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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
第一次宇宙戦争
10/65

第10話

 森を抜け視界が開ける。ファルークは先ほどから震える腕を叩き動悸を抑えるように額の汗を拭った。

 クレズマーの歩調が崩れると不意にムミートからの通信が入り慌てて返答する。


『ファルーク……整地路に入ったぞ、アプリケーションの設定をもう一度確認しろ』


「は…はい!? 申し訳ありません、直ちに……」


『弁解は後にしろ、戦場では一刻の判断の遅れが死を招く、そう緊張してはEVCの性能は引き出せん

 リラックスしてシミュレーターの通りにやるんだ』


 ファルークは一度深呼吸すると、フィルムスクリーンに表示されるデータに目を通していく。

 すると、クレズマーの前方から飛来してくる戦闘機の姿をレーダーで捉えた。


「前方より戦闘機を確認、距離107㎞!」


『こちらでも確認した、中々良い目をした機体だな。だがあれは火星軍機だ…慌てて撃墜するなよ』


「前方よりもう一機! 飛来してきます!」


 火星の重力は小惑星の衝突により若干変化したものの地球よりも4分の1の重力しかなく。

 EVCは低重力下をバニーホップと呼ばれるテクニックによって滑空移動する。

 ツィガーヌはテロリストの眼前に姿を晒すと、非武装を証明する為、その場で歩きながら一回転した。


「ブラボー1がクレズマーとの接触に成功」


「こちらアルファ2、ドローンが目標との接触に成功した…誰が説得する?」


『アルファ1よりアルファ2へ、同乗者でイイんじゃないか? パイロットが女なら警戒心も薄くなる。

 生憎お嬢様はゴキゲン斜めで今回は不参加のようだしな』


「こちらアルファ2……了解した」


 コウキがハンドサインで指示すると、ハルが後方のツィガーヌから上空のTAUを経由。

 敵機と接触した遠隔操作機に向かって近距離レーザー通信を行う。


 ムミートはそこで僅かに入るノイズの音を聞き逃さなかった。


『こちらコスモポリタンのコーポレイトガード、これより先は只今当社の実験区域です。

 ただちに周辺地区からの離脱、若しくは……』


「ムミート、指示をお願いします」


『ブラフだ……相手にするな。おそらくは遠隔操作だが、万が一という事もある。

 攻撃せずに素通りするんだ、銃を構えても焦るなよ。

 奴等はこちらから手を出さない限り手が出せない』


 ツィガーヌを無視してクレズマーとトラッドは市街地に向けて進行すると、ハルの通信を遮りコウキが対応に出た。


『コスモポリタンのコーポレイトガードのコウキだ。そう慌てなさんなって』


「? 何を言ってる……お前たちに関わり合ってる暇など……っ!? 何だOSが?」


『馬鹿な? EMPだと!? ドローンではないのか? ファルーク急いで森の中へ戻れ!』


『慌てた所でもう遅い……もうお宅らの機体はまともには動けない筈だ、大人しく機体から……』


 その瞬間、クレズマーの機体内ではロックオンアラートが流れ、ファルークは思わず放心する。

 ムミートがついには裏切られた事を察知し素早く機体操作をマニュアルに変更する。

 続いて戦闘機から発射したミサイルをインパクトガンによって迎撃した。


「な! 一体何が起こった!? 誰が撃った!」


「火星軍の戦闘機より発射された模様です、周辺から更なる増援を確認」


「FELの射程外から曲射で仕掛ける気かッ! だがクレズマーには……」


 クレズマーに飛来するミサイルが最接近するとまるで見えない壁があるかの如く、空中でミサイルが爆散する。

 FELレーザーによる迎撃から素早く反撃する為、クレズマーはTAUを前方中空へと射出した。


「やってくれたなっ! こいつっ!!」


 クレズマーが地上から発射したレーザーがTAUに向かって伸びていくと反射鏡によって水平に変わる。

 目に見えない熱量が戦闘機に搭乗したパイロットを襲った。

 戦闘機は一瞬で火を噴き機体を捻じ曲げながら墜落、間一髪で脱出したパイロットが落下傘で降下した。


「やりやがったッ! ハルッ! 攻撃目標TAUッ!」


「OSへのハッキングを停止、BD-DATALINK起動、射角誤差修正…トリガー」


「間に合えよッ!」


 後方で待機していたツィガーヌから発射されたミサイルが、クレズマーのTAUに接近していく。

 ファルークが迎撃ミサイルの存在に気付くと、射角を変更しミサイルに向ける。

 それに対応する如く、ミサイルの軌跡がレーザーを避ける様に進路を変更する。


「なんだっ! 奴にはレーザーが見えているのか?」


『こちらムミート! 落ち着けファルーク、作戦は失敗だ! このままクレズマーのFELで迎撃を……』


 そこまで言葉を紡ぎかけてムミートは息を飲んだ。

 彼らをこの場で切り捨てるつもりならば、むざむざミサイルの迎撃に有利なクレズマーを与える筈もない。


『ムミートより全機に通達、直ちに散開せよっ!』


「こ、こちらファルーク、FELを使えばミサイルは凌げますっ!」


『ファルーク……すまない、お前はすぐに機体を放棄して逃げるんだ、急げっ!』


 ファルークはすぐにはムミートの発言意図に気付かなかった。

 FELの状況を伝える数値がエラーを示した瞬間、全てを理解した。




 目前まで迫るミサイルがクレズマーのコクピットに命中しようとしたその時。

 間一髪の所でツィガーヌから発射され軌道を変えたミサイルが、TAUから攻撃目標を変更しミサイルを迎撃した。


「TG・4 IC……本当に宜しかったんですか?」


「Enemy Contact! 現在火星軍機がテロリスト機と交戦中!」


『アルファ1より各機へ、別行動中の戦車部隊を発見……だがヒドイ有様だ。

 当分ハンバーガーは食えそうにないな』


『アルファ3よりアルファ2へ、撤退しようぜ、面倒事に巻き込まれちまう』


 コウキはマイケルの提案を無視すると、クレズマーのパイロットに向かって大声で呼びかける。

 クレズマーは集中攻撃を受け、次々と発射されるミサイルをインパクトガンで迎撃しているが長くは持たない。


「聞こえるか…クレズマーのパイロット。集中攻撃を受けているぞ、今すぐ投降するんだ!」


『投降したからって攻撃を止めてくれるのかよ、こいつらは!? 無茶を言うなッ!』


「わかった、なら目の前のEVCに攻撃を加えろ。

 その機体は遠隔操作だ、遠慮は要らない! いいなッ!」


 コウキはハルに指示すると、後方のツィガーヌは13㎞離れた位置からインパクトライフルを構える。

 ファルークのクレズマーが眼前のEVCに突進しドローンのツィガーヌを殴り倒すと、射撃管制がグリーンに変遷した。


「EXACTOシステム稼動、BD-DATALINK開始、弾道計測……トリガー」


「bull's eye!」


 コウキがトリガーを引くとツィガーヌのインパクトライフルから特殊弾頭が発射される。

 弾頭は形状を変えながら迂回するように上空で進路を変え、森林の上空を通過後下降するとクレズマーの胸部に次々と着弾。

 クレズマーはその場で崩れ落ちるように倒れ、その機能を停止した。


(……騙されてくれよ)


 火星軍の機体が上空を離れ、逃亡したトラッドへの追撃に移行。

 コウキはハルに指示して、ドローンのツィガーヌをクレズマーに横付けする。

 コクピット内からファルークが這い出し、ドローンのコクピットに乗り込むと、力尽きたのかそのまま気絶した。


「全く……手のかかる連中だな」


「ところでコウキ…話は変わりますが、以前宇宙で提案した至急購入すべき商品に関する案件ですが……」


「はぁ、わかってるよ。俺が買える額なら何でも買ってやる」


「!?」


 機体内で全身を使い喜びを表現するハルを尻目にコウキは深い溜息を吐きモニターに写る禿鷲の姿を目で追った。


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