第八話 ごめんなさい
「おいマリナ! 包囲って――」
「また連絡する!」
……魔力通信が、切れちゃった。
唖然とした顔を見合わせる、俺とリコとロニ。
おいおい、一体どういうことだ?
国王軍とは、休戦したよな?
とにかく、来るなと言われたが、魔王城へ行くしかない。
「リコ! 魔王城へ行くぞ! ロニはとりあえず、ここで待っててくれ!」
「はっ、はいっ!」
「了解ですニャ!」
急いで家の外へと出る、俺とリコ。
すると、上空から降りてくる、レッドドラゴンの姿が見えた。
まさかとは思ったが、やっぱり……。
「イズ!?」
「おはよう、アサノ」
「こんな時に、何しにきやがった!」
「はぁ? ロード城に出勤する前に、挨拶に来てやったんじゃない」
……んっ? ロード城に出勤?
イズは今の状況を、知らないのか?
これは、なんか裏がありそうなパターンだな。
とりあえず、説明してみるか。
「ええっ!? 魔王城を包囲なんて、聞いてないわよ!」
やっぱり、イズは知らないみたいだな。
俺の経験上、勇者ってのは正義感が強いはず。
俺の予想するパターンだと、イズには向かないパターンだろう。
「おい、書状はちゃんと、ロード王に見せたのか?」
「大臣に渡したから、見てるはずだけど……」
「……あのハゲチャピンめ」
なんとなく、読めました。
たぶんこれ、大臣が悪役パターンですわ。
こうなりゃ、本格的に急がないとな。
「イズ、俺は今から魔王城へ行く」
「わっ、私も行くわ!」
「急ぐぞ」
変身したリコの背中に乗り、イズと共に魔王城へと出発する。
まったく、やってくれるぜ、あのハゲチャピン。
魔王城に近づくと、上空に百匹ほどのドラゴンが飛んでいるのが見えた。
間違いない、どう見てもあれが、魔王城を包囲している国王軍だな。
とりあえずイズと共に、国王軍の先頭らへんに近づいてみる。
いたいた、ハゲチャピン。
あっ、エースのコロナさんもいるな。
「どうもー、ドラゴン・ピザでーす」
「……あいつは!」
「おおっ、あの時のピザ屋じゃないか」
「また、休戦を伝えにきたのか?」
俺を睨みつけるコロナさんと、ざわつく他の兵士たち。
てか今、また休戦って言ったよな?
やっぱり、休戦したことになってないな。
「勇者ムーラナーカよ、お主、魔族の者と何をしている?」
「大臣、お言葉ですが、あの書状をロード王に見せたのですか?」
「……書状? ああ、これのことか」
あれは、マリナが書いてくれた休戦の書状。
ハゲチャピンが、その書状を破って捨てやがった。
はい、悪役かくてーい。
「見せる必要はない。今日ここで、魔王城は落城するのだから」
「はい、ちゅうもーく」
手を叩いて注目してくれとか、実際初めてしてみたわ。
でもこいつらに、ちゃんと伝えなきゃだめだろこれ。
「……アサノ?」
「なぁイズ、今の見たろ? おかしいだろこんなの」
「……お前は黙っていろ」
「なんでだよ? おかしいだろ?」
……あぁ、俺が異世界から来たのを知ってるからか?
あれか、のけ者ってやつですかい?
まったく、そんな問題じゃねーだろ。
「……ピザ屋の者よ、兵士ではないのなら、今すぐ去るがよい」
「……うーん、そういうわけにはいかないのよ、大臣さん。この城、俺の仕事場だし」
「なら、我々の戦勝祝いに、ピザを届けてくれてもいいぞ?」
「いや、ピザは届けません。今日は、あんたらに……」
「んっ?」
「恐怖を届けてやるよ」
ほいっと。
「うわあああああああ!!」
「なんだ!? 今の突風は!?」
「たっ、体制を整えろ!」
ビビってるビビってる。
必殺、魔力を高めた時に出せる、怒りの突風。
リコ、ちょいと本気出すぜ。
「いつ見ても馬鹿げた魔力……! 大臣! ここはこの、コロナ・スパークリングにお任せください!」
「うっ、うむ! 頼んだぞ!」
「エール! ビート! シーマ! ディープ! フォーメーションZだ!」
「はっ!」
前より二人ほど、増えてますね。
まぁ、関係ないですけどねっと!
「なっ!? うわあああああああ!!」
「エール!」
はい、火球がドラゴンの翼にめいちゅー。
心配しなくても、人は傷つけないからねっと!
「またですかあああああああ!!」
「ビート! くそっ、シーマ! ディープ! フォーメーションXだ!」
「はっ!」
連携攻撃なんて、させませんよ。
ほいっ、ほいっ。
「ぎゃあああああああ!!」
「シーマ! ディープ! おのれえええええええ!!」
すみませんねコロナさん、今日の俺、機嫌悪いんすよ。
「こうなれば、奥義――」
「ほい」
またまた、めいちゅー。
結局、奥義の名前聞けなかったね。
「くそおおおおおおお!!」
「さいならー」
さて、残り九十五対ほどですかね。
「……なっ、何者なんだあの男は!? ムーラナーカ! そやつを倒さぬか!」
「……興が乗りません、大臣。魔族は、休戦を呼びかけています!」
「……くっ、者共! あの男を倒せ!」
「うおおおおおおお!!」
うーん、さすがに多いな。
しょうがない、俺も奥義を出すか。
「イズ、頼みがある」
「なっ、何だ? こんな時に」
「俺に、ごめんなさいって言ってくれ」
「……はぁ?」
「いいから、早く」
「……ごめんなさい」
きたあああああああ!!
「アッ、アサノさん!?」
「おいアサノ、魔力が上がっ……きゃっ!」
リコ、驚かしてごめんね。
きました、勇者でさえ吹き飛ばす俺の魔力。
仲村いずみに振られた時、思い出しましたわあああああああ!!
「なっ、なんだあの、見たこともないとてつもない魔力は!? ……えっ?」
「こんにちは、名もなき兵士さん」
「はっ、はやっ――うわあああああああ!!」
うほっ、これはやばいな。
速いってレベルじゃねーぞ。
もう、瞬間移動してるレベルだわ。
「ぎゃあああああああ!!」
「のわあああああああ!!」
俺は次々と、兵士を落としていった。
五十……六十…これで、七十!
楽勝だぜ!
「アッ、アサノさん!」
「どうしたリコ? 速すぎて怖いか?」
「違います! まっ、魔力を、使いすぎです!」
「えっ?」
あれっ? リコの言葉を聞いたとたん、なんかフラフラしてきたぞ。
あっ、これ、やばい……。
倒れちゃ……う。
「アサノさん! 起きてください!」
「やべ……リコ、力がはいんね……」
くそっ、なんか風邪をひいて、高熱出した時みたいに体がだるいぞ。
これが魔力を、使いすぎたってやつか?
「アサノ!」
「フハハハハハハハ!! 馬鹿め! ど素人が!」
イズの声と、うざい大臣の声が聞こえるな。
うーん……動けん。
「さすがに焦ったわ! ムーラナーカ! 今だ! そやつを倒せ!」
「……大臣! もうアサノは、無抵抗です!」
「関係ないわ! そやつを倒せば、今回の行為、見逃してやろう!」
「……私にはできません。私は、この男を守ります!」
「ムッ、ムーラナーカ!?」
……マジか。
イズ、さすがにあんたでも、残り三十相手は、きついんじゃないか……?
「待て」
……んっ? この声は。
「こっ、黒竜!?」
「あれは……まさか……!」
残った国王軍の兵士さんたち、説明ありがと。
来ちゃったのか。
「魔王! マリナ・ラー!」
すまんね、マリナ。
勝手に来ちゃって。
「アサノ、リコ、よく頑張った。後はわらわに任せよ」
「魔王様!」
「まっ……魔王!」
「久しぶりだな、勇者よ。アサノを守ってくれたこと、例を言うぞ」
「……フン」
やばい、意識が朦朧とする……。
リコ……マリナ……イズ……。
「者共! かかれえええええええ!!」
「うおおおおおおお!!」
「勇者よ、まさかお主と共に戦う日がくるとはな」
「……こっちの台詞よ」
マリナとイズの、名シーンっぽい会話を聞いて、俺の意識は途切れた。