第五話 友達だ
「とりあえず、千リックになりまーす」
魔王との勝負を終えて、玉座に戻った俺とリコは、魔王からお代金を頂戴しようとしていた。
「貴様! 魔王様から、リックをとるつもりか!」
そりゃとりますよ、イオールさん。
こちとら、宅配ピザ屋なんだし。
「……よい、イオール。千リックを渡せ……」
「まっ……魔王様、どうなされました? 少し、お顔が赤いですよ……?」
なんかごちゃごちゃ言ってるけど、聞こえねーな。
リックを貰って、早く帰りたいんだけど。
「……フン! ありがたく受け取れ!」
「ありがとうございます、イオールさん」
さて、リックも貰ったし、帰るか。
他の注文が入ってたら、まずいからな。
おっと、忘れてた。
魔王に勝ったから、何でも言うことを聞いてくれるんだっけな。
「魔王様、約束のあれなんですけど……」
「……そうだな、何が望みだ?」
「俺はリコとピザ屋を続けるので、専属調理師にはなれません」
「……アサノさん!」
「……分かった」
よかった、分かってくれたみたいだな。
またまた涙目で固まってたリコが、笑顔になったわ。
「じゃあ、帰ります。これからもドラゴン・ピザを、よろしくお願いしますね」
「……待て、アサノ」
「はい?」
「……もしよければ、魔王城でピザ屋をしないか?」
まさかの展開、きました。
「自慢じゃないが、我が魔王城は厨房設備もいい。もちろん専属調理師ではないから、お主の自由にしていいぞ」
「まっ、魔王様!?」
そりゃ、イオールさんも驚くわ。
魔王城の厨房を使って、ピザ屋を開けるんだからな。
「……いずれ、大きい店でピザ屋を開きたいと思ってました。本当にいいんですか?」
「うむ」
「リコ、いいか?」
「はっ、はいっ! 私はアサノさんと、これからも一緒にピザ屋ができれば、それでいいですから!」
よし、じゃあ魔王のお言葉に甘えるか。
まさしく、ドラゴン・ピザ魔王城店だな。
「……で、アサノ」
「はい?」
「もう一つ、提案があってな」
「なんでしょ?」
「……わらわと、その……友達になってくれぬか?」
あらー、魔王の顔が、真っ赤になってるぞ。
ちょっと、可愛いじゃないか。
俺と同い年で、王だもんな。
気軽に遊んだりする友達とか、いないんだろうね。
……よし。
「マリナ、そんなに気を使わなくていいぞ。俺達は勝負もしたし、もう友達だ」
「きっ、貴様あああああああ!!」
「イオールさん、お言葉ですが、友達ってのは気軽に名前で呼び合い、敬語なんか使いませんよ」
「よい、イオール」
「……はっ」
「マリナ、俺なんかでよければ、いつでも遊ぼうぜ」
「……ありがとう、アサノ」
「あっ、もちろんピザ屋で、働いてない時な!」
イオールさんが睨んでるけど、まぁ大丈夫だろ。
さて、ドラゴン・ピザ魔王城店の準備だな。
とりあえず、いろいろ聞いてみるか。
「リコ、リコ宛の魔力通信は、ここでもできるのか?」
「はい、水晶玉さえあれば、できますよ」
「ロニを、ここに召喚は?」
「できますよ、ロニちゃん驚くでしょうけど」
早速、ロニ召喚っと。
「んニャ!? ご主人様、ここはどこですかニャ!?」
「ようロニ、ここは新しい職場の魔王城だ。注文入ってたか?」
「残念ながら、入ってなかったですニャ」
悲しい現実ですわ。
んじゃ次は、魔王城の厨房へ行ってみますか。
「おおーっ、広いじゃん! 石窯も三つあるし!」
「うわー、大きい冷蔵庫!」
リコも魔王城に慣れてきたのか、ウキウキだな。
「マリナ、本当にここ使っていいのか?」
「うむ」
ここなら、もし大口の注文が入っても、楽に調理できそうだ。
しかしこうなると、従業員がもっと欲しいな。
……いるじゃん。
「なぁマリナ、配達手伝ってくれね?」
「わっ、わらわがか!?」
「うん。マリナとイオールさん速いし、手伝ってくれるとありがたいんだけど……」
「……分かった」
「まっ、魔王さま!?」
よっしゃ、配達員ゲット!
しかも、まさかの魔王直々!
イオールさんも、がんばってくださいねー。
しかし、配達員だけじゃな……。
「リコ、ルームちゃんに、お手伝いとか頼めないか?」
「うーん、どうでしょうか? 聞いておきます!」
「ありがと」
ルームちゃんがOKしてくれたら、俺、リコ、ロニ、マリナ、イオールさん、ルームちゃん。
六人体制の、ピザ屋の完成だぜ!
後は、そうだな。
迅速に配達ができる、環境が欲しいな。
ぶっちゃけ、人間領が邪魔なんだよね。
ダメもとで、マリナに聞いてみるか。
「なぁマリナ、人間と戦争中なんだっけ?」
「うむ」
「そのさ、戦争やめたりは……できないよね?」
「貴様! なぜ簡単にそのようなことが言える!」
すみません、イオールさん。
俺がいた元の世界も、戦争はありますから。
さすがに俺も、その辺は分かっているつもりです。
戦争だから、魔族も人間も傷ついてるだろうしね。
でも、できるなら、平和がいいじゃん?
これでこの世界の戦争が終わるなら、それでいいじゃん?
「……イオール、実はわらわも、戦争はやめたいと思っておる」
「まっ、魔王様……」
「元々、ちっぽけな領土争いで起きた戦争だ。お父様もお母様も、頭を悩ませていた……」
「……しかし、そうすぐには……」
「……分かっておる」
……重い話になっちゃったね、マジでごめん。
異世界に来たからって、簡単に考えすぎてたわ。
いろいろあるんだね、どこの世界も。
よし、お詫びといっちゃなんだけど、俺が一肌脱ぎますか。
「ごめんマリナ、簡単に言っちゃって。いきなり戦争をやめるってのも、無理な話だわな」
「……アサノ?」
「俺がちょっくら人間のとこ行って、休戦申し込んでくるわ」
「なっ、何を言って……」
「どこよ? 戦争してる、人間の国」
決めた。
とりあえず人間と休戦して、ピザ屋やる。
そんでもって、できるなら人間にもピザを配達する。
魔王城から届けられるピザで、人間も笑顔になるといいな。
ピザの力で、俺、この世界救うわ。
「ロード王国と、戦争はしているが……」
「OK。ロニ、今から一旦リコの家に戻って材料取ってくるから、それからピザ十人前の用意頼む」
「了解ですニャ!」
「リコ、それからロード王国に行って、ピザ作るぞ」
「はっ、はい!」
向こうにも、石窯くらいあんだろ。
休戦の証って事で、ピザを作って振舞うか!
――二時間後。
準備OK。
材料とピザピール、後マリナが書いてくれた書状も持ったし、んじゃ、ロード王国とやらに行きますか。
「ロニ、注文が入ったら、マリナとイオールさんに手順を教えて、配達頼む」
「了解ですニャ!」
「頼んだぜ、マリナ」
「うっ、うむ……」
いいね、その初配達員が出せる、独特の緊張感。
がんばってな。
「よし、じゃあリコ、行くか」
「はいっ!」
こうして俺とリコは、ロード王国の王がいる、ロード城へと向かった。
――で、人間領に来たわけだ。
見えてきた見えてきた、噂のロード城。
だいぶ遠回りをして人間領に入ったけど、今回はコロナさんみたいに誰も来ないな。
油断しすぎじゃね? 人間。
あ、ごめん、来たわ。
赤い竜に乗った、人間が。
しかも、結構はえーな。
「……やばいぞ、リコ」
「えっ?」
「リコ、白い竜じゃん?」
「はい」
「白に対して赤は、ライバル関係になる可能性があるぞ」
三倍の速さじゃなきゃ、いいけどね。
そんな事考えている間に、火球、飛んできましたわ。
「うおっ! あぶねっ! あの竜の火球、はえーな!」
「アッ、アサノさん! あの赤い竜、レッドドラゴンです!」
「はい!?」
「野生のドラゴンでも、特に速くて攻撃力が強いんです! そのレッドドラゴンを、人間が扱うなんて……!」
なるほどね、そのレッドドラゴンに乗ってる人も、黄金の鎧を着て黄金の仮面をした強そうな人だわ。
コロナさんと同じく、剣を持ってるな。
「おーい! 俺達は戦いに来たわけじゃ――」
うひょ! 火球が飛んでくる飛んでくる。
怖いわー、完全に狙ってますわー。
んっ、あれ? やばい、近づかれる。
接近戦は、まずいですよっと!
「あっ、あぶねぇ!」
ピザピールで、ギリギリ相手の剣を防御!
さすが、ロード城前。
警備する人が、強いですな。
「あっ、あのー! 俺達は戦いに来たわけじゃ――」
「問答無用!」
えっ? 女の声?
「ふんが!」
「ちっ!」
おっ、無我夢中でピザピール振り上げたら、相手の仮面に当たったぜ。
あれ? 仮面が取れたけど……。
おい、嘘だろ……?
俺が好きだった人、仲村いずみじゃねーか!!