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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
月面への逃避行
20/65

第20話

 地球軍の所属艦グロリアスの中央船室に次々と前線からの凶報が舞い込んで来た。

 地球軍の主力であった第一陣は壊滅、火星に先行していた特務艦からの連絡が途絶え、地球からの増援延期の知らせ。

 第二艦隊を預かるマコーニック少将は、その凶報を聞くや否や連日自室に閉じ篭もっている。


 フレデリック少尉は薄ら笑いを浮かべ、格納庫のコンテナに腰を下ろしながら愛機を見上げていた。

 インディペンデンスは轟沈したがフレデリックの愛機はほぼ無傷の状態で転進、友軍との合流を果たした。

 機体にペイントされた撃墜数を示す、星の数も幾つか増えた様子だった。


「機嫌が良さそうですね、フレデリック少尉」


「アドルフ……少将様の御機嫌はまだ治らねぇのか?」


「通信を開きっぱなしで地球圏にコールしている所ですよ。

 どうやらホームシックに罹られたようで……」


 両者は堪らず噴き出すと、アドルフと呼ばれた白人の男はフレデリックに携帯食を投げ渡す。

 フレデリックはゆっくりと飛来する携帯食を片手で受け取ると、開封して齧りつき呟くように口を開いた。


「まぁ、地球軍の負けだな……」


「何故です? 何でも火星人は人型ロボットを増産してるそうですよ?

 重力が低い火星なら兎も角、地球では木偶の坊に過ぎないんじゃあ?」


「地球の御偉方もそう思ってるんだろうよ、だからこそ“負ける”んだ」


 フレデリックは頭を切り替え、先程ようやく届き始めた特務艦との通信履歴に着目した。

 そこに記されていた多数のTAUによる襲撃報告が、彼の古い記憶を呼び覚ます。

 太平洋を中心に行われた大規模紛争、その際に消息不明となった機体であるツィゴイネルワイゼンの特徴に類似している。


 当時のEVCは宇宙と成層圏の間を飛行する、超音速戦闘機の試作機という立ち位置にあった。

 アンセムの機体が飛行機の形状にマニュピレーターの生えた歪な形状をしているのもそういった経緯がある。

 最終的にUSG Ind.のトラッドシリーズが高い安定性と費用対効果を見せ、各国では少数を配備されるに留っている。


 その当時撃墜を確認されたパテティックの他に、所在不明となった試作EVCが幾つか存在した。


(メナエム・リヴカ……民間企業を立ち上げたとは聞いていたが……)


「何やら面白い情報でも?」


 前方に投射したフィルムスクリーンを見ていたフレデリックにアドルフが声をかける。


「あぁ、デカイ星を視たんだ。

 ビクトリアは月方面へ向かう予定だったな?」


「は、はぁ」


(今度こそ決着をつけようぜ、コスモポリタン……ミンネザング!)


 白く輝く星の下に並んだ黒星が、フレデリックの気分を苛立たせる。

 常勝無敗だと慢心していたフレデリックの搭乗するアンセムを幾度となく撃ち落とし、辛酸を舐めさせられた存在。

 その存在がこの宇宙のどこかにいると知った青年は憎悪と執念に顔を歪ませた。




 駆逐艦オーロラの会議室の中央に複数のスクリーンが投影されていた。

 他の艦の将校や火星軍本部からの通信が繋がれている、尤も火星とは1億㎞近く離れているので録音通信のみ。

 艦長のヴィオラはこの臨時招集に自らが加わっている事に、違和感を覚えながらも緊張の面持ちで待機した。


 スクリーンにユートピア艦長のダンドネルを始めとして、キンメリア、エリタニアといった他の艦の艦長も顔を揃えた。

 会議室に静寂が包むと、中央のスクリーンに火星軍総司令部の総司令官レベリオの姿が映し出される。


『火星軍総司令部、総司令レベリオだ。

 この度はこのような形で諸君等との会合を設けられた事を光栄に思う。

 知っての通り我が軍は……』


 秘匿通信回線によってもたらされた総司令官の言葉、一語一句を聞き逃さぬよう耳を傾ける。

 しかし続いてレベリオから放たれた言葉はその場に集まる者からすれば想定外の物であった。


『――惰弱』


 ヴィオラは思わず席を立ちそうになった、何かの聞き間違いだろうかと他のスクリーンの艦長達も困惑の表情を浮かべる。

 レベリオは完勝した火星軍に向けて激励の言葉ではなく、次なる言葉をかける。


『先の会戦では私の浅慮軽薄さ故に多くの命を失った。

 だが、その犠牲と引き換えに勝利を齎す鍵も、同時に手に入れる事が出来た』


 フィルムスクリーンにEVCの機体が投影される、その場に居る者達は知らぬ最新鋭機UNIT-13。

 その手に持っていたのは対艦用モーメンタルランチャー。

 火星軍はコスモポリタンの避難民に潜り込ませたスパイからも、コスモポリタンの技術を入手していた。


(進言が功を奏した? いえ……これは前々から予定されていた計画に違いない。

 公にせず秘匿していた……何の為に?)


 思わずヴィオラのみならず、スクリーンの艦長達から驚嘆の声が上がった。

 あれだけEVCの増員を渋っていた司令部が、昨日今日という段階で新型の情報を公に表す。

 それは以前から水面下でEVCの開発を秘密裏に続けていた事を示唆していたのだ。


『本日より火星の現存するファクトリーを総動員して、高速戦闘艦への改修を開始した』


(高速戦闘艦!?)


『それに合わせて新型EVC UNIT-13の生産ライン及び、EVCパイロットの大幅増員を行う。

 近日中には君達の心強い味方となってくれる事だろう』


 地球軍は緒戦の大敗で反撃の手は緩い、軌道エレベーターが存在しない為に兵員の補充には時間を要するのだ。

 月方面へ駐留していた部隊を呼び戻すにしても、宙域に展開する火星軍総力を持ってすれば押し止めるのは容易い。

 優位な戦況での戦力の増強、それは地球へのより直接的な反抗作戦を意味していた。


『我が軍はこれより地球への総攻撃を開始する。

 作戦名はオペレーション・ダビデ。

 この作戦の仔細については追って報告する、引き続き貴官等の奮闘を祈る』


 通信の録音再生が終了すると、会議室のスクリーンから矢継ぎ早に声が上がった。

 この場に居合わせた者達の声は精神の高揚を隠し切れないのか、若干上擦っているようにも聞こえる。


『我々にとってはちょっとしたサプライズだったな、ヴィオラ艦長?』


「はい」


 ヴィオラの心中は無為な消耗戦による兵員の死傷を避けられた事で、終始穏やかな物となった。


ECT-M 30′モーメンタルランチャー


進行方向ベクトルに対して、直線上に射出する事で、相対速度の慣性による塑性変形を以って装甲を貫通するランチャー。

30′・9.14400 メートル 7500lb

60′・18.28800 メートル 15000lb

120′・36.57600 メートル 30000lb

個人携帯火器では120フィートを限界とするが、艦載用では1200フィートに達する物もある。

見た目にはただの槍にしか見えないが、タングステンで構成された弾芯がユゴニオ弾性限界を超えて目標に侵徹。

ジュール換算では核兵器に匹敵する破壊力を保持しており、ECT-Xを除くEVCの保有する兵装の中では最も威力が高い。

この兵器が示すように貫通力はほぼ弾体の全長に比例する事から、核兵器の影響を受けない地下シェルターすらも容易に破壊可能とする。


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