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第七話 ほっとけ!

 

 それから数日後の朝、俺はロニに起こされた。


「ご主人さまあああああああ!!」


 なんだよ、うるせーなぁ。

 まだ出勤時間じゃねーだろうが。

 しかも、なんでそんなに驚いてるんだ?

 んっ? リコも玄関で、驚いた顔して固まってるな。

 なんだなんだ?


 ……赤い……竜?


「探したわよ、アサノ」


 はっ、はうあ!?

 勇者、イズ・ムーラナーカじゃねーか!


「イッ、イズさん、どうしてここに?」

「休戦中なんだから、私が魔族領に来ても問題ないでしょ?」

「そうですけど……よくここが分かりましたね」

「その辺の魔族に聞いたわ。ピザの人って言えば、一発だったわよ」

「……はぁ」


 さすがピザ。

 俺より有名じゃねーか。


「綺麗なところね、ここに住んでるんだ」

「俺の家じゃ、ないですけどね」

「……あの飛竜族の家か」

「はい、居候させてもらってます」

「ふーん」


 で、なんなんすかこの雰囲気。

 休戦中とはいえ、朝っぱらから国王軍の勇者が、魔族の家の前に佇む。

 リコとロニは、家の影に隠れてるし。


「……あのー、何か用でも?」

「……そうね」

「まさか、ピザが食べたいとか?」

「違うわよ!」


 じゃあ、なんなんだよ!

 まだ七時、こちとら九時頃まで寝てたいんだよ!

 んっ? あれ? なんかこの人、剣を構えだしたぞ。


「……アサノ」

「はい?」

「私と、勝負しなさい!」


 はぁ!?

 いきなり何言ってるの、この人!?


「いやいやいやいや!」

「敗北にも似たあの感覚……あんなの生まれて初めてよ!」

「俺は魔族の兵士じゃないから! ただのピザ屋ですから! てか、今は休戦中でしょ!?」

「じゃあ勝負じゃなくて、試合しなさい!」

「いやいやいやいや!」


 めんどくさいな、この人。

 そんなに振り切られたのが、気に食わなかったのか。


「あの日から、よく眠れた日はない!」

「だから俺は兵士じゃないから、剣も使えないし……」

「嘘をつけ! それならあのとてつもない魔力は、一体なんなんだ!」


 あー、もう、めんどくせぇ。

 こうなったら……。


「俺はね、人間なの! 魔族じゃないの! しかもね、この世界の人じゃないの!」

「……はぁ!?」

「あの乗り物あるでしょ? あれに乗って、この世界に来たの!」


 俺はリコの家の前に置いといた、ピザ屋のバイクを指差した。

 ……こういう設定でいいだろ。


「ふっ、ふざけるな! じゃあどうして、人間のお前が魔力を持っている!」

「元の世界で、あんたとそっくりな人に振られたの! で、人間に絶望して魔力持っちゃったの!」


 あー、恥ずかし。

 でも、ここまで言わないと、信じてくれなさそうだしな。


「振られた……? たかがそんなことで、魔力を持ったのか?」

「ほっとけ!」

「……十七年間生きてきて、これほどびっくりしたのは初めてだ」

「十七? 俺と同い年かよ! しかもますます仲村(なかむら)いずみじゃねーか!」

「……なるほど、そのナカムラに振られたのか」

「ほっとけ!」


 あー、イライラする。

 また魔力上がっちゃうんじゃねーか? これ。

 んっ? リコが近づいてきたぞ。

 しかも涙目で。


「……アサノさん、今の話……本当ですか?」

「えっ? ああ、大体は……」

「……元の世界……帰っちゃうんですか?」

「いっ、いや、帰り方も分かんねーし、まだ当分いるよ」

「……そうですか」


 そういえば、リコにもこの話はしてなかったな。

 いきなりこんな話を聞いて、びっくりしたんだろうか。

 まぁとりあえず、イズには帰ってもらおう。


「とにかく、話聞いたろ? 俺は勝負も試合もしねーから」

「……フン」

「俺達この後仕事なんだ、とっとと帰ってくれ」

「……分かった、邪魔したな」


 そうすると、イズはレッドドラゴンに乗って帰っていった。

 ……ようやく帰ってくれたか。

 まったく、朝っぱらから迷惑な人だぜ。



 ――で、俺達はしばらくしてから、魔王城へと出勤した。

 途中でルームちゃんを拾い、もちろん今日も、ドラゴン・ピザの開店ですわ。


「コラー! マリナ!」


 今日も注文はそこそこ入り、俺は早速てんぱって忘れ物をしたマリナを怒った。

 忘れ物をしたら、お店へ連絡、これ基本。

 別便の方が、お客様を待たせずにすむからな!

 マリナは、そのまま忘れ物を取りに帰ってきたから怒る、これ当然。

 イオールさんが、俺を鬼のような形相で睨んでいるな。


「魔王様、どんまいです!」

「……ありがとう、リコ」

「元気だしてください、魔王様!」

「……ありがとう、ルーム」

「ご主人様は、ちょっと厳しすぎるニャ」

「貴様、そうだぞ! 分かっているのか!」


 リコも、ルームちゃんも、マリナとだいぶ打ち解けてるな。

 てか、厳しすぎるって……。

 お前ら! サービス業舐めんなよ!


「アサノ、忘れ物を届けに行ってきてくれ」

「はぁ? 俺は一応店長ポジションだぞ? 帰ってきたならマリナが行けよ!」

「はっ、恥ずかしいだろ! わらわは魔王だぞ!?」

「はいでました、お得意の魔王だぞー」

「貴様! 魔王様を愚弄する気か!」


 イオールさんのお怒りにも、もう慣れたわ。

 おや? マリナの顔が、真っ赤だぞ?


「……その、あれだ、おっ、お客様の目の前で忘れ物に気づいて、無言で帰ってきたのだ」

「ってことは、お客様にあやまりの言葉もしてないのか!?」

「うっ……うむ」

「コラー! マリ――」

「魔王様、かわいいです!」


 リコさん、何を言ってるんですか?

 お客様を待たしてるんですよ?

 てか、みんななんで笑ってるのよ。

 そりゃ、魔王のマリナが、顔真っ赤でしょぼくれてるのは笑えるけど。


「アサノさん、行きましょう!」

「……まったく」


 ……でもまぁ、笑顔の耐えない、いい職場になってきたな。

 最初は魔王と働くってのもあって、俺以外のみんなは重たい雰囲気だったし。

 これはこれで、いい事だな。

 でも、お客様を待たせちゃいけませんよ!


「リコ、とばすぜー!」

「はいっ!」



 ――で、本日の営業終了。

 俺達はクローズ作業を終え、リコの家に帰ってきた。

 いつも通り晩御飯を食べ、しばらくしてから寝床に入る。

 時刻は、二十三時半。

 いつもリコとロニはベッドで寝て、俺は床で寝ている。


 と、その時だった。


「う……ん……」

「リッ、リコ……?」


 なんと、リコが俺の寝床に入り、抱きついてきた。

 ……寝てる……よな?

 寝ぼけてるのか?

 腕に、リコの胸が当たってる……。

 正直、リコは妹みたいな感じだったけど、なんかドキドキしちまうじゃねーか。


「……お母さん……あったかい……」

「……え?」


 ……そうだよな、十四歳で一人暮らし。

 今まで、寂しかったんだろうな。

 なのに、いつも笑顔で、健気で、がんばって……。

 そっか、俺が違う世界から来たってのを聞いて、リコが涙目になっていたのは、驚いていたわけじゃなかったのか。

 きっと俺が、いなくなってしまうと思ったんだな。

 俺がいなくなると、たぶん使い魔のロニも消える。

 そしたらリコ、また一人ぼっちになってしまうもんな。


 ……ピザ屋で稼いで、リックを貯めて、いつかリコに大きな家を建ててやろう。

 リコのような、白い大きな家を。

 その日の夜、俺はそんなことを考えながら、眠りについた。

 そのまま、リコと一緒に。



 次の日の朝、俺はまたロニに起こされた。


「ご主人さまあああああああ!!」


 なんだよ、うるせーなぁ。

 まだ出勤時間じゃねーだろうが。

 しかも、なんでまたそんなに驚いてるんだ?

 んっ? リコも水晶玉の前で、驚いた顔して固まってるな。

 なんだなんだ?


 ……魔力……通信?


「アサノ、今日のピザ屋は中止だ」


 マリナからか。

 てか、なんでだ?


「マリナ、何かあったのか?」

「いいかアサノ、今日は魔王城に来るな」

「だから、なんでだよ?」

「今、我が魔王城は、国王軍に包囲されている」


 なっ、なにいいいいいいい!?




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