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あの日見た君

 

 朝陽とともに帰ってきた父は休む事なく出張へ出た。なんという強行軍。美弥子は新幹線の中で休むといいよとアイマスクを渡していたが、果たしてそういう問題だろうか。


 出勤ついでに駅まで明良を送るという昌也と買い出しに行くという美弥子が出て行ったあと、七海と勇人はソファで寛ぎ、朝陽は戸棚を漁っていた。奥底に美弥子が隠していた菓子の数々を発見して、躊躇う事なく袋を開封してゆくのを恐々と見ていた。


 後々、火種とならなければいいがと内心冷や汗ものだ。


「勇人くんって七海と同じガッコ?」


 勇人が家に居候する事になってから今日まであった出来事の説明を七海にさせ、口の中に食べ物を詰め込みながら朝陽が問う。二人は同時に首を振った。


「そうよね、んなわけないわよね。じゃあ何でおじさんは七海のこと知ってたんだろ。そんな目立つ子じゃないのに」


 多少言い方が気に食わなかったがその通りだ。嫌でも人の視線を一身に受ける朝陽とは違う。他校にまでその名と顔が知れ渡っているなどありえない。


 まして勇人自身ではなく父親など、接点の持ちようがないというのに。

 これは七海も最初から抱いていた疑問だ。答えを求め勇人を見た。視線を受け言い難そうに躊躇いながら言葉を捜した。


「……見たから」

「誰が、何を」


 一瞬で説明下手と知れる言い方だった。間髪入れずに隣にいる七海から横槍を入れられ、それに眉を寄せながら背凭れに倒れこんだ勇人は、目を閉じてその時のことを思い起こした。


「この目も変なもんが視える性質で。でも触れないんだ」


 自分の手を持ち上げて虚ろに見詰める。


「当たった場所の皮膚が爛れて肉が覗く。尋常じゃない痛みに悶絶する」


 七海は無意識のうちに近くにあったクッションを握り締めていた。榊に見せられた両手の惨状を思い出した。経験した事の無いそれに、けれど苦く歪められた勇人の表情から痛みが伝わってきそうで。


「いつだったか、学校の帰り道で車に轢かれた犬がいた。本体はもう片付けられて綺麗に無くなってるのに、抜け落ちた魂だけが轢かれた姿のまんま蹲ってた。誰にも視えないから皆素通りだし、可哀想だけどどうしようもないって無視しようとした。けどお前がいきなり犬の前にしゃがみ込んで「もう痛くないから大丈夫」って何度も頭を撫でてた。触れてる事にも驚いたけど、そうやって言い聞かせてるうちに犬が無傷の姿に変わって消えていった」


 きっとあれは魂が昇華されたって事なんだろう。初めて見る光景に驚き、興奮気味に家に帰ってその話をした。あとはそこから榊が調べ上げて七海を見つけ出したに違いない。

 語り終えた勇人に、ぱちぱちと二度ほど拍手が送られた。


「やるわね勇人くん。大打撃よ」


 朝陽がにやにやと厭らしい笑いを浮かべながら七海を指す。

 七海は足をソファの上で折りたたんで身体を縮こませ、目はきつく瞑っているし耳を手で塞いで、外界からの情報の一切を遮断していた。


「七海?」

「それ一年以上前の話じゃない。こんな時間差で羞恥心に駆られる事になるなんて誰が予想するよ!」


 耳を塞いだまま勇人を見た七海の顔は見事に真っ赤だ。


「勇人が同類だったからまだしも、他の人からしたら私様子のおかしい人以外何でもないし! パントマイマー? エア犬撫で!? うーわぁ…気をつけよ。これからは気をつけよ」

「やだわー、あんた気付いてないだけでご近所の人に後ろ指差されてんじゃない? 『ヒソヒソあの子だわ、藤岡さんとこの。道端で急に演技始めちゃうんですって』『え、なぁに大丈夫なのその子』とか」

「やーめーてー言わないでー!」


 七海の場合は羞恥に苛まれて悶絶した。朝陽はそんな妹を指差して笑い転げる。一頻り笑ってから身体を落ち着けるように息を吐き出した。


「はーぁ、でさーあと一つ疑問なんだけど。なんで七海が狐に襲われたの? 昔苛めて恨まれてたとか?」

「そんなわけないでしょ。狐なんてこの辺いないじゃない」

「そうよね、私としては苛められてる狐を助けてお礼に財宝の山をここ掘れコンコンして欲しいわね」

「なんか色々混ざってるし返事としておかしいよ! 何コンコンって」


 意図せず大きな声を出してしまい、言いようのない気恥ずかしさが生まれた。誤魔化すように咳払いをする。


「それにしたって。七海って昔からすぐ厄介事連れてくるわよねぇ」


 絶対に朝陽にだけは言われたくなかった。彼女の場合は自分で厄介事を作って帰ってくるのだけど。そして七海はそれに巻き込まれているだけなのだ。まるで七海が厄介事の芽だと言わんばかりなのは心外だ。

 


短いですが、きりがいいのでここまでで

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