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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
第一次宇宙戦争
13/65

第13話

 暗黒の宇宙空間に太陽の光を浴びて、地球軍の主力宇宙戦闘機オードの戦列が浮かび上がる。

 ゆっくりと回転しながら太陽から受ける熱を輻射冷却によって逃がす。

 コクピット内に佇むマクラクレンは僅かに感じる遠心力に揺られながら、悲痛な面持ちを浮かべた。


「まるで棺桶で火葬場に放り込まれた気分だ」


 オードの円盤のような流線型のデザインは出来の悪い子供の玩具のようにしか見えず。

 現物を見たパイロットの多くが顔を顰めたのをマクラクレンは今でも覚えていた。


『詩人だなマクラクレン』


「現実逃避の一つもしたくなるさ」


 通信の向こう側できさくに笑い飛ばす同僚に眉を上げながらも、マクラクレンは釣られて笑みを零した。

 人類初の宇宙戦闘……月の宇宙基地で何度か演習が行われた事は何度かあった。

 だが、多くの軍人達にとって無重力の宇宙戦闘は未体験の領域である。


『インディペンデンスより各機へ、座標016・113・217より敵影を感知。

 直ちに迎撃態勢に入れ』


 オードの戦列は母艦から離れ、先行してステルスミサイルを浴びせる役割を担っている。

 等速直線運動を行う宇宙では、離れた距離から襲い掛かる誘導兵器には無力だろうと勘案した結果。

 ミサイルキャリアとしての宇宙戦闘機を開発、飽和攻撃によって火星軍を圧倒しようと考えたのだ。


「なんにせよこいつでお役御免だ」


 マクラクレンは射撃管制がグリーンになったことを目視で確認すると、操縦桿のトリガーを力強く押し込んだ。

 足元から何かが切り離される音が鳴り響くと、ミサイルは推進剤の撒き散らしながら宇宙空間を疾走する。

 当然宇宙空間には大気が無い為にミサイルの尾翼では方向転換が出来ないのでロケットに近い。


「……なんだ?」


 オードのレーダーが不可思議な反応を示したのをマクラクレンが気付いた。

 レーダーの光点に側面から尋常ならざる速度で、異常接近する物体を発見したのだ。


 シェル型の頭部に空いた眼孔の火が宇宙空間に灯り、UNIT‐11の機体がインパクトガンを構え。

 母艦の慣性を加算してRS・43㎞/sまで加速している、UNIT‐11の銃器から弾体が発射される。

 一瞬にしてオードの戦列にはおびただしい質量の雨が浴びせかけられた。


『マクラクレ―――』


「エイブ……? おのれッ!」


 オードは正面の被弾面積は少ないが、上下から見れば射的の的にしか見えないほど被弾面積が広い。

 しかも推進剤を内蔵している為に被弾すれば推進機の混合気から発火する危険がある。


 反復練習によって体に染み付いた訓練の成果。

 機体を敵の方角へ向けようとフライホイールのオートモメンタルを利用するが、低速な為に間に合わないと判断。

 マクラクレンは咄嗟にモーメントに推進剤を噴射することで、機体を敵へ向け被弾面積を小さく取った。


「エイブ! 聞こえないのか!」


 マクラクレンがトリガーを引くと内蔵火器の一つである内蔵式20㎜機関砲が火を噴く。

 推進剤に酸素を混入している為に宇宙で実体弾を発砲する事に問題はない。

 しかし弾体発射によって生まれた反作用によって機体が流れ、発射した弾丸はあらぬ方角へと流れていく。


「インディペンデンス……応答せよ! こちらOB中隊! 応答せよ!」


 一瞬にして接近してきたUNIT‐11から離れるよう、マクラクレンは咄嗟に回避運動を取る。

 更に後方から接近する第二陣を目視すると覚悟を決め体当たりを敢行した。


「火星人めッ!」


 両機体が接触した瞬間、オードの機体は飴のように割け。

 UNIT‐11の機体は花弁を散らすように散華した。


 突如発生したデブリ群を避けきれず、第二陣の一部が巻き込まれる。

 宇宙にはなおも静寂だけが佇んでいた。




 地球軍火星強襲部隊所属艦インディペンデンスの格納庫に、一人の青年が佇んでいる。

 視線の先には戦闘機風のボディに不釣合いな四肢をつけた、不恰好なEVC“X-137 アンセム”が聳え立つ。


「まだ整備は終わらないのか?」


「フレデリック少尉、もう暫く……」


 フレデリックと呼ばれた青年は整備主任を苛立つように腕で押し退けると、コクピットへと跳躍した。


「つまんねぇ企業派閥を戦争に持ち込みやがって……」


 格納庫内の様子が慌しくなると機内のシグナルがグリーンに変遷する。

 アンセムのレーダーによる明滅を確認、先行したオードの戦列が消滅していることにフレデリックが舌打ちする。


 『先行したOB部隊より通信が途絶えた。直ちに救出へ向かえ』


 「計器確認、推進剤充填確認、各部稼動異常なし。

  コールネーム・アンセム――イグニッショングリーン」


 インディペンデンスの減圧された滑走路からアンセムが射出される。

 核パルス推進装置が稼動すると小刻みに加速しながら宇宙空間に光条の帯を引き。


 機内では10Gにも及ぶ加速度の反動でフレデリックが顔を歪ませた。


「……98m/sで加速中……3・2・1――推進装置停止」


『こちらインディペンデンス、OB部隊の全滅を確認。

 アンセムはただちに火星軍の母艦へと迎撃に向かえ』


 BCAN Ind.によって量産されたオードとは異なる設計思想を持つ旧型試作機であったアンセム。

 戦闘機型と人型。地球軍は最終的に戦闘機型であるオードを量産ラインに乗せた。


 機体に突然の不調を来たし整備が長引いた事に不審を抱いていたフレデリック。

 ここに来て単独による突撃命令を受け思わず笑みを零した。


「上下から動体反応確認」


 フレデリックが呟くと両椀のマニュピレーターをそれぞれ敵機の方角へと向けた。

 戦闘機型にはない人型のアドバンテージ、それは複数のマニュピレーターを用いて射角を保持できる事にある。

 更には発射した弾体の反作用を肘の関節によって緩衝する事で、機体のバランスを平行に保持する。


「you're rubbish!」


 アンセムの眼孔が輝くと手に持ったショットガンから、幾つもの弾体が円錐状に発射された。

 UNIT-11のFELが弾体の迎撃に向かうが捌き切れず、装甲に幾つもの小さい穴を穿つ。

 しかし相対速度がついてるとはいえ質量の小さい弾体では大きな破壊痕を与える事は出来ない。

 UNIT-11は慣性を吸収する為に咄嗟に破損した部位を切り離すとアンセムに反撃を浴びせる。


「……火星人も所詮この程度か……」


 アンセムが切り離したTAUがバランスを崩したUNIT-11のコクピットに突き刺さる。

 フレデリックは核パルス推進を再稼動させ追撃を逃れると、残り9基のTAUを宙域に展開した。


X-139 オード


BCANの開発する地球軍の主力宇宙戦闘機。当然の事ながら空気のない宇宙空間で主翼をつけても意味がない為若干円盤よりの造形をしている。

宇宙空間では推進剤の総量と推進力が比例するが、EVC脚部のような推進剤の充填空間が存在しない為に非常に低速。

マニュピレーターがないので上部と下部が完全な死角になる重大な欠陥がある。

ステルスミサイルランチャーを装備。緒戦で大規模に投入される物の二方面からの同時攻撃により火星軍のEVCに惨敗する。


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