把握しており、EVCを迎撃に向かわせる。
直掩機として格納庫から這い出てきたミンストレル部隊はセクエンツィアの姿を捉えると隊長のジョシュア中尉が声を挙げた。
「無人機のオードを捨石に一点突破を狙う。
間断なく攻め立てれば何処かで折れる筈だ!」
『了解しました!』
「私が先頭へ行く、皆の者は後に続け!」
セクエンツィアはこちらへと直進してくるオードを交わす素振りすら見せずに、背部からコンバットツールを取り出す。
ステラはインパクトライフルを構え先頭のオードに弾体を投射すると、ジョシュアは笑みを零した。
「かかったな! 総員一斉射撃!」
後方に待機していた隊員達がオードの後方から、弾体を投射し押し返す。
突如加速したオードがステラのセクエンツィアに迫るとオードが自爆、至近距離で破片を浴びたステラは一溜まりもない。
『Dance with me?』
筈であった――その時セクエンツィアの蝸牛状の推進機が初めて閃光を放つと、その機体が急加速を始めた。
人間が乗っているとは思えない急制動の動きに、ジョシュアはセクエンツィアをAI機だと誤認した。
それは当たらずとも遠からず、ステラは火星軍により身体改造を受けているサイボーグの1体。
一定時間のみ血液中の脳酸素分圧の低下を予備供給源から圧力を調整して直接供給できるのだ。
とは言え心臓病治療のペースメーカー機能に比べれば、サイボーグと呼称するのもおこがましい程度の改造である。
「Merde!」
円錐上に発生するオードの破砕片を斜上に加速する事で悠々と回避したセクエンツィアは、コンバットツールを振るった。
剣がミンストレルに触れた瞬間の急制動と共にコクピットが変形、鉄の圧力によってジョシュアは押し潰される。
セクエンツィアの推進機が断続的に使用される度に、セクエンツィアが縦横無尽に駆け回る。
予備のコンバットツールを次々に持ち替え、インパクトライフルの精密射撃も交えるとビクトリアからミサイルが発射された。
EVC部隊が持たないと判断したのだろう、その射線には友軍まで含まれている。
ステラはその行動に若干不快感を覚えると、ビクトリアへと突撃した。
「……無様」
その時、彼女の視界に宇宙で羽ばたく青い鳥を捉えた。
その鳥は白い体で2枚の蒼い翼を大きく羽ばたかせ、ビクトリアの投射した弾体を横薙ぎに溶断。
漆黒の宇宙に大きく弧を描きながら、ビクトリアに光を放つとビクトリアは斜めに横転した後その動きを止めた。
ステラは眼前の光景に口を微かに開き、茫然自失で佇むとコクピットに通信が入る。
『こちらコスモポリタンコーポレイトガード。
手柄を横取りしたようで済まない』
「鳥さん?」
『はい?』
意味不明なやり取りにステラがふと我に変えると、真顔のまま顔を耳まで紅潮させた。
交差の終了した艦隊が後方から次々と接近してくるのを捉えると、ステラは母艦との相対速度を合わせる。
宇宙戦闘での相対戦は一度交差した後に反転攻勢を掛けるには、一度相対速度を0に戻して反転を掛ける必要がある。
ヴィオラは地球軍と叛乱軍が反転攻勢を仕掛けない事を見極めると、宙域の死傷者の回収を始めた。
撃墜された友軍も慣性に乗っている為に回収その物は難しくはない。
「作業進捗知らせ」
「全体の4割といった所です」
「ケルベルスより通信が入りました。秘匿回線」
現在は火星軍の旗艦となっているダンドネルのケルベルス戦艦から通信が入った。
今後の予想進路についての話し合いを行う為だろう、火星軍の主力は満身創痍だが火星からの補給も期待は出来ない。
叛乱軍の地上部隊は簡単に鎮圧できた物の、半ば海賊と化した少数の航空宇宙軍については対策がなかった。
『諸君等の奮闘によって撃退に成功することが出来た。
だが新たな問題が発生した』
「ダンドネル中将、お言葉ですが対応するには戦力が……」
『わかっている……不本意ではあるが、コスモポリタンの助力を仰ごうと思う。
彼等にとっても無視せざる問題ではない筈だ』
フィルムスクリーンに機密と思しき情報が表示されていく、ヴィオラ艦長は読み進めていく内に憤怒の色を露にする。
「奴等はまだ諦めてはいなかったのか!」
情報は核廃棄物保管施設から大量のトリチウムが盗難され、シャトルで打ち上げられるとの地球軍からの報告書であった。
P-0 セクエンツィア
ヴィルトゥオーソがニューロ・アクセラレーター試験用として開発した実験機、長距離攻撃用のインパクトライフルと近距離用のコンバットツール“ノツァ”を装備。
ノツァは背部に突き出す形で大量に取り付けられており、巡航時には放熱フィンとしても利用する事が出来る。
その特徴は蝸牛型の核パルス式推進装置で、アンセムを凌ぐ加速力を持っているが、特殊な措置を受けた者でなければ利用できない。
搭乗者は意識を集中させる事で脳にある情報伝達速度をナノマシンの中継を通して加速する事が可能である。




