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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
第一次宇宙戦争
14/65

第14話

「インディペンデンス沈黙!」


 火星軍所属の駆逐艦オーロラの艦橋で安堵の息が漏れる。

 艦艇を前面に出し餌にすることで、正面から迎撃に向かった地球軍の戦力を誘き寄せ。

 多方面に展開させたEVC部隊をあらゆる角度から同時攻撃、磨り潰す“ケルベルスの顎”と名付けられた新戦術。


「気を緩めるな! 全周警戒!」


 黒髪を靡かせて紅玉のような双眸を向ける女艦長が指示を飛ばす。

 レーダー観測手が高速で接近する機影を捉えると、光学観測を用いて識別を行う。


「進行方向正面よりEVC! 識別結果……該当なし!」


「FEL照射! 開始1秒!」


 道中の火星軍EVUを振り切りながらアンセムがオーロラへと突進する。

 オーロラから照射されたレーザーがアンセムの機体を捕らえると、機体の装甲が捲れ上がり剥がれていく。

 剥離塗膜は機体の装甲を積層構造にすることで、反射しきれない伝導熱を遮る技術だ。


「照射止め! 射手は即時迎撃せよ!」


 FELは厚さ数mの鉄板を打ち抜くほどの強力な兵器ではあるが、宇宙空間では冷却が出来ない。

 解決法には熱を液体などに移し排出する、砲塔その物を使い捨てにする等がある。

 オーロラの艦載FELはアンセムの剥離塗膜を剥ぐ事には成功したが、内側の鏡面装甲は抜くことが出来なかった。


「Bブロック格納庫ハッチ開け! 回頭! 左旋回!」


 乗員は女艦長の指示に若干困惑の顔色を浮かべるが、その意図に気付き直ちに応答した。

 アンセムの機体がヨーイングする方向を、光学観測によって読んでいた女艦長は逆方向へと船体を向け。

 そこにがら空きとなった側面に向かって、アンセムはすれ違い様にTAUを放つ。


 次の瞬間、フレデリックの目に無数のコンテナが、アンセムに向かって来る光景が飛び込んできた。

 オーロラの急速転回によって宇宙に放り出されたコンテナに射線を遮られ、TAUが次々と誤爆する。

 アンセムは自機のコントロールを停止させると機体を回転させ、迫り来るコンテナの隙間を器用に潜り抜けた。


「やはり質量攻撃を狙っていたか……被害状況」


「敵の攻撃による損害は軽微」


 女艦長は胸を撫で下ろすと前面のモニターに移る三次元レーダーから、遠ざかるアンセム機の姿を見送った。


「まさか地球軍があのようなEVCを所有していたとは。観測手、戦域の状況は掴めたか?」


「……そ、それが」


 周囲の艦艇と連絡を遮断していたのは僅か数分に過ぎない。

 新たに更新された情報には先程まで存在していた筈の艦艇の戦列に大きな穴が穿たれていた。


 女艦長は両手を強く握り締めると足元が不意に抜けるような錯覚と恐怖に襲われた。




 霧に包まれた歓楽街の一角に似つかわしくない高級車が駐車している。

 店内では未成年の少女達があられもない半裸の姿で、腰を振りしだき来客の目を楽しませている。

 自分の孫ほどの年齢の少女達を侍らせながら、ベンはマリファナに火をつけニヤニヤと笑みを浮かべた。


「元帥、緒戦の戦況報告に上がりました。地球軍は甚大な被害を受け壊走」


「おぉ、そうかそうか!」


 ベンは自軍が敗北したのにも拘らず陽気な声を挙げた。

 火星軍のアレス Ind.も彼らの資本の傘下にある、そのうえ火星軍の上層部は既に地球軍のトップが掌握していた。

 全ては彼らの手の平の上で踊っているに過ぎなかったのだ。


「それで、被害の程は?」


「こちらの被害は第三陣まで及び損耗率は67%に昇ります」


「あぁ、なんと言ったかな? 円盤のアレは?」


 ベンは自分の孫が経営するBCAN Ind.で開発されたオードの戦果を尋ねる。

 付き人は多くは語らず一言「余り芳しくなかったようです」とだけ答えた。


 孫のわがままを聞いて配備したオードであったが、戦果が芳しくないことを聞くと不愉快そうにベンは顔を顰める。

 機嫌を悪くしたベンのご機嫌を取るように少女達が男の腰に跨った。

 若者の多くは戦地に赴き、少女達にとって残った老人達のご機嫌を取ることが生き残る為の出世術だった。


「おぉ!……まぁいい車を出せ」


 ベンは店の外へ出ると屋外に駐車した自動運転車の影から浮浪者の男が近寄ってくるのを横目に見た。

 その時警備にあたっていたUSG製の暴徒鎮圧用無人機が反応すると無数の銃弾を撃ち込んだ。


「チッ……汚らしいゴキブリめ! 早く片付けろ!!」


 人工知能の発達により、少数の富裕層が多数の貧困層を無人機で監視する社会となった。

 自動化された生産管理体制ににおいては人間の労働者は不要なのだ。

 職を失った労働者が街には溢れ、連日のように暴動を起こすようになると対応も過激化の一途を辿った。

 職員が血に塗れた浮浪者の遺体を車から引き剥がすと、そのまま側溝に打ち捨てる。


「次の攻勢を早めなければならんなぁ」


 ベンは少女達と共に高級車に乗り込むと顎を擦った。

 最早地球の資本家達には労働者に職を与えるつもりなど毛頭なかったのだ。

 そのためには合法的に大量の人間を処分できる環境が必要だったのである。


 不要な人間を処分できて尚且つ金まで儲かる。彼らにとって戦争は最高のビジネスだった。 


X-137 アンセム


西側の技術を結集して作られた強襲型EVC、核パルス推進による驚異的な加速力を誇るが戦闘機に近い機体設計の為かほぼ直進しか出来ない。

合計12機の広範囲爆散型TAUと誘導型TAUのコンビネーションにより無類の強さを誇る。遠・近距離ともに高い戦闘能力を発揮する。

強力なレールガンを装備しているが、相対速度のある宇宙空間では弾速や反作用に問題があるので余り使用しない。

散弾を打ち出すインパクトショットガンやオーブスロアー等の破砕片を撒き散らす装備が好んで利用される為に同型機のみでの運用を基本とする。


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