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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
第一次宇宙戦争
12/65

第12話

 火星の衛星軌道上を巡回中の戦艦オリンポス。

 当艦が火星の衛星軌道上に接近する不審な機影を捉えたのはsol/13:08のことだった。

 船員は直ちに艦船の指揮に当たっていた。コールウェル少将のもとに通達を入れる。


「コールウェル少将、衛星軌道上に不審な存在を確認しました」


「地球軍機か?」


「探査反応では高密度の氷隕石のようです」


 歴史にIF(もし)は存在しないという。

 もし、この場に居合わせたのが他の艦艇であったなら。

 もし、コーンウェル少将が第一陣に参列できなかった不満を職務怠慢という形で表出させなければ。

 そしてもし、地球軍にいくばくかの理性が残されていれば、このような悲劇は……避けられたのかもしれない。


「……放っておけ」


「はい、観測班、引き続き警戒に当たれ」


  オリンポスの脇を素通りする氷隕石がUNIT-7に搭乗した船外作業中の船員達の視界にも入る。

 作業員の一人が見つめていた氷隕石から溢れるような光を男は捉えた。


「あっ……光った」


 ……火星の地表に建てられた居住区にある住宅、一人の男が急に映らなくなったTVのチャンネルを弄る。

 外では子供達が空を見上げながら、なにごとかを騒ぎ立てている。

 男はリモコンを投げ捨てると、子供達に向かって声を上げる。


「二人とも、近所迷惑だろう? 何を騒いでるんだ!?」


「あっパパ、みてみて流れ星がいっぱい!」


「流れ星?」


 空から光の帯を引いて流れ星が落ちてくる。

 そしてそれは眩い輝きを放ちながらはじけた。衝撃波が地平線の向こうから波のように押し寄せてくる。

 男は見た。地表に建てられた家屋がまるで引っくり返した玩具箱のように吹き飛んでいくのを。


 sol/13:34、地球軍による火星に向けた無差別攻撃を開始。


 使用された兵器は第二級秘匿兵器ハイドロゲンブレット。

 高い相対速度を得た弾体が核融合のD-T反応に必要とする温度・圧力条件を満たす事により。

 純粋水爆としての機能を得た核兵器である。


 高々度で炸裂した水爆の衝撃は音速で地表に到達。

 地表建造物を薙ぎ倒し人々を殺戮の渦へと巻き込んだ。


 攻撃の最中行われた宣戦布告を火星のレーザー受信機が捉えた記録が残されている。


 諸君らの選出した代表者は宗主国たる地球に背き、叛意を翻した。

 我々、母なる地球に対して愚かにも絶滅戦争を仕掛けた。


 ここに我々は太陽系の惑星に対する所有の宣言。

 及び不正居住者たる火星に対し宣戦を布告する。


 我々は勝利する。 我々は勝利する。 我々は勝利する。

 地球万歳(ゴッド・セイヴ・ザ・アース)


 全てが塵と化した火星軍統合司令部から、悪魔の恐悦が鳴り響いた。 




 全身を引き裂かれるような痛みを覚えながら、コウキは立ち上がった。

 ふと目をあげると、割れたウィンドウガラスで全身を突き刺された店員の遺体が転がっている。


(……なんだよ、なんだってんだよ)


 コウキは体の感覚を確かめながら、足を踏み出す。

 核攻撃の余波によってコウキは吹き飛ばされ、背後にある壁に打ちつけられていた。

 背中に手を回すと、どろりと黒く濁った血が流れ出している。

 打ちつけられた拍子に壁に備え付けられていた何かが背中に突き刺さったようだ。


「ハル―――ッ!?」


 コウキは力の限り叫ぶ。やがて店舗の奥で地面に座り込むハルの姿を視界に捉える。

 店内に飛び込み横転しているレールカーから備え付けのメディキットを取り出すとスプレーを取り出した。


「ハル、俺の背中が負傷したみたいだ。フロスで塞いでくれ」


「……」


「ハル! おい、大丈夫か!?」


「強力な電磁波により、機能の幾つかが停止していますが、問題はありません」


 ハルは床に投げ出され倒れ込んでいる少女を前から離れようとしない。

 コウキはハルの元まで近付くとスプレーを手に取らせ背中の裂傷に対して噴射させる。

 傷に取り付いた泡が血小板や蛋白質の合成を助け、ただちにコウキの傷口を塞いだ。


「その子の傷はどうだ?

 見たところかなり出血をしているみたいだが?」


「臓器に達するまでの裂傷、出血性ショックの疑いがあります」 


「消毒の後にフロスで止血してくれ、確か輸液もあった筈だ」


「リンゲル液か等張アルブミン製剤はありますか?」


「生理食塩水しかねぇな。とりあえず近場の生存者を救助しながら病院へ向かう」


 道路に備え付けられたレールが破損しているので、レールカーでの移動は不可能となっている。

 コウキは横転していた自動車を押し戻すと、頭から血を流している所有者を助手席に押し退け病院へと車を走らせた。

 幸運にも爆心地からは程遠かったゆえに生存者の姿がいくつか見られた。


「死体だらけだ。shit!」


「コウキ、助手席の男性の呼吸停止を確認。

 AEDの使用許可を……」


「よく見ろハル、頚椎が折れてる。もう助からない」


「……」


 ハルはコウキの言葉を聞くとせわしなく目を泳がせながら、車の外に目を移した。

 浅い呼吸を繰り返す少女がハルの掌を握ると、ハルもそれに答えるように優しく握り返す。

 やがて病院の手前まで辿り着くと、少女を抱え病院内へと足を運んだ。


「急患です!」


「す、すまない、ここには医者はいないんだ」


「お宅は白衣を着てるじゃないか?」


「僕は研修医で医者じゃ……」


「コウキ、喉頭が痙攣して窒息すると危険ですから気道確保を、それとリンゲル液の輸液をお願いします」


 研修医はハルに促されて、少女の治療を開始した。

 コウキは近場にある医療用ロボットの幾つかをリブートさせると治療権限を与える。

 次々と病院に運び込まれてくる負傷者の治療の対応に追われる中。ニコとマイケルの姿も見えた。


「二人とも無事だったか、マイケル手が足りないんだ。

 悪いが手伝ってくれないか?」


「コウキ、今はソッとしておけ。代わりにオレがやろう」


「……わかった。

 ニコ、こっちの患者の脚を待ってくれ、ストレッチャーに移すぞ」


 爆心地に遠かった事が幸いしたのか、次々と怪我人が運ばれてくる。

 ロボット達は医療用ロボットから医療知識のデータコピーを行うと、増え続ける患者達の対応に参加した。


ECT-X ハイドロゲンブレット


第二級秘匿兵器

充分な相対速度を満たしていた場合に使用される純粋水爆兵器。

宇宙空間で得た高い相対速度によってD-T反応に必要な圧力と温度条件を満たす事で、核融合爆発を引き起こす事が出来る。

その上コストは非常に安く済む為に容易に連射可能である。

EVUの有効性をこの弾頭により完全に確立、宇宙艦艇や大型砲台の存在を過去の物に変えた。

様々な戦略も練られたが、人類が持つには強力すぎる兵器であった為に廃案となった。


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