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第六話 でしょう!

「なっ、仲村(なかむら)!? お前もこの世界に来たのか!?」

「ナカムラ!? 私の名は、イズ・ムーラナーカだ!」


 おわっ! あぶねぇ!

 だから、剣はだめですって、剣は。

 とりあえず、離れなきゃやばそうだな。

 てか、イズ・ムーラナーカって……。

 この異世界、ほんとやってくれるわ。


 しかし、顔もセミロングの髪型も体系も仲村(なかむら)いずみそっくりだけど、金髪で、目の色が青色。

 そして、ドラゴンに乗ってこの剣技。

 本人じゃないのは、間違いなさそうだな。


「イズさんだっけ!? ちょっと待って! 戦いにきたんじゃないのよ!」

「じゃあ、何しにきた!?」

「ロード王に、魔族との休戦をお願いしにきたの!」

「信じられるか!」


 うはっ、火球が飛んできた。

 かわせるけど、このレッドドラゴンの火球の速さは、新手が来たらめんどくさいことになるな。

 だんだん、イライラしてきたぞ。

 なんせ、仲村(なかむら)いずみを思い出したからな。


「アッ、アサノさん!」

「なんだ? リコ」

「その……さっきから、魔力が上がってきています!」

「えっ? そんな上げてないぞ?」

「いえ、私に注いでる魔力ではなく、アサノさんの中の魔力がです!」


 あー、なるほどね。

 理由は、あのイズさんって人だよ。

 俺の振られた人、そっくりなんだわ。


「とてつもない魔力……! やはり休戦など、嘘か!」


 嘘じゃねーよ!

 まったく、とりあえずイズさん振り切って、ロード城の門前まで行くか。


「リコ、ちょっくらとばすぜ」

「はいっ!」

「待て!」


 おっ、さすがレッドドラゴン。

 がんばって、ついてきてるな。

 でも、余裕で振り切ってと。


「……速い!」


 お先にー。

 イズさんも速いけど、マリナくらいの速さだね。

 おや? 門前に、何人か出てきたな。

 まぁいいや、とりあえず降りるか。


「……まっ、魔族!?」

「勇者ムーラナーカさんの攻撃を、抜けてきただと!?」


 勇者?

 なるほど、イズさんがマリナの言ってた勇者なのか。

 どうりで、強いわけだ。


「こんちはー。ドラゴン・ピザでーす」

「ピ……ピザ?」

「はい、今日はロード王に、魔族との休戦を伝えにきました」

「きゅっ、休戦だと!?」

「騙されるな!」

「ムーラナーカさん!」


 おかえりなさい、勇者様。


「この男の持つとてつもない魔力、皆の者! あなどるな!」

「はっ!」

「だから、違うって言ってんだろうがあああああああ!!」

「うわあああああああ!!」


 あら、なんか俺から突風が出ましたね。

 イズさん以外の人が、三メートルくらい吹っ飛びましたけど。

 魔力が、大きくなったからかな?

 あなたのせいですよ、イズさん。


「なんという魔力……! 魔王……以上か!?」

「あのー、イズさん」

「なっ、何だ!?」

「はい、マリ……魔王からの、書状」

「えっ!?」


 近づいてくれなさそうだから、投げてっと。

 おっ、拾ってくれた拾ってくれた。


「……本物の書状のようだな」

「だからさっきから言ってんじゃん!」

「どうした? 勇者ムーラナーカよ」

「あっ! 大臣!」


 大臣? なんかハゲチャピンのおっさんがきたぞ。


「この者が、魔王からの休戦の書状を持ってきたと」

「……ふむ。 お主、名をなんと?」

「あっ、はい。浅野聖司(あさのせいじ)です」

「使いの者か」

「いえ、一応魔王の上司です」

「えええええええ!?」


 おっと、いくらピザ屋で上に立つからって、上司はまずかったか。


「あっ、今のは嘘です。ジョークでーす」

「えええええええ!?」


 ……これでよし。


「……書状は見た。王に伝えておこう」

「ありがとうございます! 大臣さん! ……後ですね、休戦の証って事で、皆さんにピザを振舞おうかと……」

「……ピザ?」

「はい、今魔族の間で流行っている、食べ物です!」

「……ふむ。よかろう、作ってみせよ」

「ありがとうございます!」


 よかった、なんとかなりそうだ。

 しかし、調理ができなきゃな。


「……あのー、石窯あります?」

「城の中にあるが、それが必要なのか?」

「はい、使わせてもらえれば、ありがたいんですが……」

「大臣! いくら休戦の書状が届いたとはいえ、魔族の者を城の中に入れるのは危険かと!」


 うるせーなぁ、勇者。


「じゃあ、ここでも構いません。石窯を持ってきて頂ければ、調理はできます」

「……分かった。そこの者、石窯をここに持ってこさせよ」

「はっ!」


 おおー、持ってきてくれるのか。

 よかったよかった。

 ありがとうございます、大臣さん。



 ――で、一時間後。

 俺と人型になったリコは、ピザ作りを開始した。


「んじゃ、焼きまーす」


 ギャラリーが増えてきたな。

 相変わらず勇者イズさんは、めっちゃ睨んでるが。

 とりあえず、どんどん焼くぜー。


「はい、できました。皆さん、どうぞどうぞー」


 ざわついてるけど、誰も食べてくれないな……。

 毒でも入ってるのかと、疑ってるのか?

 とりあえず、俺が食べて見せるか。


「はい、毒とか入ってないですよー。うん……うまい!」


 チーズがとろーり伸びるとことか、見せてと。


「おい、誰か食べろよ」

「いや……でも……」

「いい匂いだな。……よし、俺が!」


 きたあああああああ!!


「ささっ、お兄さん、どうぞどうぞ!」

「すっごく、おいしいですよ!」


 ナイスフォロー、リコ!


「……うっ、うまい」

「でしょう!」

「……マジか!」

「俺も食わせてくれ!」

「俺も!」


 群がってきた群がってきた。

 さすがピザだぜ!


「うっ、うまい!」

「こんなうまいもの、食べたことないぞ!」

「うめえええええええ!!」


 うひょー、なんか嬉しいな。

 ピザって、マジ凄いんだな。

 元の世界でも、売れてるのが分かった気がするわ。


 あれ? ハゲチャピンな大臣の姿が見えないけど、王様に休戦でも伝えに行ったのかな?

 まぁいいか。

 んっ? 勇者のイズさんは、まだピザを食べてないみたいだな。

 どれ、持って行ってやるか。


「イズさん、ピザ食べてみてくださいよ」

「……フン、休戦の証なら、仕方ないわね」


 あらー、ツンデレってやつですか。

 ほれ、食べてみ。


「……おっ、美味しいわね、これ」

「でしょう!」


 勇者もうならせる、ドラゴン・ピザ!

 これからも、よろしくですよー。


 さて、用件も済ましたし、そろそろ帰りますか。


「じゃあ皆様、俺達帰ります!」

「ピザ、おいしかったぜー!」

「また作りに来てくれー!」


 さっきまで戦争してたのが、嘘みたいな反応だな。

 ピザすげー。


「じゃあ、イズさん、帰りますね」

「……アサノだっけ? あんた強いわね」

「そっ、そうですか?」

「……覚えておくわ」

 

 こうして、俺とリコはロード城を後にした。

 休戦も伝えたし、ピザも振舞えたし、これまた一件落着だな!



 ――で、魔王城に帰還。


「ご主人様! あれから注文が、五件もありましたニャ!」

「おっ、マジか!」

「アッ、アサノおおおおおおお!!」


 ぬおっ、なんだ? マリナが泣きそうになってるぞ。


「どっ、どうしたマリナ!?」

「わらわが配達に行くと、皆驚くんだがあああああああ!!」

「まっ、魔王様! 気を確かに!」


 ……そりゃ、そうだろうな。

 玄関開けたら、魔王がいるんだから。

 普段は、みんなの上に立つ御身分

 驚かれて、嫌われているとでも思っちゃったか。


「気にすんな、マリナ。慣れだよ、慣れ」

「……そうなのか?」

「たぶん……な」


 うひょー、イオールさんが睨んでる睨んでる。

 まっ、五件も配達できたんだ。

 マリナもやるじゃん。



 ――次の日から、ルームちゃんもお手伝いに来てくれるようになった。

 ピザの美味しさと、魔王効果もあってか、この日から一日の売り上げが、グングン上がっていく。

 少ない日で一日二十枚くらい、多い日で一日五十枚くらいピザが売れるようになった。

 大忙しですわ。


 リコとルームちゃんは、ウェイトレスの仕事経験があるから、テキパキ動いてくれてとても助かる。

 ロニも、日に日にピザ作りが速くなって、ピーク時でも大活躍。

 マリナは、最初は忙しさにてんぱっていたが、配達にも慣れ、元々こういう仕事をしたことがなかったからか、終始楽しそうだ。

 イオールさんは未だに不服そうだが、時々マリナを見て微笑んでいるのを、俺は知っている。


 そんなみんなに給料の話をすると、楽しいからという理由でいらないと言ってくれた。

 さすがにそれじゃ悪いので、代わりにピザをまかないとして出している。

 もちろん無料でね。

 てなわけで、ドラゴン・ピザ、今日も順調です!

 

 しかし、俺はこの時、まだ知らなかった。

 ロード王に、休戦が伝わっていなかったことを。




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